菅政権発足、外国人労働者受け入れや中小企業再編促進も注目
菅義偉首相が9月16日、衆参両院の指名選挙を経て正式に誕生した。憲政史上最長の約7年8カ月に及ぶ在任となった安倍晋三氏の後任だけに、どのような政権のかじ取りをするかに注目が集まっているが、経済政策は基本的に安倍政権を踏襲する見通しだ。
新内閣では物流分野を直接所管する国土交通相は公明党の赤羽一嘉氏、荷主企業の領域を見る経済産業相は梶山弘志氏がそれぞれ再任。他の閣僚に関しても再任や再登板が目立つ顔ぶれで、菅首相が“安倍路線の継続”“即戦力内閣”を志向していることの現れとも言えそうだ。
国会で首相の指名を受ける菅氏(首相官邸ホームページより引用)
菅首相は官房長官などを歴任した際、物流について公の場で積極的に発言した形跡は見られず、物流政策に関しては基本的に担当省庁が物流業界などと連携しながらボトムアップで政策を積み上げていくこれまでのスタイルに大きな変更はなさそうだ。2021年度から5年間の物流関連施策の方向性を明示する新たな総合物流施策大綱は20年度中の閣議決定に向け、官民の検討会が議論を進めており、今後も粛々と人手不足対策などについて討議していく見込み。
ただ、菅首相は就任前の主要報道各社とのインタビューなどで、新内閣の目玉として、デジタル関係の政策全般を一括して取り扱う新省庁「デジタル庁」の創設に意欲を示している。デジタル改革担当相には過去、IT・科学技術担当相を経験し、自民党でもデジタル社会推進特別委員長などを務めてきた平井卓也氏を選出。組織の具体的な制度設計はこれから本格化するが、産業界などでは「平井氏起用は菅首相の本気度の強さの表れ」と歓迎する向きもある。
現状では「マイナンバー制度の改善など、まずは行政手続きのデジタル化が優先されるのではないか」と“官の改革優先”を予測する関係者が少なくないが、物流業界は「いまだ電話とファクスが幅を利かせている」(大手IT企業幹部)などと、たびたびデジタル化の遅れが関係者から指摘され、デジタル技術導入で新たな価値創出を図るDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が際立って大きい。それだけに、デジタル化重視の内閣が発足することは「物流DXへの追い風になる」(物流業界に詳しい有識者)と歓迎する声も出ている。
また、菅首相が安倍政権の官房長官の際、外国人労働者の受け入れ拡大に動いたほか、やはり就任前の主要メディアとのインタビューで中小企業の再編促進の可能性に言及している点も注目される。
日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が今年1月に公表した「ロジスティクスコンセプト」では、現在の人手不足などの趨勢が続いた場合、30年の時点でトラックドライバー不足の深刻化により営業用貨物自動車が足りず、商品全体の3割を運べなくなるとの試算を公表。こうした苦境の中、運送事業者などからは外国人へドライバー職の門戸を開くことを検討するよう求める声も出ている。
安全性担保などの点から賛否両論があり、物流業界内でもまだまだ議論が進んでいるとはおよそ言い難い状況だが、新内閣で何らかの方向性が打ち出されるのかどうか、注目を集めそうだ。
また、特に運送事業者は中小・零細企業が業界全体の約9割を占め、後継者不足から廃業を余儀なくされるケースも相次いでいる。再編促進の政策が運送業界にも及ぶかどうか、今後の経済政策を進める上で1つの焦点になるかもしれない。
(藤原秀行)