【独自取材】「リート時価総額トップ」にとらわれ過ぎず、資産の物流施設安定運用を最優先

【独自取材】「リート時価総額トップ」にとらわれ過ぎず、資産の物流施設安定運用を最優先

プロロジス・リート・マネジメント 坂下社長独占インタビュー(前編)

物流施設特化型Jリートの日本プロロジスリート投資法人の資産運用を担うプロロジス・リート・マネジメントの坂下雅弘社長(同投資法人の執行役員兼務)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

坂下社長は、同投資法人が東京証券取引所に上場してから7年半が経過したのを振り返り、物流施設特化型のJリートの存在感が格段に高まったことを歓迎するとともに、物件供給のスポンサーを担うプロロジスと連携し、引き続き運用する物流施設の質向上と規模拡大に努める意向を示した。

Jリート全銘柄の中で時価総額が一時トップになるなど、投資家の注目度が高まっていることを歓迎する一方、「最重要なのは投資口(企業の株式に相当)1口当たりの分配金とNAV(純資産価値)を上げること」との姿勢を強調。時価総額の変動にとらわれ過ぎず、資産の安定運用を最優先するスタンスをアピールした。

さらに、昨今の大規模災害続発を踏まえ、社会インフラとして重要な役割を果たしている物流施設の稼働をストップさせないよう、BCP(事業継続計画)対応の拡充に取り組んでいることを強調した。インタビュー内容を2回に分けて掲載する。


取材に応じる坂下社長

物件供給スポンサーのプロロジスと一体的に事業

――日本プロロジスリート投資法人が2013年2月に東京証券取引所へ上場してから7年半が経ちました。Jリートで物流施設特化型としてはまさに日本ロジスティクスファンド投資法人やGLP投資法人などと並ぶ草分け的存在ですが、これまでの歩みを振り返ってどのように感じられますか。
「Jリートは現在、物流特化型の銘柄数が2桁に到達するまでになりました。Jリート全体の時価総額が今、だいたい13兆円ですが、物流セクターがそのうちの2・6兆円くらいで、ほぼ2割を占めています。セクターではオフィスに次いで2番目の規模になっていますので、よくここまで順調に成長してこれたというのが率直な実感です。すごくうれしいですね」
「日本プロロジスリート投資法人が上場した当時は、ポートフォリオに組み入れている資産規模が1700億円くらいでスタートしました。それが現在は7000億円まで伸びてきて、時価総額も8000億円を超えています。上場した当時にはとても7年半でここまで成長するとは想像していませんでした」

――物流施設が投資対象として注目されているのは、日本プロロジスリート投資法人への物件供給のスポンサーを務めているプロロジスグループが全国で物流施設を大量に開発してきた存在感が大きかったのでは?
「私も8年前、社長に就任し、試行錯誤の中でリートを立ち上げていきました。Jリートの投資法人とスポンサーは一緒に頑張っていこうということで、各社事業を進めておられますが、もともとは利害が相反する立場なので、双方の立場を理解しながら連携を取るのは決して容易ではありません。物流特化型のリートの中では、日本プロロジスリート投資法人はどちらかといえば“スポンサー一体型”として、Jリートがスポンサーの力をフルに利用し、逆にスポンサーもJリートの運用がうまく行っていることをさらに利用する、というような良い回転のビジネスモデルを作り上げることができたのではないでしょうか」
「それとやはり、上場して以来、かたくなにポリシーを守ってきたのが、投資家の方々にとっての安心感と信頼につながってきているのではないかと自負しています。すなわち、国内外を問わず、投資家の皆さんの利益を考えて、優良な資産をポートフォリオに組み入れ、真面目な運用を続けていく、スポンサーもその方針を理解して開発を進めていく、ということですね。そうした姿勢がすごく定着したということではないかと感じています」

――上場当初からそうした方針だったのですか。
「そうですね。これはスポンサーとJリート相互の立場の理解がすごく大事です。Jリートでは珍しいケースだと思いますが、運用会社としての当社とスポンサーの間で積極的に人的交流を図っています。スポンサーで営業を担当してきた人間が資産運用を担う当社に来たりと、ローテーションも結構行っていて、それぞれの立場、それぞれの業務で気を付けていかないといけないポイントが、相互にしっかり理解できることにつながっていると思います。本当に、これほど人事交流が多いリートは少ないんじゃないでしょうか。事業のトータルとして見れば非常にプラスとなっています」

――日本プロロジスリート投資法人は今年7月、Jリート全63銘柄の中で時価総額が初めてトップとなりました。その後もたびたび首位に躍り出ています。
「おかげさまで、これまでは物流セクターの代表的な銘柄の1つだったのが、Jリートの代表的な銘柄の1つになったね、といったことは言われるようになりました。本当にありがたいことですし、ますます襟を正していかないといけないと気を引き締めています」
「ただ、時価総額トップは最終的に目指してきた場所ではありません。われわれとしては、物流施設は安定的な収益が確保できる不動産のセクターだということを投資家の方々にしっかり理解いただき、ご賛同を得て、長期で投資してくださる方を増やしていくことを第一に考えてきました。そもそも、今回われわれが時価総額で一番になったのも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でオフィスのセクターが過小に評価されてしまっていたことも大きいと思いますので、そこはあまり気にはしていません」

――時価総額が最終目標ではないとのことですが、直近で最も重視にされている目標は何でしょうか。
「これは以前から変わっていません。Jリートにはいろんな種類の投資家の方がいらっしゃいますが、突き詰めていけば、長期にわたって資産形成していくことを重視されていますから、やはり安定的に、中長期にわたり分配金(配当)を出していくのが最も重視すべきことです。上場以来、投資口(企業の株式に相当)1口当たりの分配金とNAV(純資産価値)の2つをしっかり上げていくことに取り組んできました。分配金は7年半で40%くらい増額しましたし、NAVも約2倍になっています。日本プロロジスリート投資法人も規模が大きくなり、成長率という観点では鈍化するのはやむを得ないかもしれませんが、安定性は増していますから、さらに分配金を着実に上げていけるような運営をしたいですね」
「コロナ禍で不動産のいろいろなセクターが影響を受け、分配金が下がるJリートも出てきていますが、幸いにして物流施設は需要が伸びており、ネガティブな影響は少ない。今後いろいろな状況の変化があったとしても、着実な成長を堅持していくのが一番の使命です。資産規模はもう少し大きい方が運用の安定性もさらに増しますから、これまでの成長戦略を引き続き推進していきます」


今年2月に310億円で取得したプロロジス開発の物流施設「プロロジスパーク千葉1」(千葉市、プロロジス・リート・マネジメント提供)

防災対応は「第2フェーズ」に

――今後の対応で新たに取り組むことはありますか。
「大きくは今までと変わるところはありません。物件のポートフォリオのクオリティー、運用の安定性を維持していくのが一番です。その中でも特に、最近は大規模な自然災害が増えてきていることへの対応が不可欠です。もともとスポンサーのプロロジスが免震設計など災害に強い施設を作ってきました。東日本大震災の際にその効果はありましたが、同時に、オペレーション上いろいろな問題があるということも分かりました。施設を保有、運用するのはJリートなので、既存の施設で非常用の電源や水、トイレなどの設備に費用を投じて備えを行ってきました。しかし、ここに来て、従来の想定を超えるような深刻な被害が発生してきているので、もう1回、防災対策のレベルを引き上げていかないといけないと痛感しています。各地の物流施設の現状調査を進めており、必要な対策を適宜打っていきます」
「もう1つは、物流現場の自動化の流れの中で、われわれの施設はさまざまな自動化の設備に対応できるようなハードだと思いますが、この部分でもトップを走っていけるよう、レベルアップできるところは着手していきたいと考えています」

――防災面で調査結果を踏まえた対応は、いつごろ現場へ落とし込んでいきますか。
「これは災害の危険度が高いものから順番に、ということなので、随時やっていけると思います。もう既に着手している部分もあります」

――スポンサーのプロロジスと連携して進めるイメージでしょうか。
「そうですね。スポンサーと一体になって、さまざまな部署を横断したBCP(事業継続計画)対応のチームを結成しています。既存施設のBCPは保有・運営しているリート側がリードして進めていく必要がありますので、われわれもいろんな立場の人間が集まっています」

――入居企業からもBCP対応の声が高まっているのに対応する形でしょうか。
「どちらかというとわれわれの自主的な対応ですね。先手を打っておくという感じです。東日本大震災の後、全国の物流施設の中で優先順位が高いものから順番にBCP対応を施してきました。昨年くらいでだいたい第1フェーズを終えたので、最近の災害の傾向を踏まえて、第2フェーズとして対策をレベルアップしていかなければいけないと感じ、模索を始めました」

――第2フェーズでは具体的にどういったことに取り組みますか。
「例えば、電源にしても、これまでは非常時でも72時間は対応できるものという想定でしたが、さらにそれをもう少しレベルアップし、より長時間対応できるようにする方法はないかということを検討しています。水害の想定にしても、50年に一度の規模を想定していたものを、もう少しレベルを上げて、近隣に存在している大きなメーンの川からの災害だけではなく、支流は大丈夫かというところまで含めて検討しているところです」

――そこまで細かく目配りしないと物流施設の価値を高めていけない時代になっているということでしょうか。
「やはり、われわれは物流施設という社会インフラを担っていますので、安全性を守っていくのは一番大事なことですし、物流施設専業ですからBCPでも業界をリードしていく使命はあるのではないかと考えています。Jリートとして成長していくことはもちろん重要ですが、守りを固めていくことも非常に重要です」

(本文・藤原秀行、写真・中島祐)

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