官民検討会が提言了承、「簡素で滑らか」など方向性3点明示
国土交通、経済産業、農林水産の3省は12月22日、東京都内で「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」(座長・根本敏則敬愛大教授)の会合を開き、2021年度から5年間にわたる物流関連政策の姿を示す次期総合物流施策大綱の内容に関する提言を了承した。
12月4日の前回会合で示した原案にメンバーの意見を反映させ、文言を一部修正したが、内容は基本的に踏襲した。進むべき方向性として、業務のデジタル化や標準化を推進してサプライチェーン全体の徹底した最適化を図る「簡素で滑らかな物流」、労働力不足対応と物流構造改革を図る「担い手に優しい物流」、強靭で持続可能な物流ネットワークを構築する「強くてしなやかな物流」の3点を明示。
かねてデジタル化が遅れていると指摘されている現状を踏まえ、官民を挙げて「物流DX(デジタルトランスフォーメーション)」を旗印に掲げて強力に推進していくよう要請した。
大綱は1997年に5年計画として初めて閣議決定。その後、経済情勢の変化などを踏まえて内容を計4回改定しており、現行の計画は17~20年度が対象となっている。政府は提言の内容にのっとって次期大綱を策定、21年春をめどに閣議決定する予定。
根本座長は会合の終了に際してあいさつし、「検討会に(物流DXなどの改革推進に向けた)総決起集会のような雰囲気が出てきて、非常にうれしく思う。提言に盛り込まれた施策を皆さまとぜひ実現していきたい」との決意を表明した。
現行大綱の取り組みは「いまだ道半ば」
提言は、物流施策を進める前提として、15年から50年にかけて生産年齢人口が約2400万人、若年人口が約520万人減るなど人口減少がさらに本格化していく上に、災害の激甚化・頻発化といった課題にも直面していると指摘。新型コロナウイルスの感染拡大で顕在化したサプライチェーンの寸断、物資の供給停滞といったリスクについても言及した。
こうした現状を踏まえ「国民生活と将来のわが国の発展を支えるために不可欠な物流、わが国産業の成長をリードする物流を作り上げていく必要がある」と次期大綱策定の意義を明記した。
現行の大綱に関しては、荷主企業や消費者の間で物流の重要性について理解が深まり、具体的な取り組みに結び付いてきたことを大きな成果としてアピールする一方、物流業の労働生産性がいまだ全産業平均を大きく下回り、トラックの積載効率も低下するなど、取り組み自体は「いまだ道半ばであると評価せざるを得ない」と厳しい見方を示した。
今後の物流施策の方向性として、コロナ禍で社会が劇的に変化していることを踏まえ、現大綱が重視している災害などに「強い」物流だけにこだわらず、環境変化へ柔軟に対応できるようにすることも重要との認識をにじませた。
「担い手がゆとりを持って働ける魅力的な産業に変貌」目指す
今後の具体策として、「簡素で滑らかな物流」はデジタル化や自動化・機械化の促進を柱に据え、物流施設へのロボット導入支援、トラックの隊列走行・自動運転実現に向けた取り組みの推進、合理化の遅れが指摘されている加工食品分野での標準化推進体制整備、多様なデータを活用できる基盤の構築、物流DXを担える高度な知識・技術を持つ人材の育成と確保などを列挙した。
「担い手に優しい物流」は、24年度からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用となるのを控え、国交省が告示した「標準的運賃」の浸透による労働環境改善、「ホワイト物流」推進運動の継続、ダブル連結トラックの導入による行鵜負荷軽減などを着実に実行すると明記。ドライバーの長時間労働を確実に改善し、「担い手がゆとりを持って働ける魅力的な産業に変貌する」ことを目指すスタンスを示した。
他にも、共同輸配送や貨客混載の拡大、ドライバー以上の高齢化・人材不足が目立っている内航海運の船員確保、女性や高齢者、外国人といった多様な人材が活躍できる環境整備などを盛り込んだ。
「強くてしなやかな物流」は、コロナや大規模災害でサプライチェーンが途絶した経験を考慮するとともに、地球温暖化対策やSDGs(国連の持続可能な開発目標)が産業界で一段と求められている潮流を念頭に置き、災害発生時に機能する海上交通網の維持、トラックの大型化に対応した道路機能強化、国際コンテナ戦略港湾政策の推進、モーダルシフトの拡大、各輸送モードの低炭素化・脱炭素化促進などを打ち出した。
(藤原秀行)