【独自取材】大和ハウス工業、21年度も次世代物流施設開発に注力

【独自取材】大和ハウス工業、21年度も次世代物流施設開発に注力

スタートアップ企業と連携継続、新技術活用を積極検討

大和ハウス工業は2021年度も引き続き、次世代の高機能な物流施設開発に注力する方針だ。都市圏と地方エリアの双方で開発の機会を探る従来の基本姿勢を堅持。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大で物流現場の密集を防ぐことが重要になり、自動化・省人化のニーズが荷主企業や物流事業者の間で高まっているのを踏まえ、物流施設入居企業の業務機械化やデジタル化をより強力に後押ししていく構えだ。

一方、物流施設開発・運営の海外展開も継続していく方針。既にプロジェクトを手掛けている東南アジアに加えて、米国への進出を模索している。これまでにも現地の開発用地を視察するなど準備を重ねてきたが、コロナ禍で渡航が大幅に制限されており、担当者が現地に赴くのが困難なことなどから中断を余儀なくされている。

ただ、米国内ではインターネット通販の利用増加などで先進的物流施設への需要が今後も見込まれると判断。コロナ禍が現状よりある程度沈静化した後をにらんで布石を打っており、仕切り直しのタイミングを図っている。


千葉県市川市のナイキ物流拠点「The DUNK」で大和ハウス傘下のアッカ・インターナショナルが運営しているギークプラス製ロボット「EVE」

ロボットなどのシェアリングはまず小規模スタートか

物流施設関係の技術革新の面で大和ハウス本体とともに推進役となっているのが、グループのダイワロジテックを軸としたさまざまなスタートアップ企業だ。ダイワロジテックの傘下には物流システム構築のフレームワークスやモノプラス、EC向けフルフィルメントサービスを提供しているアッカ・インターナショナルが存在しているほか、物流現場効率化のソリューションを開発しているGROUND、トラック予約受付サービスなどを手掛けるHacobuといったスタートアップ企業とも協力関係を構築している。

各社が持つ多様な技術や知見を結集し、AGV(自動搬送ロボット)などの自動化機器を導入しやすい物流施設の設計確立にかねて取り組んでいる。例えば、ワンフロアを広く取ることでAGVが効率的に動ける環境にしたり、将来の自動化設備活用を見越して電源容量をあらかじめ大きく設定したり、ロボットがピッキングする商品を確認する際の画像認識に支障をきたさない明るさを確保できる照明を使ったりすることを検討。こうした内容をマルチテナント型物流施設の標準的な設計としていくことを視野に入れている。

大和ハウスではかねて、マルチテナント型物流施設を利用する企業の間でロボットなど自動化設備を共有し、使った分だけ料金を支払う従量課金制のシェアリングを検討。ロボットが異なるフロア間をエレベーターも使って自動に行き来し、テナント企業間でロボットを融通し合うような姿も念頭に置いてきた。

ただ、入出荷の際に使うケースのサイズや商品の荷姿などは業種によっても大きく異なるため、多数のテナント企業間で一斉にシェアリングするのはハードルが高いのが現実だ。そこで、まず取り扱っている商品が似ているといった少数の荷主企業間でシェアリングを始め、次第に規模を広げていくことを目指している。

同社で物流施設開発を担うDプロジェクト推進室の井上一樹室長は「自動化・省人化の話は新型コロナウイルスの感染拡大もあって、デベロッパーとしても避けては通れない話になっている」と強調する。さまざまな自動化機器をよりスムーズに活用できるよう、次世代高速通信規格「5G」を特定のエリアで導入、高速通信を実現する「ローカル5G」を物流施設に展開することも検討課題となっているようだ。

海外展開はブラックストーンの協力に期待

大和ハウスは今年7月、米投資ファンド大手のブラックストーン・グループと欧米での物流施設開発・投資事業の促進で協力する協定を締結した。物流施設への投資経験が豊富なブラックストーンの協力を得て、米国の現地事情を把握できる体制を整備。米国内の優良なデベロッパーとの関係構築などを視野に入れている。

大和ハウスグループは19~21年度を対象とする現行の第6次中期経営計画で、海外売上高を18年度実績の2785億円から最終の21年度には約1・4倍の4000億円に伸ばす目標を掲げている。コロナ禍の影響で目標達成には不透明感が出てきているが、中長期的には海外事業を伸ばしていく路線に変化はない見通し。物流施設に関しても同様のスタンスだ。

既にインドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムで物流施設開発を手掛けており、今年9月にはマレーシアのクアラルンプール近郊でマルチテナント型物流施設の開発計画を発表、同国では2棟目となる。他の東南アジア諸国への展開も念頭に置いており、近年需要が高まっているコールドチェーン(冷凍冷蔵)への対応に強い意欲を見せている。

井上室長は「サプライチェーンがグローバル規模で拡大を続けており、東南アジアに加えて北米地域の重要性も増している。コロナ禍で厳しい状況にはあるが、当社内の海外事業部など関係部署が連携し、準備を進めていくことに変わりはない」と指摘する。

Dプロジェクト推進室の山本岳史推進グループ課長は「海外の新たな市場に出ていく際、どうしても当社の知名度の問題があるだけに、現地の事情をよくご存じのブラックストーン・グループの協力を得られるのは大きい。マルチテナント型とBTS型の両方を検討したい」と語る。

米国で物流施設開発を始める場合には、現地の有力デベロッパーと共同でプロジェクトを進める形態などが検討される見通しだけに、ブラックストーンのネームバリューを生かせるのは強みになりそうだ。大和ハウスは米国の展開を見極めた上で、欧州での事業展開も視野に入れていくとみられる。


マレーシアで2棟目となる「DプロジェクトマレーシアⅡ」の完成イメージ(大和ハウス工業提供)

(藤原秀行)

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