国交省が中長期的な政策「PORT2030」でシンポジウム
国土交通省港湾局は11月13日、東京都内で、今年7月に港湾に関する中長期的な政策の方向性を示す「PORT2030」を取りまとめたのを受け、将来の港湾の在り方を考えるためのシンポジウムを開催した。
登壇した有識者や海運業界関係者らは、ITの積極活用による業務の効率化・高度化などを盛り込んだ「PORT2030」の内容にはおおむね賛同しつつ、船舶の大型化に対応しきれていないといった課題を挙げ、国際競争力を高めるためにも着実に、かつスピード感を持って施策を進めていく必要性を指摘した。
シンポジウムで行われたパネルディスカッション
IoTやAIを駆使した「スマートポート」を目指す
「PORT2030」は2030年に日本の港湾が担うべき役割として①列島を世界につなぎ、開く港湾「コネクティッドポート」②新たな価値を創造する空間「プレミアムポート」③第4次産業革命を先導するプラットフォーム「スマートポート」――を設定。
日本と海外を結ぶ輸送網構築、ITを活用した機能強化、港湾の建設・維持管理に関する技術の海外展開促進などを列挙した。
具体的な理想像として、
▽IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を駆使して各種オペレーションを効率化し、利便性を高めた「AIターミナル」
▽ターミナル内で船舶の自動運航やシャシーの共同管理などを展開し、物流コスト低減と輸送リードタイム短縮に貢献する「次世代高規格ユニットロードターミナル」
▽貿易手続きや港湾運営に関する全情報をデジタル化した「サイバーポート」
――などを打ち出した。
24時間365日稼働の実現やクルーズ船誘致を訴え
シンポジウムでは、盛り込んだ将来像を実現するための筋道を探るためのパネルディスカッションを実施。政策研究大学院大学の家田仁教授がコーディネーターを務めた。
邦船大手3社の定期コンテナ船事業を統合して誕生したオーシャンネットワークエクスプレスジャパン(ONE)の木戸貴文社長は、船舶の大型化の流れに日本の港湾が対応し切れていない実情などを踏まえ、港湾の国際競争力を高めるために24時間365日稼働を実現し、関連業務のIT化も進める必要性を指摘。「アジアから日本に貨物を持ってきて積み替えるトランシップがこれから向かうべき姿だ」との見解を示した。
四国開発フェリーの瀬野恵三副社長は、内航海運について、トラック輸送からのモーダルシフトの重要性が進化していると解説。運航・操船のストレスフリーを図るために船舶の自動運転などの取り組みを進めるよう訴えた。
同時に「水は壊れない」との表現で、フェリーやRORO船を活用してトラックを運び、異なるモードをつなげてドア・ツー・ドアの一貫物流を提供していく価値を強調。さらに、船舶の速力別に“海上交通レーン”を設けることで、少ない人員でも安全航行ができるようにすることを提案した。
クルーズ船を運航しているプリンセス・クルーズの市川紗恵ディレクターは、クルーズツアーを利用する人が増えている状況を紹介。「これから10年で新たに世界でクルーズ船を100隻作ることが内定しており、その中心は10万トン以上の大型客船。需要がますます活発化していく」と語り、港湾の活性化にはクルーズ船活用が不可欠とアピールした。
「港が町を作る」実例を紹介
東京理科大の橘川武郎教授は「港が町を作る」「港の特徴を生かして産業の強さを引き出せる」との持論を展開。その事例として、宮城県の釜石港は旧来の鉄鋼に絞っていた“特定少数企業の特定品目を大容量で扱う港”から“不特定多数企業のあらゆる品目を扱う港”に転換したことで取扱量が大きく伸びたと説明した。
他にも大分港は石油コンビナートを背後に控え、20メートル以上の水深を持っているために巨大タンカーが直接接岸できるという強みを持っていることなどに触れ、港湾の有効活用の道筋を示唆した。
内閣官房IT総合戦略室・副政府CIOを務める神成淳司慶応義塾大教授は、港湾関連の業務をITで簡素化・効率化していくことが改革を進める上での起爆剤になる可能性があるとの見解を提示。「プラットフォームを共通して整備し、それぞれの港、それぞれの組織の方々が自分たちの業務に集中できる環境をつくることで最終的に競争力を高めていく」との構想を明らかにした。
家田氏は5人の意見を基に、「日本のゆったりとしたペースで変革していくのではなく、日本の標準よりは一歩早く取り組みを進めないといけない。港を進化させる必要がある。クルージングも1つの大きなポイント。港の空間を作り直していくことが重要」などと締めくくった。
パネルディスカッションに先立ち、女優の坂本三佳氏と京都大経営管理大学院の小林潔司教授(土木学会会長)が基調講演。坂本氏は人気テレビ番組「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターとして世界中を訪れた経験から、海外の海や港が持つ魅力に触れた。
小林氏は「激動する国際情勢と港湾の将来像」をテーマに、日本の港湾が競争力を高めるためのヒントを提示した。
(藤原秀行)