ANACargo・末原常務取締役インタビュー、輸送事業者と連携し「空陸一貫」拡充に意欲
※本文中、「コンテナなどにブランドのマークを添付し、PRにも努めています。」は「商品の購入者に届く輸送ボックスや小売店舗の店頭陳列商品にブランドマークを貼付し、PRにも努めています。」に訂正させていただきます。深くおわび申し上げます。
ANACargoの末原聖常務取締役(国内貨物部門担当)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
末原氏は、新型コロナウイルスの感染拡大後、旅客利用の激減で航空便運航を減らすなどの対応を取っているため、輸送スペースも例年より縮小しているものの、国内外ともに需要自体は回復してきていると説明。コロナ禍が落ち着いた後もにらみながら、航空貨物の利用予約を容易に行えるウェブサイトの利用促進などに取り組む姿勢を示した。
また、既に連携しているCBcloudをはじめ、さまざまな輸送事業者と協力して「空陸一貫輸送」の利用促進へ新商品開発などを加速していくことに強い意欲を見せるとともに、「航空貨物は魅力ある輸送手段ということをぜひ知っていただきたい」と認知度向上への決意を表明した。主なやり取りを紹介する(インタビューは昨年末、ソーシャルディスタンスの確保などコロナ対策を講じた上で実施)。
インタビューに応じる末原氏
システム刷新と新予約サイトがキラーコンテンツに
――航空業界は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を最も大きく受けている業界の1つです。ANAグループも業績が厳しいですね。
「2021年3月期は連結純損益が5100億円の赤字と過去最大幅になる見込みです。特に旅客需要は国際線で蒸発してしまったと言ってもいいような状況に陥りました。国内線は徐々に需要が戻ってきているものの、計画通りには行っていません」
――そうした中で、貨物事業はいかがですか。
「国際線はマスクなどの緊急物資の輸送需要が増えたのに加え、(昨年の)夏以降は完成車や自動車部品、半導体・電子機器などの需要が回復してきたこともあり、ほぼ前年並みの水準に戻ってきました。国内線も経済活動の再開に伴って需要が回復していますが、旅客便が減少していることで輸送スペースが小さくなっているため、需給は締まってきています。前年同期比で1割程度まで縮小してほとんど貨物を運べなかった(昨年の)5月ごろに比べればスペースは持ち直してきていますが、まだ満足できるだけのスペース提供には至っていないのが率直なところです」
――旅客需要の回復時期がいまだ見通せない中、ANAグループとして貨物への期待が大きいのでは?
「その通りです。当社としてもフォワーダーの皆さんや関係各位と調整の上、貨物が見込まれる時間帯の便は機材を大きくするなどしてスペースの確保に努めています。国際線でも貨物専用機の臨時便やチャーター便を設定するとともに、旅客機を使った貨物臨時便も展開するなど、国内外でスペースをいかに確保していくかに注力しています」
――貨物輸送の需要自体を増やすためにどのようなことに取り組みますか。
「やはりサービス品質の向上と利便性改善のため、業務の生産性を上げるとともに新たなビジネス領域を開発していきたいですね。販売代理店やフォワーダーの皆さんとも緊密に連携していく必要があります」
「その一環として、まず3月1日の搭載分からを対象に、国内貨物の新たな予約受付サイト『ANA FLY CARGO!』を開設します(注・2月22日に公開済み)。基幹システムを27年ぶりに刷新し、従来は運送状の照会などが可能な国内貨物の情報システムと貨物輸送の予約システムが並立している状態でしたが、両システムの機能を統合し、新たなサイトで旅客機の輸送スペースの空き状況をリアルタイムで確認、迅速に予約できるようにします。併せて、運送状など関係書類のペーパーレス化も実現させます。新型コロナウイルスの感染拡大で非接触の重要性が高まっていることにも貢献できるとみています」
――貨物事業のデジタル化を加速させる狙い?
「その通りです。これまでは国内貨物運送状や危険物申告書、動物運送申告書はお客さまが紙に手書きするか、プリントアウトして作成する必要がありました。新たなサイトの立ち上げにより、運送状などの書類はウェブ上で登録すれば済むようになります。コンテナに添付するタグやばらの荷物用ラベルも、運送状の情報登録が完了すればPDFで自動作成され、印刷すればすぐに使えるようになり、作成の手間を軽減できます。サービスの販売からオペレーションまで一気通貫で行える体制を整えました。国内貨物の構造改革を進める上で基幹システムの刷新と新たな予約受付サイトの立ち上げはキラーコンテンツになると確信しています」
「最短4時間で配送可能」をアピール
――需要を増やすためには販路の拡大も課題だと思います。その点はどのように対応されますか。
「先ほどの予約受付サイトは代理店の皆さまにとっても使い勝手が向上し、これまで以上にご活用いただけるとみています。同時に、個人や企業の方々にとっても、例えば大切なペットを運ぶといったような緊急の輸送などに使っていただけるのではないかと期待しています。航空貨物は残念ながらまだまだメリットが十分認知されていないと感じていますので、ご理解いただく上できっかけにしたいですね」
「1つの活用として、『Transported by ANACargo』のブランドを創設し、農水産物を扱われている生産者などの方々向けに、航空貨物のマーケティングを強化しています。航空貨物をご利用いただくことで、例えば水揚げの翌日には海産物を鮮度が良いまま、東京などの大消費地に届けられるようになります。商品の購入者に届く輸送ボックスや小売店舗の店頭陳列商品にブランドマークを貼付し、PRにも努めています。ブランドマークを用いて視認性を高めることで、航空貨物をより多くの方々に意識していただけるようにしたい。コロナ禍で経済情勢が厳しい中、商品の差別化を支援することにもつながりますし、地方創生にも貢献できますから、ぜひ積極的にご利用を呼び掛けていきたいですね」
――19年9月にはCBcloudと連携し、「空陸一貫輸送サービス」を始めています。空路は御社、陸路はCBcloudがそれぞれ担当し、ドア・ツー・ドアで品物が届くので利用も増えているようですね。
「昨年8月にはサービスを利用可能な空港を全国33まで増やしました。実際、初めてこのサービスをお使いになって、航空貨物を使っても料金は予想していたよりも高くないということを知って驚かれる方もいらっしゃいます。需要は今後も間違いなく見込めると思います」
――他の事業者ともタッグを組んでいきますか。
「CBcloudさんとの連携をさらに強めるのと並行して、他の輸送事業者の方々とも協力していきます。今のところ、CBcloudさんに加えて5社と新たにパートナーシップを組み、『DD Express』とのブランドの下、3月1日に各社のサービスを一覧できるポータルサイトを開設、バイク便から軽貨物、大型トラックに至るまでさまざまな陸送手段と空輸を組み合わせ、全国規模でドア・ツー・ドアの輸送を実現していきます」
「この先、コロナ禍が沈静化したとしても、努力しなければ需要は右肩下がりの状態に陥ってしまいかねません。先ほどの『Transported by ANACargo』のお話もそうですが、さまざまな選択肢をご提供することで、航空貨物を身近に感じてもらえるようなることが重要です。輸送事業者の方々にご協力いただくことで、空港に荷物が持ち込まれてから最短4時間でお届けすることも可能になっています。航空貨物とはそういう魅力ある輸送手段だと繰り返し訴えていきたいですね」
(藤原秀行)