トヨタ・日野・いすゞ共同記者会見詳報(その2)
【質疑応答】
――今回の取り組みにかける思いを伺いたい。プロジェクト達成時期のめどは。
トヨタ自動車・豊田章男社長
ここにいるメンバーは3社の社長と新会社の社長ではあるが、同時に自工会(自動車工業会)会長と副会長、大型車特別委員会の委員長だ。新型コロナウイルスとの闘いで昨年来ずっと、自動車業界は復興のけん引役になりたいということでやってきた時に、一つのメッセージとして『私たちは、動く。550万人』というCMとともに、関係する5団体を結んできた。550万人の中でいわばその物流業界に関わっている方々が約半分。そんな中、今度は昨年の10月ぐらいだったか、菅義偉首相からカーボンニュートラル、それも自工会の中で、自動車業界なんとかカーボンニュートラル達成しようじゃないかという動きをやってきた。
そんな中で日本の物流の約9割を司っているのがトラックであり、先ほど申したように270万人の方がそこに関わっておられる。これは自動車業界550万人の中の約半分になる。台数で申し上げると、商用車は乗用車に比べると少ないが、走行距離という考えで行けば、保有台数では全体の2割が商用車だが、走行距離で行くと自動車全体の4割が商用車になる。
その中で、カーボンニュートラルで考えると、日本の商用車のCO2排出量は年間約7700万トンあるので、台数規模で20%だがCO2の排出量は全体の約半分になる。このカーボンニュートラルで、自動車業界全体で取り組んでいこうと言った時に、やはりこの商用車の世界に誰かが入り込まない限りは解決に行かないだろう、しかも先ほど片山社長が言われたように、物流業界が抱える課題は多頻度の物流でかつ厳しい労働環境、人手不足、負担増という負のスパイラルが回っているのが現実だと思う。今回の共同企画提案によって、このスパイラルをこの社がまずは中心となり、そしてこの3社が中心となって作る新会社が改善できれば、これほどうれしいことはないと思っている。
いすゞ自動車・片山正則社長
まず今回の3社の提携は従来の枠組みで考えた場合、なかなか考えつかなかった。先ほど私からご説明させていただいたように、 そこの中に流れる社会に対する思い、それから責任ということを考えた時に、非常に志として非常に近いものがあると本当に感じた。その時に初めて、新しい、こういう枠組みが従来に商業車メーカーだけでは解決できないような、非常に今までにないものがプラスアルファであるという部分を私自身感じていて、まさに今、商業車としてやっていかなきゃいけないイノベーションを生み出す力がこの3社の提携にはあるというふうに確信しており、非常に今自分の思いとしては、ものすごくアグレッシブな、やっていきたいという気持ちだ。
日野自動車・下義生社長
何より、先ほどの話の中でも触れさせていただいたが、本当に今、物流の中で、さまざまな課題があるということを、コロナ禍を通じても、大変具体的に感じている。従来はどうしてもメーカーの立場で良い商品を出せば、いいサービスをすれば、ということだったが、日野で言うと、1年少し前に『ネクストロジスティクスジャパン』という、自らさまざまなパートナー各社の方々と輸送を行っている。こういう現場を知れば知るほど、まだまだ全体としてやるべきことがある、今日いろいろなところにも出た、データ1つ取っても現実はつながるデータにはなっていない。それからやはり、車両と架装と荷物とドライバーが一体となって、本当に安心・安全な物流につながるという観点から言うと、本当に小さいこと、それから大きな目線を含めて、やるべきことが大変多いと思っている。
片山社長とは同じ大型車、商用車(メーカー)のトップとして常日頃からさまざまな課題についてお話をしてきた。なかなかこの2社だけでは足を踏み出せないところに、今トヨタのCASE技術を使い、しっかり貢献できる形にしていきたい、こういう枠組みができたというのは、先ほど片山社長も申し上げたが、私自身もこれは本当に新たな一歩だなと思う。われわれがまずは一歩を踏み出したが、ぜひ運送事業者の皆様、さまざまな方々とこの課題を一つでも二つでも確実に解決できる、そういったことにトライしていきたい。
大きな目線でのカーボンニュートラルについては、先ほど豊田社長がおっしゃられた通り、われわれは物流の中では自動車業界全体の4割のCO2を排出しているので、これについても責任を持って進めていきたい。
商用車のライバルをトヨタが接着
――トヨタはいすゞと一度提携を解消している。当時の考え方と再び提携に至った経緯、考え方の変化について。
トヨタ・豊田社長
以前いすゞさんがGMさんと資本提携をされていて、その後解消になった2006年から始まりました。そして当時は、やはりわれわれは乗用車メーカー、そしていすゞさんは商用車メーカー、かつディーゼルエンジンの専門メーカーという形で、小型のディーゼルエンジン開発で共通の、WIN-WINのプロジェクトがあったので、そこで進めてきたが、そういう話があまりなかったという中で、お互い別々の道で行きましょうという形で行ったが、その後、同じEVの共通のいろんな研究とかいうもので、資本提携を解消した後に、いわばそのお互い肩の荷が消えた段階で、非常にもっといいクルマづくりというか、もっといいモビリティ社会づくりでずいぶん会話が進み出したというのが現実としてある。
そんな時に、ずっと以前よりあの日野さんとも、要はトヨタグループにある価値観、そして日野の下社長をはじめ、いろいろと幹部の方とお話をしていった中で、やっぱりトヨタは乗用車、そして両社は商用車というところでなかなか、もっといいモビリティ社会とか、もっといいクルマづくりとはいうものの、なかなかその接点が見つけづらかった。
ところが先ほど私のあいさつの中でも言わせていただいたが、あくまでもメーカー目線であって、そこをユーザー目線というか、550万人、私たちは動くという物の見方、そしてカーボンニュートラルというものが大きく課題としてのしかかってきた現実から、みんながそれぞれの強みを出し合い、ユーザー目線で考えようよ、というようなことから、いすゞさんとの連携がまた始まったということだ。
いすゞ・片山社長
今お話しいただいた内容そのものだが、逆にこちらからちょっと言葉だけ少し変えてお話しすると、確かに18年の8月、資本関係を1回解消したわけだが、その時も、その話に至る両社の話は、非常に腹を割って話ができた。その時には、残念ながら事業の関係ができていなかったということで、資本とのミスマッチということでお互いに話し合った結果として、非常に腹を割って納得した状態でその時の会社になった。逆にそういう厳しいところに対して、やはりしっかりと話ができたというのは、私どもからすれば、また機会があればぜひトヨタさんと何かやりたいなっていうのは、やっぱりその時もすごく感じたし、その後、電動化のところに関してはいろんな形でお誘いをいただいた。それが今につながっている。資本関係はいったん(解消が)あったが、ずっと良い、私どもとしてはお付き合いができる相手だったということになる。
それから今回、3社に関しては、お客様目線から考えれば、日野といすゞが組むということは、必ず商業車の場合、お客様は1社のお客様というのがなかなかなくて、両者の車をお使いになっている。それは両社が組むことによって8割の車(が対象)になるので、お客様の目線から考えてもらえれば、いすゞと日野が組むということが非常にいろんな物流の改革をやっていく上で、ものすごく支えになるというか、期待していただける話ではないかと思う。
これは日野さんしかできない、これはいすゞしかできないという場合には、どうしてもお客様目線からすると、使い勝手の問題、それからシステムの統一という大きな問題を抱えていた。ただこれも、今、豊田社長からお話があったように、なかなか下社長と話す機会はあるが、やはり最もライバルということで、どうしてもお互いに様子見をするというところがあった。今回、トヨタさんが一つの非常に大きな接着効果というか、後ろからバックアップしてもらっているということが、今回の提携に至った大きな要素だったと感じている。
BtoBの分野でもCASE技術活用が可能に
――説明を聞いていると国内が重要との印象を受けたが、海外メーカーのボルボなどとの提携との違いは?
トヨタ・豊田社長
私の理解では、いすゞさんは大型トラックの分野でボルボさんと連携を深めている。日野さんはまた大型トラックの分野でトレイトンさんとやっておられる。今回、この3社で特に力を入れていこうと言っている分野はその下の部分の、中小型トラックとバンピックアップの分野だというふうにご理解をいただきたい。そういう意味では、われわれは今まで電動化とは言いつつ、自動車業界は、乗用系はどうしてもBtoCのビジネスだった。そうすると、このインフラとセットとなる商用車系はBtoBのビジネスモデルになってくるが、われわれ乗用車系、特にこのバンピックアップ系は、BtoCで作った車両を、インフラとセットのBtoBに活用していこうというような流れで行った。そして商用車の方はもともとBtoBが主軸のところなので、そちらのところでインフラとどうセットしていけばいいか。そこにCASEという、われわれの乗用系で持ってきたものを、ただ乗用系をそのまますぐ、左から右に使えば使えるかというものではなくて 商用車にずっと長年、苦労してこられたこの2社と一緒にやることによって、BtoBの分野でもCASE技術が活用できていくんじゃないのかなというふうに思っている。
先ほど、実は一緒に打ち合わせをしていた時にちょうどこの2社の競争と協調の良い例があったのでご紹介させていただきたい。私の部下に、大手の物流関係のご家族出身の方がおられ、そこではちょうどこの2社のトラックを使っておられた。その時に、まさしく私の目の前で、競争関係が非常に分かりやすく見られた。そしてこの2社にしておくと競争だけで終わったものが、私がちょっと入ったことによって、そこに協調の、なんともすがすがしいフレンドシップが生まれたわけなので、ぜひともそんな関係をリアルビジネスでもやっていきたいと思っている。
(藤原秀行)