トヨタ・日野・いすゞ共同記者会見詳報(その1)
トヨタ自動車と日野自動車、いすゞ自動車の3社経営トップは3月25日、記者会見し、小型トラックのEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)を共同開発するなど、商用車の領域で「脱炭素」実現へ連携する方針を表明した。3社トップの会見内容を複数回にわけて詳報する。
顧客のCO2排出の問題に対応
【冒頭発言】
輸送の現場で「まずやってみる」
トヨタ自動車・豊田章男社長
これまでずっと日野自動車の下社長とは、トヨタグループにおける連携強化について議論してきた。同じグループ企業でも、ダイハツとは乗用車という共通点があるので、クルマづくりで相乗効果を生みやすい面があった。これに対し、商用車は日野独自の事業であり、乗用車を基本とするトヨタのクルマづくりとの関連性を見いだすことがなかなかできなかった。
しかし、CASE革命で状況は一気に変わってきた。特に電動車はインフラとセットでなければ普及が難しいということを、燃料電池車「MIRAI」の導入で実感した。まさにやってみたから分かったということ。こういうクルマを作ればよいというメーカーの目線ではなく、CASE技術を使っていただくにはどうすればよいかというユーザー目線でものを考えるようになり、日野との協業の方向性が見えてきた。今求められていることは、CASE技術を磨き、普及させることだと思っている。そのためにはインフラとセットで商用車に実装することが最も大切ではないかという考えに至った。
そしてもう一つ、ユーザー目線で見ると、荷主の方々は日野といすゞ両方のトラックを使われている。日野といすゞが一緒にやれば日本の商業車の8割のお客様と向き合い、その現実を知ることができる、そこにトヨタのCASE技術を使えば多くのお客様の困りごとを解決できるかもしれない、そう考えて、いすゞの片山社長にご相談することにした。
もっと良いモビリティ社会をつくるためには、競争だけではなく協調していくことがますます大切になってくる。今回の協業は3社のうちどこか一つが欠けても実現することはできない。この3社の強みを生かすことにより、輸送の現場で困っている多くの仲間を助けることができるのではないかと思っている。
この想いは東北復興への願いともつながってくる。東日本大震災以降、私は毎年3月に東北の地を訪問してきた。私にできることは、震災を忘れないでいることではないか、そう考えてきたからだ。今年は震災から10年という節目の年になるので、どこの場所を訪問させていただくのがよいか悩んでいたところ、未来に向けた取り組みを進めている福島県浪江町を訪問する機会をいただいた。
現場では福島県の内堀知事や浪江町の吉田町長からも復興への思いを伺った。そこから動き出したプロジェクトがある。浪江町で製造されるグリーン水素を使っていすゞと日野のFC(燃料電池)トラックが物を運ぶ。そして、コネクティッド技術で作る、運ぶ、使うをつなげ、無駄とむらのない配送の実現に貢献していく。福島の皆様と共に運ぶ人の仕事を楽にし、使う人に新しい暮らしを提案してまいりたい。
私たちは今、何が正解か分からない時代を生きている。その中でまずやってみること、そこから次が見えてきてまたやってみる、その繰り返しでトヨタはここまで生き抜いてきた。今回は輸送の現場に入り、3社で力を合わせてまずやってみる、今まさにそのスタートポイントに立ったと思っている。ユーザー目線で現場を中心に動きだそうとしている3社の取り組みにぜひともご期待いただきたい。
課題解決で物流の担い手が増えると期待
日野自動車・下義生社長
お客様や社会の課題解決に向けて、今回の枠組みは確かな一歩を踏み出したと感じている。私自身、普段から輸送の現場の方々と接していて、皆さんの課題をもっと解決したいという思いを強く持っていた。このような観点から豊田社長とは常にトヨタと日野の連携について議論をしてきた。また、片山社長とはライバル会社の立場を超えて物流事業者の方々やドライバーの皆様の課題解決をするために、ともに協調できることがないかと話し合ってきた。このような背景を踏まえ、今回、3社の取り組みがスタートできることを大変嬉しく思っている。
ここで少し、輸送の現場についてお話をさせていただく。現在、日本には6万社を超える物流事業者の方々がいらっしゃる。日々荷物を積み込み、運び、そして届けるという大変な重労働の中でも、輸送に関わる方々は一つ一つの大切な荷物を待っている人々に確実に届けるため必死に取り組んでいらっしゃる。私たち日野自動車は輸送というライフラインの中心で働かれるお客様と同じ目線に立ち、多くの課題解決に取り組んできた。
しかし、物流を取り巻く環境は厳しく、このままでは荷物が届かなくなる日が来るかもしれない。課題の一つ目はドライバー不足。ドライバーのなり手がいないということだ。ドライバーは交通事故のリスク、長時間労働、運転以外の仕事の多さなど環境面で非常にハードな仕事だ。長距離輸送におけるドライバーの仕事は運転以外の仕事の時間が運転時間と同じか、それ以上ある。例えば、荷姿がばらばらのものを2時間かけて手積みし、5時間走行、到着地では荷受け時間まで1時間待機し、その後は検品、荷降ろしにまた2時間という事例もある。市内配送においてはeコマースの進展による多品種少量、時間指定の宅配によりドライバーの負担は増え続けている。
課題の2つ目は輸送の効率だ。輸送において最優先されるのは納入時間と場所指定であり、荷量は季節や時間帯でも変わる。そのため、効率的な輸送が行いにくく、帰りは荷物がないということもある。積載効率は50%を下回っているのが現状だ。
そして課題の3つ目はカーボンニュートラルだ。日本の輸送におけるCO2排出量を低減することはカーボンニュートラル達成に向けても必要なこと。仕事の道具であるトラックは電動化するだけでは不十分。コストを抑えつつ輸送に使い勝手の良い電動車を広く普及させることができなければ、CO2削減を達成できない。そして先ほどお話しした輸送効率の向上もカーボンニュートラル達成に向けて、輸送におけるCO2を削減するための非常に重要なファクターだ。
以上のような課題は輸送に対する世の中の期待が高まった結果だが、それに対する解決策を私たちが提示しきれていないことも事実。これらの輸送の課題を解決するには、個社を超えて強調する領域が大変多いと思っている。個社を超えたコネクティッドの連携により、待ち時間を減らすことや積載効率を上げることが可能になる。
また、今回の取り組みでより多くの事業者の方々に電動車を使っていただけるようになる。そして何より、これらの課題解決が進めば輸送の仕事に魅力を感じ、ドライバーをはじめ物流の担い手が増えることも期待できる。欲しい時に荷物が届き、人々の生活が笑顔に包まれるよう、私たちは物流事業者の皆様、そして輸送に関わる全ての方々と物流改革に向けてオープンに取り組んでいく。
イノベーションでCASEの荒波を乗り越える
いすゞ自動車・片山正則社長
私が社長に就任して今年が6年目。日々いろんな出来事が起こる中で、この間ずっと会社とは何かを考えてきた。至った結論は社外のためにイノベーションを起こす力とその姿勢ということだ。CASEという巨大な波に直面する自動車業界は、今まさにこのイノベーションが不可欠で、残された時間は少なく、待ったなしの状況だ。
また、国を挙げてのグリーン成長戦略の達成はエネルギー産業や製造業など全産業のイノベーションが実現して初めて達成できるという壮大なチャレンジだ。一つの産業の変革の遅れが全体の調和を乱すという繊細な行動でもある。商用車メーカーとして何としてでもその責任を果たさなければならないと感じ、あらゆる機会を活用してイノベーションを起こすことを考え続けてきた。カミンズ、ボルボグループとの提携もまさにこの想いで進めてきた案件だ。
日々このような思いで経営の指揮を取る中で、豊田社長、下社長とお客様、社会、そしてものづくりに対するお互いの熱い想いをお話する機会があった。これが今回の提携のきっかけになったと感じている。もちろん日野は最大のライバルで、日々世界の中で戦っており、それはこれからも変わらない。しかしその戦いの根底にはもっと物流を良くしたい、社会を良くしたいという両社共通の思いが流れている。
また、トヨタは乗用車メーカーだが、トヨタの社会をもっと良くしたい、日本をもっと良くしたいという思いに乗用車と商用車の違いはない。トヨタは創業以来、数々のイノベーションを起こしてこられた。ものづくりで言えば、KPS(トヨタ生産方式)、電動化で言えばハイブリッド、FCV(燃料電池自動車)と数え上げればきりがないほどの会社だ。
商用車を最も理解する日野と、小型商用車にも活用できる可能性が高い膨大な技術と強力な実行力を持つトヨタ。この3社で力を合わせれば、CASEの荒波を乗り越えるイノベーションを起こし、お客様にもっとお役に立てる小型トラックを、そしてそのソリューションをご提供できるのではないかと思うに至った。
次に3者で合意した技術協業についてご説明する。最初に商用車の電動化について。カーボンニュートラルは自動車業界のみならず日本の産業全体で取り組まなければならない課題であり、物流事業者様を含め、CO2削減に取り組む多くのお客様から電動化車両のご相談を頂いている。EV(電気自動車)やFCVの普及にはコスト削減やインフラ整備など多くの課題があるが、今回3社は小型トラックのEV化、FCV化に共同で取り組み、車両コストを下げるとともに福島県での社会実装を含め社会、お客様と一体になってEV、FCVの本格的な普及に取り組んでいく。
もう一つはコネクティッド。物流量増加に伴う人手不足、再配達や多忙な荷役によるドライバーの負担増、デジタル化の進展による新たな輸送ニーズの高まりなどに対応するためには、デジタル化時代の産業の大変革に応えていかなくてはならない。トラックが無駄なく効率的に動くことはカーボンニュートラルなどにも寄与する。コネクティッド技術はその大きなキーになると思う。
昨日、トヨタのプラットフォームと結び、他のパートナー様の参加も仰ぎながら、お客様の問題解決につながる商用版コネクティッド基盤を構築するとともに、さまざまな物流ソリューションの提供を考えていきたい。われわれのほかにもこの協業に志を同じくする方がいれば常にオープンな姿勢で臨んでいく。
最後に、トヨタといすゞは株式持ち合いの基本提携合意書を締結した。これはトヨタが既に行っている仲間づくりであり、この資本関係が共同技術開発の加速と成功の支えになることを期待している。
(藤原秀行)