【独自】「ハイブリッドAMRがロジスティクス業界変革の起爆剤となる」

【独自】「ハイブリッドAMRがロジスティクス業界変革の起爆剤となる」

LexxPluss・阿蘓代表取締役&秋葉顧問インタビュー(前編)

次世代の自動搬送システム開発を手掛けるLexxPluss(レックスプラス)の阿蘓(あそ)将也代表取締役と、今年8月に同社顧問に就任したフレームワークスの秋葉淳一会長はこのほど、ロジビズ・オンラインのインタビューに応じた。

阿蘓氏は秋葉氏を顧問に招いた狙いとして、物流業界の自動化・省人化をリードしてきた経験を生かし、物流DXを促進していきたいとの思いを表明。秋葉氏もこれまでに蓄積してきたノウハウを基に、物流施設や工場の搬送自動化を広めていけるようLexxPlussをサポートすることに強い意欲を見せた。

阿蘓氏はまた、ロボットの機能など情報を公開し、開発・製造などの面で協力し合うパートナー企業が順調に増えており、物流現場の自動化・省人化を進める上で大きな役割を果たすと意義を強調した。インタビュー内容を前後編に分けて紹介する。


取材に応じる阿蘓氏(上)と秋葉氏

“1台2役”で異なる現場の環境に幅広く対応

――LexxPlussは2020年創業のスタートアップで、物流施設や工場内の搬送を自動化するシステムの開発・販売を手掛けています。まず、秋葉さんがLexxPlussの顧問に就いた経緯をお聞かせください。
秋葉氏「そもそもは創業の後、LexxPlussに出資した独立系ベンチャーキャピタル大手Incubate Fund(インキュベイトファンド)の和田圭祐さんから、会社も阿蘓さんも非常にユニークだからぜひ会ってみてほしいと紹介されたのがきっかけです。そこで初めて存在を知ったのですが、阿蘓さんと話をしてみて非常に志が高いことを知り、事業の内容に興味を持ちました。その後、私がフレームワークスの社長兼CEO(最高経営責任者)から会長になった後、正式に顧問のお話がありました。ずっと同じ環境にいて同じことを続けていては私自身老け込んでしまいますし、若い方々と一緒に考えていくことができるのは非常にありがたいですね」

阿蘓氏「私も和田さんから秋葉さんのことを伺っていました。お会いした際、単にロボットを作るのではなく、お客様の課題に対してちゃんと向き合える組織体制を整備していきたいというわれわれの考えに賛同いただきました。今のことだけにとらわれず、一歩先を見ておられるんだなとの印象を持ち、顧問への就任をお願いしました。われわれは創業から時間が経っていないスタートアップなので、やれることにまだ限界はありますが、その一歩二歩先を読んで、どういうサポートができるかといったことを常に考えていただけるのがすごく有難いです。物流業界全体の自動化推進を牽引されてきた秋葉さんにご指導いただき、物流DXの変革をリードしていきたいと思います」

――秋葉さんはLexx Plussのどういう点に興味を持ったのですか。
秋葉氏「大きく言って3点あります。1つ目は純国産のロボットを手掛けていること、2つ目は様々な情報をオープンにしていること、3つ目が自動搬送ロボットにQRコードなどに沿って軌道上を走行するAGV(無人搬送ロボット)と無軌道で自律走行するAMR(自律移動型ロボット)の両方の機能を持たせている『ハイブリッド』となるシステムを備えていることです」

「私自身、フレームワークスで長年、ロボット開発のスタートアップと一緒に仕事をさせていただいたりしてきましたから、物流現場の自動化・省人化のニーズが非常に大きいことを理解しています。しかし、従来の製品は導入に時間がかかったり、機能が顧客特有の物流課題解決に必ずしも適していなかったりといったさまざまな問題がありました。それをLexxPlussは創業間もないタイミングで、純国産のハイブリッドAMRという全く新しいコンセプトを打ち出していた。これはロジスティクスの業界を大きく変える起爆剤になるのではないかと思ったんです」

――ハイブリッド型の意義はどういうところにありますか。
阿蘓氏「倉庫は日々、オペレーションが変わったり商品が滞留したりと常に環境が変化していますし、人や荷物とも同じ空間で共存します。そこで周りの人や物にぶつからず、より正確な走行をすることが求められる場合はAGVのモードに、それ以外の自由度が高いエリアはAMRのモードにそれぞれ自動的に切り替わることで、異なる現場の環境に幅広く対応できるようになります」

――ハイブリッドは創業当初から意識していましたか。
阿蘓氏「そうですね、最初のモデル機のころからハイブリッドで行こうという形になっていました。物流現場を訪問し、オペレーションを見学させていただいた際、その現場の方から、棚搬送ロボットが運んできた商品をピッキングしたところから検品までの搬送工程を自動化したい、コンベヤーは使いたくないとのご要望をいただいたんです。技術的にどうすれば実現するのかを考えたところ、フロアの全てに誘導のラインを引いてしまうのは運行に柔軟性がないし、無軌道で全部運行するのも厳しい。そこから2つを組み合わせるのがいいんじゃないか、という結論に至りました」

秋葉氏「この点、当時の現場ではプロダクトがまずあって、そのプロダクトの仕様に現場を合わせてくださいという発想になりがちだったのですが、そうではなく現場をしっかりと観察し、正確に課題を認識した上でどのようなアプローチをしていくかというところからあるべきロボットの機能を考えている。創業間もないスタートアップでありながら、ちゃんと現場を観察することができているというのはすごいと感じましたね」

――AGVやAMRは中国メーカーの攻勢が強まっているイメージですが、御社のハイブリッドAMRは性能の面で競争優位性はありますか。
阿蘓氏「もちろん、中国製品のクオリティーは高く、技術的に学ぶべきポイントはたくさんありますが、われわれの製品もハイブリッドAMR1種類でかご台車を自動牽引したり、複数のかご台車を自動的に整列させたり、重量物を運んだり、庫内でどのように走行するか“交通ルール”を設定したりと多くの機能を備えています。競争優位性はありますね。中国製は人件費が日本より安いため価格面で有利との印象が強いですが、実際には比較してみてもそんなに大きくは変わりません。もともとロボットの製造コストは半分程度がセンサーなどのパーツ費、残りがカスタム品と組み立て費ですが、人件費が直接的に影響してくるのは組み立て費の部分だけです。最近は中国でも人件費が高騰していますし、コスト全体で日本製が大きく不利ということはありません」

秋葉氏「これだけ円安が進んでいる中で、海外からロボットを持ってくることが果たしてコストの面で正しいのかどうか、という問題もあるでしょう。純日本産というのは経済安全保障の観点からも重要な要素だと思います」


「Xフロンティア佐川急便中継センター」で稼働するHybrid AMR(LexxPlussと佐川急便提供)

パートナー企業は100社見込む

――御社は2022年、パートナー契約を締結した企業にロボットの技術を無償で公開する独自のプログラム「オープン・インダストリアル・ロボティクス」を開始しました。既にロボットメーカーやシステムインテグレーター、物流事業者など35社以上と契約を結んだと聞いています。一般的なイメージではロボットメーカーは性能などの情報を自社で囲い込み、競争力の源泉にしていると思いますが、なぜ情報の公開にこだわっているのでしょうか。
阿蘓氏「もちろん全ての情報をオープンにしているわけではありませんが、ロボットの設計図や製造工程の情報をパートナーに渡し、ハードウェアを製造してもらうことで、われわれはロボットの円滑な運用に不可欠なシステムの開発に集中できます。今は国内で岩手、神奈川、兵庫の3カ所でパートナーに製造を請け負ってもらっており、年間1000台の製造能力を確保しています。われわれが一から製造するよりも、既に高いものづくりのレベルをお持ちのパートナーにお願いした方が効率が良いですし、パートナーからの改善提案もいただけます。本当に日本のものづくりは水準が高い。さらに、製造拠点を分散化できるのもBCPの観点から重要です。現状ではこの3カ所の他にも何カ所かで委託できる可能性があります。APIもオープンにし、メンテナンスなどをパートナー企業にお願いすることができます。このようにさまざまな展開が可能になってきます」

秋葉氏「既にソフトウェアの世界はソースコードを無償で一般公開するオープンソースが定着していますし、ロボットの世界でも自分たちのコアの強みが何かというのをしっかりと分かっていれば、競争領域は残しつつ情報を公開するというやり方で全然問題ないと思います。そうした考えは物流の領域でも広がっていくでしょう。みんながオープンになる中で、一企業だけでクローズにしていると世の中の動くスピードについていけなくなるのではないでしょうか」

阿蘓氏「われわれはオープン・インダストリアル・ロボティクスのプログラム開始を正式にリリースしたのが1回くらいしかないんですが、それでもパートナーを希望される企業は着実に増えてきました。パートナー企業の方から新たな取り組みのご提案をいただけるケースもあります。パートナーシップを通じて自動化・省人化のより良いソリューションを生み出したり、コストや部品調達を最適化したり、営業先を開拓したりと、まさにエコシステムが成長し、取り扱える商品も増えるなど改善が進んでいくことが期待できますし、実際、そのような成長が続きそうな予感はしています。パートナーの方々にとっても、プログラムに参加することにメリットがあると判断していただいていると思います」

――中国のロボットメーカーは顧客からの要望への対応が非常に速いという声をよく聞きます。ユーザーへのフォローアップも含めて包括的なサービスとして勝負しているように思えますが、日本はどうしても意思決定に時間を要すると言われますし、その点不利なのでは?
秋葉氏「その点も、パートナーシップを組んでいることがすごく有利に働くと思いますね。仮にお客様のところに物理的に出向くというのがLexx Plussとしては人員などの面からなかなか難しいとしても、パートナーの方々に委ねて迅速なレスポンスを担保できます。弱点を補う存在としても非常に意味がありますし、パートナーの間で多様性を実現できるというのもすごく面白い。それによって、われわれだけでは気づけなかったことを見つけられますからね」

阿蘓氏「ハードウェアの物理的なメンテナンスは、われわれだけでは到底全国をカバーできません。そこもパートナーの方々にカバーしていただけるのが非常に大きいですね。さらに、実際にハイブリッドAMRなどを現場で稼働させた際のデータをパートナーやお客様との間で共有し、運用の改善につなげることも可能です」

――パートナーシップの参加数はどの程度を目標にしていますか。
阿蘓氏「目標というわけではないのですが、2年後には100社を超えるのではないかとみています」

(後編記事はコチラ

(藤原秀行)

テクノロジー/製品カテゴリの最新記事