長野・伊那市のドローン物流、大型の無人垂直離発着機使った山小屋への物資輸送も準備

長野・伊那市のドローン物流、大型の無人垂直離発着機使った山小屋への物資輸送も準備

経産省とNEDO、活用に取り組む全国自治体首長サミットをオンライン開催

経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は6月4日、ドローンの活用に取り組んでいる自治体のトップを招いた「全国自治体ドローン首長サミット」をオンラインで開催した。

インフラ点検など先進的な活用事例を関係者で共有し、ドローンの普及を促進するのが狙い。登場した首長の中で、ドローン物流に取り組んでいる長野県伊那市の白鳥孝市長は、住民の間で着実に利用が広げっていることを報告。今年の夏から飛距離が従来比で2倍の新型機を導入するほか、新たに大型の無人垂直離着陸機(VTOL)を使った山小屋への物資輸送も準備を進めていることを明らかにした。

首長サミットは白鳥市長に加え、ドローンによる医薬品配送にトライしている石川県加賀市の宮元陸市長、橋梁点検に活用している千葉県君津市の石井宏子市長、防災の領域に投入している静岡県焼津市の中野弘道市長、オンライン医療への活用を目指している北海道旭川市の西川将人市長の計5人が参加。それぞれの取り組み事例を報告した。


首長サミットの様子(左上から時計回りに宮元氏、石井氏、中野氏、西川氏、経済産業省の藤木俊光製造産業局長、白鳥氏)

「地方が抱える課題はいつも大変だが、最新技術で解決可能」

白鳥市長は買い物困難者を支援するため、地元のスーパーから商品をドローンで運ぶ買い物支援サービス「ゆうあいマーケット」を展開していることを紹介。「既に実証ではなく実装の段階に入っている」と強調した。

ドローンで公民館まで運んだ後、商品自体は最終的にボランティアの人たちが注文した住民に手渡しで運ぶか、住民が受け取りに来ているという。白鳥市長は「地域のコミュニティー維持・強化の上でも役立っている。ラストワンマイルは人手が担うことを基本にしており(購入した人との)安否確認や会話ができる」と成果を指摘した。

取り扱っているのは約300品目で、シニア層の人でも注文しやすいようケーブルテレビの画面でリモコンを操作して商品を選び注文する仕組みを採用。代金は毎月、ケーブルテレビの受信料と合わせて決済している。飛行に際しては人通りが少ない河川の上空を通らせるなどの配慮も施している。

今後の展開として、2倍の飛行距離を備えた新型機を導入することを予定しており、運行可能な場所を広げていくことができるとみている。併せて、次の段階として100キログラムの荷物を100キロメートル運ぶことができる無人VTOLの開発を目指しており、高度3500メートルまで飛べるようにして、人力やヘリコプターの代替として山小屋への荷物輸送を担うことを構想している。林業への活用も見込んでいるという。

白鳥市長はプレゼンテーションの最後で「地方はいつも大変な課題を抱えているが、そうしたものを解決できるのが最新技術。特にドローンは無限の可能性があるので、さまざまな分野に導入していくことを考えている」と締めくくった。


白鳥市長のプレゼンテーション

ドローン活用「地元企業を非常に重視」「自治体はコーディネート役を」

宮元市長は、加賀市の精巧な3D地図を活用したAI管制システムを生かし、医薬品をドローンで配送する実証実験を展開してきたことを解説。石井市長はドローンによる橋梁点検の手法を「君津モデル」として展開していることを明らかにした。

中野市長は、ドローンを使い災害時の迅速な情報収集に当たる「防災航空隊 BLUE SEAGULLS(ブルーシーガルズ)」を運営していることを紹介。西川市長は、新型コロナウイルスの感染拡大でニーズが増大しているオンライン診療をカバーする取り組みとして、経産省などと連携しドローンで処方箋医薬品を届ける実証実験に踏み切ったことを報告した。

その後のパネルディスカッションで、宮元市長は「住民の方々にドローンが便利だと思っていただけないと社会実装は難しい。行政分野ではスピード感が非常に大事になってきており、リーダーシップが欠かせない」と指摘。ドローン活用は首長が率先して進めるべきだとの見解を示した。

中野市長は「徹底した安全管理でこれまで大きな事故はなく来ている。市民の方々からは先進的な取り組みと評価いただいている」とアピール。ドローン操縦者を市役所内で育成していることでランニングコストの抑制につながっていることにも触れた。

西川市長は自身の経験を踏まえ、「実証をしっかりと進めるためには地元自治体がコーディネート役を果たしていくことが重要。異分野の人たちと連携することでドローン活用は前進する」と訴えた。

白鳥市長は「ドローン物流に当たっては、スーパーなど地元企業を非常に大事にしている。運用にも地元の方々が民間の資格を取り実際に飛ばしてもらっている。伊那市の職員だけでは到底できない。自治体はアイデア出しと目指す将来像の提示が重要」と力説した。


ドローン活用で目指す姿を示した各首長

(藤原秀行)

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