JLL日本法人・河西社長独占インタビュー(後編)
米系不動産サービス大手JLL(ジョーンズ ラング ラサール)日本法人の河西利信社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
河西社長は、先進的な物流施設の需要はEC化の加速などを背景に、中長期的にも継続して見込まれると展望。一方で開発競争が激しくなっている影響で開発用地の取得が難しくなっており、供給面で懸念があると指摘、同社としてもコスト低減などでデベロッパーに協力し、優良な物流施設の安定供給に貢献していく姿勢を強調した。
また、物流業界の人手不足を考慮し、物流施設開発のコンサルティングに当たってロボット導入など自動化・機械化の面でも外部の専門家らと連携し、最適なアドバイスができるよう体制を強化していくことに意欲を見せた。
インタビュー内容の後編を紹介する。
インタビューに答える河西社長
用地の価格上昇を賃料に転嫁できるか
――新型コロナウイルスの感染拡大の影響は不動産市場でも無視できない状況がしばらく続くとは思いますが、今年後半から2022年にかけて、賃貸、投資の両面で物流施設市場をどう展望されていますか。
「端的に申し上げれば、いずれの面でも継続的に成長していくと思います。今後も都市部を中心にロジスティクスの開発案件が多数計画されていますが、需要は堅調で空室率は東京圏でおおむね2%を下回る水準が続くのではないかとみています。大阪圏は現状、3~4%ですが、ここからさらに低くなってくることも想定されます」
――コロナ禍に伴う“巣ごもり消費”の拡大でeコマースの利用が伸びていることが物流施設の需要を押し上げている半面、BtoBの荷物が減少している面もあります。懸念はありませんか。
「当社で取り扱っているような先進的物流施設に入居されているテナントは、都市部ではいずれのエリアでもeコマースなどBtoCの領域が多いんです。もちろん、おっしゃるようなネガティブな影響が全くないとは言えませんが、比較的軽微ではないかとみています」
「順調なマーケットに水を差すような動きがもしあるとすれば、需要の面よりもむしろ供給の面ではないかと思っています。先ほどからご説明している通り、需要は引き続き堅調ですが、その需要に応える物流施設の供給という意味では、適地を見つけられてもデベロッパーが用地を仕入れる価格が非常に高くなっています。デベロッパーは当然ながら用地の高騰分は賃料に転嫁しないと割が合いません。しかし、デフレの世の中にあって、なかなか転嫁もままならないのが現状でしょう。仮に転嫁できたとしてもテナントサイドが賃料上昇に付いてこられなくなるのではないか。そうした懸念はあります」
――なかなか難しいとは思いますが、そうした供給面での懸念への対応はありますか。
「基本的なことにはなりますが、物流施設の適地をできるだけ幅広に探すことはもちろん、当社は開発のコンサルティングを手掛けていますので、建設工法などの面でできるだけコストを抑えながら開発していく工夫は常々しています。建物だけではなくマテハン設備の活用などによる倉庫内の業務効率化を進めることで、物流施設を利用されるテナント企業にとっては継続的なコスト削減につながり、賃料の上昇分を補えるようになります。そうした部分でもお手伝いさせていただきます」
――ロボット導入などの自動化・省人化は物流業界で注目度が高まっています。そうした面でもコンサルティングを実施されていますか。
「外部の専門家の方と協力して、最適なアドバイスができるよう努めています。物流施設はそもそも、建物を造ればそれで終わりではありません。仕分けなど一連の業務に関するシステムを入れ込む必要があります。最近はこれまで物流にあまり投資をされていなかった企業が総合的に物流のコンサルティングを希望されるケースも増えています。専門家の皆様と連携し、対応を強化していきたいと考えています」
海外企業M&Aを契機にサプライチェーン再構築も支援
――物流施設マーケットは今後5年、10年と中長期的に考えても安定して発展すると考えますか。
「そうですね。もちろん、物流施設に対する需要や賃料は一定の上下が当然あり得ますが、物流施設の場合は景気が良い悪いということよりも、先ほどもお話ししたようなeコマースの普及など、世の中の構造変化に基づく投資資産という性質が強いので、構造変化がどこまで継続していくかが1つの目安になるでしょう」
「経済産業省の調査によれば、日本の場合、BtoCの取引に占めるEC化率が19年時点で6・76%ですが、この数字は欧米や中国に比べるとまだ低い水準です。同じ時点で米国は11%、中国は3割を超えるなど非常に高くなっている。そうした状況を踏まえて逆説的に考えれば、まだまだeコマース化する余地が非常に大きいと言えるでしょう。仮に5年のタームを取って考えた時に、構造的な変化に対応するためのニーズが減ることは想像しにくいと思います。EC化の流れはさらに続くでしょう」
――サプライチェーンの見直しについて言及されましたが、EC普及に加え、コロナ禍を受けて物流施設の配置見直しや供給先の分散化などの動きも続くと思いますか。
「そうした動きももちろんあるでしょう。経済の不確実性が増していますから、企業にとってはいかに在庫を適正な水準まで減らしてコストを抑制するかが一段と重要になってきます。ただ、在庫を減らせば減らすほどキャッシュを確保できますが、欠品が生じてサービスレベルが低下するリスクが高まります。これはもうクラシックな問題です。そうしたお悩みにお応えするのがまさにサプライチェーンコンサルティングです」
「物流拠点に関しても、多く構えれば配送スピードアップなどの面でサービスレベルが上がりますが、当然ながらコストも上昇します。どこに構えればサービスレベルとコストのバランスを最適化できるか、そこもサプライチェーンコンサルティングの重要な役割です」
「サプライチェーンコンサルティングの対象はインバウンド、アウトバウンドの両面にわたります。海外企業が日本に進出されるのをお手伝いさせていただくこともあります。日本企業が海外企業をM&Aするケースが非常に増えている中、M&Aの対象企業がもともと効率的な物流基盤を持っていればいいのですが、そうではない場合もありますから、M&Aを契機にサプライチェーンの再構築をお手伝いしていきたいですね」
――コロナ禍が一段落すれば、サプライチェーンコンサルティングのニーズはさらに増えてくると予想しますか。
「そもそも物流ネットワークの最適化は企業にとって常に生命線のところですので、継続的にニーズは続いていくと思っています。われわれとしても、理論的な部分だけにとどまらず、最適な物流施設を用意するところまでできるのが強みです。ロジスティクスは当社にとって最重要項目の1つと申し上げても過言ではありませんから、継続して人員の増強などに努めていきます」
河西利信氏(かさい・としのぶ)
1962年生まれ。85年一橋大卒業、90年米ジョンズ・ホプキンズ大高等国際関係大学院修士課程卒業。85年大和証券入社、英国や日本でプリンシパルインベストメント(自己投資)業務に従事。99年ゴールドマン・サックス証券に移り、日本の不良資産、不動産への投資運用に従事。ゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパン(アーコン・グループ)立ち上げに参加。2001年マネージング・ディレクター、04年パートナー。リアルエステート・プリンシパル・インベストメント・エリアの日本責任者として不動産関連投資を経験。12年4月JLL日本法人代表取締役就任。
(本文・藤原秀行、写真・中島祐)