【独自取材】“免震不適合”問題、収束めど立たぬまま越年へ

【独自取材】“免震不適合”問題、収束めど立たぬまま越年へ

物流施設の具体名公表や当該装置の交換は当面困難か

 KYBと川金ホールディングス(HD)グループによる免震・制振用オイルダンパーの検査データ改ざん問題は、当該の装置を納入した建物が全国各地に存在していたことから大きな波紋を広げた。先進的な物流施設もBCP(事業継続計画)対応の一環で免震装置を導入するケースが相次いでおり、今回の問題では当該の装置が使われている施設が現時点で全国に28件あることが判明している。

 両社や国土交通省が大きな地震が来ても性能に問題はないと繰り返し説明、沈静化に努めていることなどから、現時点では大きな混乱は見られない。ただ、当該装置の交換には相当の時間を要する可能性が大きく、物流施設開発デベロッパーの間には今後の新規開発に影響しないかと危惧する向きもある。

 具体的な物流施設名も信用問題に関わることなどから、いまだに1件も明らかになっていない。改ざん問題は物流施設開発に微妙な影を落としたまま、収束の兆しを見せることなく年を越そうとしている。


問題装置の納入先などを記者会見で説明する齋藤圭介KYB取締役専務執行役員(右)

「基準に適合するのかどうか早く知りたい」

 問題が発覚した今年10月以降、検査データ改ざんにより国の基準などに適合していないか、適合していない恐れがある免震装置を納入した物流施設は、12月28日時点でKYBグループが26、川金HDグループが2に上る。各都道府県などの発表内容を踏まえると、その多くは都市部に存在しているとみられる。

 あるデベロッパーの関係者は「問題の免震装置を納入したとの連絡は確かに受けたが、『適合しない可能性がある』というだけでは、当社単独で取り外しができるわけでもないし、なかなか対応しづらい。今すぐどうこうしないと物流施設が使えなくなるという切羽詰まった状況ではないのがせめてもの救いだが、適合するのかしないのかを早く知りたい」といらだちを見せる。

 物流施設に当該装置が使われていても、KYBや川金HDとオイルダンパー交換などの交渉をするのは施設工事を担当した建設会社が手掛ける必要があるだけに、別のデベロッパー関係者は「われわれとしては対応の推移を見守るしかない」と冷静さを失わないよう努めている。

 問題のオイルダンパーは免震、制震を合わせると1万本を超える。KYBと川金HDはそれぞれオイルダンパーの生産を増強するなどして対応する構えだが、2015年にやはり性能データ偽装が発覚した東洋ゴム工業の免震用ゴムはいまだに交換工事が終わっていない。建設業界の関係者は「東京オリンピックを控えた工事ラッシュで人手が足りていないこともあり、最低でも工事完了まで3~4年程度は掛かるのではないか」と予想している。

 問題装置が納入された建物の具体名公表もこれまでのところ、中央省庁や地方自治体の庁舎、病院といった公共施設か、民間でも発電所などの公共性が高いものが優先されている格好だ。それだけに、「オイルダンパーの交換も公共施設が先で、物流施設は恐らく後ろの方だろう」(大手不動産幹部)とのあきらめの声も聞かれる。

18年度中に有識者委員会が再発防止策報告へ

 国交省は問題発覚を受け、再発防止策を検討する有識者の委員会を設置、今年11月に初会合を開いて議論を開始した。18年度中をめどに報告書をまとめる予定。

 12月26日の第2回会合では建築基準法に基づいて免震装置に用いる材料の性能が国の基準を満たしていると国交大臣が認定する現行制度の在り方などについて意見交換した。年明けに予定される次回会合では委員会としての報告案の方向性が検討される見通しだ。

 東洋ゴム工業の問題が発覚した際は再発防止のため、免震装置に用いる材料が国の基準に適合しているかどうかの審査を強化することなどが行われた。深刻な問題が再び明らかになった今、事業者の自浄努力は言うまでもないが、国にもなぜ再発を食い止められなかったのか、丁寧な検証と説明が求められている。


有識者委員会の第2回会合

(藤原秀行)

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