官民検討会議が工程表含む報告書原案、カーボンニュートラル実現にも貢献と展望
経済産業、国土交通の両省は2月9日、世界を大きく変えたインターネットの形を物流の世界で再現し、業務効率化や省人化などを図る考え方「フィジカルインターネット」を日本の物流領域で2040年までに実現するための方策を検討する官民の検討会議「フィジカルインターネット実現会議」の第5回会合をオンラインで開催した。
会議の事務局を務める両省は、前回の会合で示した40年までのロードマップ(工程表)の概要をベースに、より詳しく説明した報告書の原案を提示。フィジカルインターネットの定義を示した上で、物流拠点の自動化・機械化に関しては、30年までを「物流DX実現に向けた集中投資期間」と設定し、ロボットや各種自動化機器の導入を促進するとともに、31~35年に庫内作業を完全自動化していくとの流れを踏襲。
併せて、フィジカルインターネットが40年に完成した場合、業務効率化などで11.9兆~17.8兆円の経済効果が見込まれると試算。政府が50年までの達成を目指している、温室効果ガスの排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現にも貢献するとみている。
出席者からはおおむね賛同を得たが、物流コスト削減を目指す方向性の部分については、物流業界にとって運賃や料金の削減につながりかねないと懸念が出るなど、さまざまな意見が出された。3月8日に開始予定の次回会合で修正案を議論する予定。
ロードマップ案(実現会議資料より引用)
「デマンドウェブ」推進にあらためて言及
報告書の原案は、現状の問題認識として、深刻なトラックドライバー不足や業務の非効率、機械化の遅れなど「物流クライシス」と呼ばれる構造問題を放置し、有効な対策を講じなかった場合、各企業活動の停滞などで30年時点に7.5兆~10.2兆円の経済損失が生じる可能性があると警告。その状況を変えるためにフィジカルインターネットの実現に取り組むよう訴えた。
フィジカルインターネットの定義として、旧来のコンピューター通信が専用回線で発信端末と着信端末を直接つないで通信していたのに対し、インターネットはデータの塊をパケットとして定義し、パケットのやり取りを行うための交換規約(プロトコル)を定め、回線を共有した不特定多数の通信を生み出したことに言及。「これを模してフィジカル、つまり物流の世界にも適用しようというのが『フィジカルインターネット』の基本的なコンセプト」と明示した。
その上で「積み替えを前提として輸送の途中にハブを設け、受け渡しする単位(貨物の規格)を統一し、物流リソースを共有化して物のやり取りをしようというのがフィジカルインターネットの基本的な考え方」と解説。構築することができれば「従来と比較して物流の効率化と強靭化が図られることになる」と展望した。そのために、物流データの共有、輸送容器の規格統一、共同輸送の拡大、物流拠点の自動化・機械化などを進める必要性を訴えた。
フィジカルインターネットを達成するための道のりとしては、前回会合で発表したロードマップの原案をほぼ維持し、25年までの「準備期」、26~30年の「離陸期」、31~35年の「加速期」、36~40年の「完成期」と分類。準備期でパレット標準化や物流EDI(電子データ交換)普及、PIコンテナの標準化などを推進することを据えた。
離陸期から加速期にかけては、計画的な物流調整や利益・費用をシェアリングする上でのルールを確立するとともに、「物流・商流を超えた多様なデータの業種横断プラットフォーム」を確立すると説明。企業や業種の壁を越え、輸送や保管といった物流の各種機能とデータを共有できるようにする方向性も打ち出した。
準備期から離陸期にかけて、トラックなどの車両や輸送機器、倉庫に加え、製造拠点もシェアして消費者の需要を精緻に予測したり、細かくニーズをつかんだりして最適な生産・物流を可能とする「デマンドウェブ」の推進にもあらためて触れた。
フィジカルインターネットの推進により、30年には7.5兆~10.2兆円、40年には11.9兆~17.8兆円の経済効果がもたらされると推計。地球温暖化対策でも30年度に物流領域のエネルギー期限CO2が13年度比で35%削減されると見積もっている。
さらに、デマンドウェブの徹底で需要に合った製品供給を確実なものとするため、食品関連事業者から発生する事業系食品ロスが30年度までに2000年度比で半減すると見積もっている。
(藤原秀行)