【独自】日本の賃貸物流施設市場は“適温相場”続く可能性大、物価上昇には配慮必要

【独自】日本の賃貸物流施設市場は“適温相場”続く可能性大、物価上昇には配慮必要

CBRE・坂口社長単独インタビュー(後編)

米系不動産サービス大手シービーアールイー(CBRE)日本法人の坂口英治社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

坂口社長は、日本の賃貸物流施設市場に関し、需要が旺盛で最適な状態の“適温相場”が続く可能性が大きいと展望。ただ、原油などのエネルギー価格を端緒とする物価上昇が市場にネガティブな影響を及ぼす可能性にも配慮する必要があると指摘した。

物流現場の人手不足で業務の生産性を高める先端技術活用が急務となっている現状を踏まえ、CBREとしても物流施設の内覧会で自動搬送ロボットを積極的に紹介するなど、荷主企業とデベロッパーの双方をサポートしていきたいとの姿勢を明示。物流施設での再生可能エネルギー利用促進にも意欲を見せた。インタビューの後編を紹介する。


取材に応じる坂口社長(中島祐撮影)

サプライチェーンの混乱で「在庫を持つ」ニーズ強まる

――日本の不動産マーケット全体の現状をどうご覧になっていますか。
「一言で表せば“適温相場”だと思いますね。過熱せず、冷め過ぎもせず、ちょうどいい状態です。例えばオフィスは新型コロナウイルスの感染拡大による在宅勤務の広がりなどを受け、空室率がやや上昇していますが、過去の平均に比べれば非常に低い。物流施設に関しても同様に、空室率は首都圏でゼロに近い水準ですが、賃料の伸びは緩やかなペースです。普通、空室率が低ければ賃料は急激に上昇するものですがそうはなっていないため、荷主企業や物流事業者の方々にとっては借りやすい。需要は旺盛ですし、そうした状態はしばらく続くのではないでしょうか」

――ただ、最近は建築費が高騰し、開発サイドには厳しい状況が生まれています。物流施設を借りる側としても新型コロナウイルスの感染拡大や資源価格の上昇などで経済環境の先行きに不安が残ります。リスクはありませんか。
「確かに、建築費やエネルギーのコストが上昇している中、賃料もより上げざるを得ない状況になった時にテナント企業がどこまで吸収できるかは未知数のところがあります。まだまだ適温相場が続くだろうという楽観シナリオが軸ではありますが、物価の上昇でちょっと潮目が変わりつつあります。個人消費が伸びなければ当然、企業の売り上げも伸びませんから、メーカーは上昇したコストを最終製品価格に転嫁するのが難しくなり、企業業績にも悪影響を及ぼします。人手不足で人件費も上昇していますし、コストダウンの要素がなかなか見当たりません。物流施設にしても、コストアップの要素をどの程度、最終価格の賃料に転嫁できるかが(賃貸物流施設市場拡大の)鍵を握るでしょう」

「ただ、もう1つ変化を感じているのは、コロナでサプライチェーンが混乱したことを受け、企業の間で在庫を持とうというニーズが出てきていることです。これまではジャスト・イン・タイムで商品を出荷し、なるべく在庫を持たないことが理想でした。しかし部品や原料の調達に支障をきたす中、物があるうちに押さえておかないといつ在庫がなくなってしまうのか分からないという心理が物流施設の新たなニーズにつながってくる可能性がある。これまでは滞留在庫を保管するのに高い賃料は払えない、という声も聞かれましたが、メーカーなどがそういったことは言っていられない、ちゃんと賃料を払って物流施設を押さえておかないといけないという捉え方になれば、物流施設市場にとってプラスになるでしょう」

――確かに最近は災害の続発で、BCPの観点から在庫を分散して持つ重要性が着目されています。最近は大阪の倉庫火災で医薬品などの出荷が滞ったこともクローズアップされました。その意味でも三大都市圏以外の物流施設展開が注目されそうですが、需要はいかがですか。
「東北や北海道、北陸でも賃貸物流施設を使いたいという話が出ていますし、実際に案件も進められています。新しく進出していくところでは、われわれは支店を持っていますから、ほぼ競合がない状態でサービス展開が可能です」

――物流施設デベロッパーの中には地方はこれまで高機能の物流施設の供給が長い間なかった分、需要が蓄積されているとの見方もあります。
「そうですね。物流施設に関しては全般的に、実際に完成したものをご覧になってから、どのように物流を展開するか、どれくらいの賃料であれば対応できるかといったことを具体的にイメージされる事業者の方が多いですから、物を作ることにより需要が生まれるということは地方でも当てはまります。ですから、優良な事例をまず1つ作ることが重要です。地方でも現物を見ていただくことが必要ですね」

――米国はコロナ禍でも経済が成長し、インフレ懸念が出ているのを受け、FRB(米連邦制度準備委員会)が昨年11月にテーパリング(量的緩和策の縮小)開始を決めました。2022年中の利上げが見込まれています。経済が新たな局面に移行しようとしています。日本の不動産市場にはどう影響すると予想されていますか。
「テーパリングは確かに株式市場が動揺しますから、日経平均も影響を受けるでしょう。ただ、日本は今、金利を上げられる状況にはないですし、よしんば上がったとしても、問題は資金量なんです。バブル経済末期、日本では日本銀行が公定歩合を引き上げましたが不動産価格の高騰に歯止めが掛からず、当時の大蔵省が不動産融資の総量規制という形で栓をして流入資金が急減し、一気にバブルが崩壊しました。逆に言えば、資金が急激に引き上げられない限り、不動産市場への影響はそれほど大きくないでしょう」

――適温相場でなくなる可能性はどの程度見込んでいますか。
「景気悪化を伴う“悪いインフレ”が起きる可能性は10~15%くらいはあるのではないでしょうか。景気が良くならないまま円安がさらに進み、食料やエネルギーの価格が上がっていくのが一番きつい展開です。そうなれば消費にお金が回らず、企業倒産が増えていく。銀行に負担が掛かり、融資が縮小していく。信用収縮につながっていく。確率は非常に低いですが、そうしたシナリオを警戒する必要はあるでしょう」

物流施設が再生可能エネルギー活用のハブに

――海外の投資家からの物流施設への注目度は依然高いですか。
「昔は海外の投資家はリターンがすぐに欲しいので時間を要する物流施設開発にはなかなか手を出さなかったのですが、今はやはり物流施設が、賃料や空室率を見ていても一番心地が良い。オフィスビルよりは開発のサイクルが短いですし、安定資産として受け入れられていると思います」

――先進的物流施設の需要のけん引役のECについてはどうご覧になりますか。
「まだまだ伸びていく余地はあると思います」

――自動化・機械化に対応するため、物流施設の在り方も今後変わってきそうです。
「人件費を抑えるためにロボットやドローンを使うといった進化はあるでしょう。ただ、やはり人が多く住んでいるエリアの近くに大きなスペースを持っておきたいという企業のニーズは、米国の動向を見ていても変わらないと思います。そこは基本線ですね」

――最近はデベロッパーがテナント企業の自動化・機械化を支援するところまで踏み込んでいます。
「われわれは物流施設のオーナーではありませんから、自分たちでそういったものに投資するわけにはいかないのですが、やはりテクノロジーの進化については知っておく必要があります。今は物流施設の内覧会でも、ロボットをはじめ物流テックを併せてご紹介すると参加される方がより多く集まるんです。非常にご関心が高いと感じますので、技術革新のところについてもアンテナを常に張って、お客様に何らかのアドバイスができるような体制にしておこうと努めています」

――ご自身で関心をお持ちの技術はありますか。
「個人的には、様々なロボットなどの機器を効率的かつ包括的に管理できる統一したソフトウエアに興味がありますね」

――御社がそうした先進的で有望な技術を持つベンチャーキャピタルの役割を担う可能性もあるのでは?
「米国では(不動産と先端技術を融合する)プロップテックのベンチャーファンドに大型投資をしています。そこから得られる知見をコンサルティングなどに生かしていくという感じですね。日本でもリード投資家として有望な技術に投資していく可能性はあるでしょう。実際、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を作ってはどうかというご提案はいろんなところでいただいていますし、スタートアップ企業からも投資の要望を受けることはあります。実際に投資できるかどうかはまだ分かりませんが、まずは先ほどもお話ししたような、内覧会などでご紹介することは積極的にやっていきたいですね。物流施設と同じで、実際にご自身の目で見てから判断していただくということが物流業界では非常に大切ですからね」

――中長期的な経営の方向性はどのようにお考えですか。
「われわれはやはり、お客様にアドバイスしていくことで収益を挙げる会社ですから、そのためには最新のトレンドを理解し、それに合った人材をきちんと配置していくのが勝負のしどころです。その努力は続けていかないといけません」

「そういう意味では、再生可能エネルギーの導入も大きなテーマです。太陽光発電は今後も需要が伸びていくでしょう。今の太陽光発電は厚みのある大きなパネルですが、5年以内に薄いシート状の物が実用化されようとしています。そうなれば軽量で、工事もより簡単になりますから物流施設の屋根がより設置場所として活用されていくでしょう。物流施設で発電し、供給していく量も増えていく。物流施設が再生可能エネルギー活用のハブになる可能性もあるとみています」

――2022年に、特に注力していきたい領域はありますか。
「やはり最初の方でもお話しした通り、グローバルサプライチェーンの変化は確実に起こると考えています。先ほどもお話しした工場の国内回帰もそうですし、海外での物流施設配置についてもその一環だと思います。変化の端緒を捕まえて、自分たちのサービス内容をその変化に合わせ、タイムリーに提供できるようにすることが物流施設にとどまらず、工場や研究施設などに関する一番のテーマです。本当にクリエイティビティを持って対応していかないといけない。産業界全体にわたって、グローバルサプライチェーンの変化への対応に貢献していきたいですね」

(藤原秀行)

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