「特定の技術に絞らず、オープンマインドで活用を検討」
フェデックスエクスプレスの日本代表に2021年10月就任したマネージングディレクターの久保田圭氏はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
久保田氏は、物流現場の人手不足などを考慮し、米国や中国では既に仕分け作業へのロボット導入など自動化・省力化の取り組みが進んでいると説明。日本でも他の地域の技術開発などで得られた知見を参考にしながら、自動化機器を有効活用していきたいとの意向を示した。併せて、特定の技術に絞らず、常にオープンマインドで多様な技術の活用を検討していくとの基本姿勢を堅持する姿勢を見せた。
ロボティクスや自動運転のほか、物流現場の稼働状況に関する大量の定量データを収集、分析してオペレーションの生産性改善につなげるヒントを発見するデータアナリティクスにも注目していると強調。業務提携しているマイクロソフトの技術も生かしていくことに意欲をのぞかせた。インタビュー内容の後編を紹介する。
「自動化・省力化は顧客と従業員の双方にとって重要」
久保田氏(フェデックスエクスプレス提供)
センサーとAIで仕分けを自動化
――物流業界は人手不足を受けた自動化・省力化が最大の課題となっています。御社の場合もそのようにお感じになりますか。
「ロジスティクス業界が全体的に、効率化・省力化へチャレンジしていかないといけない状況にあるのは明らかにだと思います。eコマースの伸びで取扱量はさらに増えていくでしょう。どうやって人と技術をうまく組み合わせて、持続可能なオペレーションをセットアップしていくかが私の大きな使命です。業界全体としての人手不足などの課題はもちろん見えてますが、フェデックスは常にお客様のニーズに応えられる体制は取っていますし、将来に向けての取り組みも、技術の面も含めて考えています」
――自動化・省力化が不可欠になっています。御社ではどのように取り組まれていますか。
「自動化やロボティクス、デジタルソリューション、自動運転といった技術を米国や中国で今、試験的に現場へ取り入れています。例えば、米国では2020年、安川電機やAI開発を手掛けるPlus One Robotics(プラスワンロボティクス)とコラボレーションし、メンフィスのハブ拠点に次世代ロボットを4台導入しました。安川電機のロボットアームにPlusOneのAIを取り入れ、荷物の自動仕分けに取り組んでいます。ケースに入った商品をピッキングして別のケースに仕分けたりしています」
「他にも、陸上輸送を手掛けているフェデックスグラウンドが米国で、物流拠点内でソーターベルトに乗せにくい大型の荷物を自動で運ぶ専用の車両を活用しています。米国はeコマースの利用が進んでいますので、ソファーや液晶テレビといった大きな商品もインターネットショッピングで購入しており、取り扱いが多いんです。こうした自動技術を取り入れていることで作業の安全性と効率性を図るのが狙いです」
「中国でも、広州のEC貨物仕分けセンターで物流ロボットを手掛ける中国のスタートアップDorabot(ドラボット)と連携し、AIを搭載したインテリジェント仕分けロボット『DoraSorter』を導入しました。日本でもロボティクス、自動運転の技術はかなり可能性を感じていますし、オペレーションの効率を上げていくという意味では、フォーカスエリアの一つでもあります。今のところまだ大々的に発表できるようなことはないのですが、常にそういった先端技術の取り入れは考えています」
――中国の仕分けロボット導入はその後、効果が出ていますか。
「試験的に導入したということですので、Dorabotと組んで作業の精度を高めていく必要があります。そのための期間を約1年間設定していますので、その結果を踏まえて次の段階に進むという流れになります。既に作業ではロボットが活躍していますが、今後の応用に向けてさらに改善していきます」
Dorabotの仕分けロボット「DoraSorter」(フェデックス提供)
――昨年7月、アジア太平洋地域では初めて、自動運転機器「Roxo(ロクソ)」を日本で紹介していました。歩道や路肩を走行して荷物を個人宅などに届けるために設計されたと説明がありました。その後の日本での取り組みは進んでいますか。
「おっしゃる通り、Roxoを公表しました。Roxoは近距離の即日配送に利用することを目的に開発されたもので、米国では使用例としてピザの近隣住宅へのデリバリーなどを紹介しているように、レストランや小売店の利用を想定しています。フェデックスが現在行っている輸送サービスとは別の新しい市場の開拓を見据えているのです。現段階では日本で走行テストを行うための許可を取得しようとしている段階です。先日発表したものは試作品で、もし日本で実験をするとなれば許可を全て取得した上で、異なる機材を用いることになると思います」
――日本でも配送ロボットが公道を走行する実験の前段階にあるというイメージでしょうか。
「そうですね。どのように試験をするのかというところも含めまして準備中ということでご理解いただければ幸いです」
――2022年中に試験までこぎ着けられそうですか。
「この機材自体が米国で作られているものでもありますし、電動立ち乗り二輪車『セグウェイ』を開発した米DEKA(デカ)がRoxoも手掛けており、DEKAと一緒に技術の向上を図っています。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もありますので、まだ明確にお伝えできるスケジュールはありませんが、自動配送の取り組みは日本で続けていきます」
――フェデックスの自動化・省力化に関しては各エリアが独自に技術開発を進めていくだけではなく、各エリアの成功例や課題をグローバル全体で共有するというイメージでしょうか。
「日本のお客様のニーズやうまく普及させる方法などについては、やはり日本で試験を重ねていかないと分からない部分があります。同時に、ご指摘のように自動化・省力化へ何ができるかということは日本や中国だけでなく、他のグローバルリージョン(地域)でも考えていることですから、各地域で行っていることが他の地域にとって大きなヒントになる。それはグローバルカンパニーの良さですから、今後もそうした点をうまく利用していきたいと思います」
「われわれは常に、お客様のニーズに対応できる技術に対し常に敏感でなければいけません。それがわれわれのビジネスの成功にもつながると思います。先ほどお話しした中国の例でも、Dorabotは倉庫内のオペレーション効率化などの分野でかなり強みを持っていることからパートナーとして取り組んでいます。同時に、自動運転の領域でも、同じ中国のスタートアップの新石器(ネオリックス)とも組んで、無人搬送車の研究を進めています。複数の届け先をカバーする配送や予約による配送といったように、複雑なオペレーションが求められる業務へ投入することも可能性があるでしょう。1つの国であれば技術も1つに限られる、というわけではありません」
「オペレーションの中でも仕分けやデリバリーの部分はやはり効率化ができる可能性が高い。その部分で新たな技術を取り入れることはオープンに考えています。われわれの従業員のためにもなることですから、日本でもその方針は変わりません」
自動運転機器「Roxo」(フェデックス提供)
「より長時間働くのではなく、より賢明に働こう」を体現
――配送ロボット以外で注目されている技術はありますか。
「これは日本に限らずグローバル全体での話ですが、輸送中の貨物の温湿度などの状況をトラッキングできる技術ですね。あとは昨年発表させていただいた、マイクロソフトの技術の活用です。マイクロソフトのクラウドソフトを使い、天候や交通状況などによる荷物配送の遅れを早い段階で察知、お客様にご連絡できるようにするといったことを想定しています。やはり、ラストワンマイル配送の効率化は大きなテーマでしょう」
「フェデックスとしてはデータアナリティクスの部分にはかなり可能性を感じており、うまくロジスティクスに取り入れていくことを考えています。マイクロソフトとは今年1月、商取引やサプライチェーン、物流の変革に向け、複数年にわたる提携の一環として、新たなソリューションを発表しました。われわれが日々得られる様々なデータと、マイクロソフトのクラウドサービスを連携させ、分析結果をうまくロジスティックに取り入れていこうという発想です。データはそれこそ無限大に存在していますから、うまく活用してお客様のニーズに合ったサービスにしていくことが可能です。それはまさに、最初にもお話しした“building network for what’s next”という表現通り、次にやってくるニーズを捉えて対応していくことにつながると思います」
――自動化・省力化を考える上で、人とロボットの協働が基本になることは変わりませんか。
「これも英語で“Work smarter,not harder.(より長時間働くのではなく、より賢明に働こう)”という表現があります。今後は技術を取り入れることによって、人に関しても今までになかったキャリアパス、キャリアディベロップメントにつながる可能性をすごく強く感じているんです。新たな技術が導入されてきた時にも対応できるような人材を育成していくことは非常に重要です。最初にもご説明しましたが、フェデックスの企業理念の『PSP』の最初に来るのが『People(人)』ですから、具体的に人が持つどのような能力を伸ばしていくか、技術とともにオペレーションを進めるとはどういうことか、これからも取り組んでいきたい。まさに“Work smarter”を実現していきたいと思います」
――人材育成の面では、VR(仮想現実)を取り入れる動きも広がっています。先進的技術を取り入れることについてはどのようにお考えでしょうか。
「その可能性は大きいと思います。私も以前、他の企業で働いていた際、VRなどの技術を使い、人の育成につなげたり、現場の業務を体験してもらったり、リモートで作業の指示をしたりといったことに応用しているケースを見てきました。今、日本で具体的にお話できることはないのですが、VRのような技術についても、フェデックスの中でぴったりとフィットするものがあれば目を向けていきたいですね」
(藤原秀行)