物流会社の本質的価値とノウハウ発揮のポイント
タナベ経営 土井 大輔 ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部 本部長代理 兼 物流経営研究会 リーダー
今回は、「選ばれる物流企業」になるためのポイントを惜しげもなく公開していただく予定です。いかにビジネスモデルに磨きをかけ、魅力を高めていくか。ぜひ、ガッツリとレベルアップのエッセンスを吸収してください!
土井大輔氏(タナベ経営提供)
組織・人財育成・仕組みを変えてビジネスモデルを昇華させる
皆さま、ご無沙汰しております。2021年2~9月にかけて“ウィズコロナ”時代を生き抜く!「強い物流企業のつくり方」と題して連載を担当していました。毎月多くの反響があり、全国のクライアント様からご意見を頂戴しました。このたび、あらためて新連載の機会をいただき、誠にありがとうございます。
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために、日本国内だけではなく全世界でリモート・在宅ワークやオンライン面談・会議などが短期間に広まり、定着しました。
これまでコンサルティングで多くの企業とご一緒する中で、“新たなことに取り組まない”“掲げても進まない”現場に直面してきましたが、いざという時には業界・職種不問で誰でも変わることができるのだと再認識しました。
物流会社の経営者と面談することも多く、①人財の確保②労働時間を短縮して生産性を高める③自動化・デジタル化の推進――の3点は特に解決へのニーズが高いと感じます。
そのためには将来のビジネスモデルを明確にする必要があります。今すぐビジネスモデルを転換するのではなく、目指すビジネスモデルに向けて「どのような人財が何人必要なのか」「付加価値を高めるサービスは何か」「人財のノウハウを活かすポイントはどこか」を決め、そのために資源配分することが必要と痛感しています。
今回、全5回の連載で紹介するモデル企業は、共通してビジネスモデルをしっかりと構築し、組織・人財育成・仕組みを変えていくことでさらにビジネスモデルを昇華させています。
第1回は皆さまと経営の原理原則、物流会社としての前提条件を共有したいと思います。是非、経営者・経営幹部の方だけではなく、社員の皆さまとも共有していただき、一体感を持って推進してほしいと強く思います。
経営の原理原則〈1T4Mで成り立つ〉
企業は「1T4M」で成り立ちます。1T4MとはTechnology、Market、Money、Man、Managementの頭文字です。図の通り、ノウハウと市場の掛け合わせが“事業”であり、投資、組織・人財、仕組み・制度の3Mが“経営”です。また、“戦略”の定義は「資源の再配分」です。つまり、“事業戦略”は「どのターゲット・マーケットに対してどのようなノウハウを活かして戦うのかを明確にして、経営資源を配分する」ということです。事業戦略が不明確な物流会社は、事業内容が輸送事業や倉庫事業になっています。
私はノウハウとは「細かく聞かなくてもわかること」と定義しています。自社の既存顧客・案件の中で、他社と比較した際に、より深く持っているノウハウがあるはずです。過去にお客様から他社ができない無理難題を言われて対応したことはありませんか? そのお客様の困りごとが“市場”であり、皆さまが対応できる理由が“ノウハウ”です。
グループ経営体制の場合、1企業1事業が原則ではありますが、1企業の中に柱となる複数の事業戦略を構築しても良いのです。企業としては“物流事業会社”ですが、“エリア特定輸送特化事業”や“荷主業種特化の流通加工事業”を複数持つということです。そして、その事業戦略に合わせて投資・人財・仕組みを配分しないと、事業戦略は推進できません。業績が上がってから配分する判断は誰にでもできます。業績が上がる前に決断することを期待します。
(図はいずれもタナベ経営提供)
物流の本質的価値
物流会社の本質的価値はお客様(ここでは荷主様)の総資産経常利益率の向上です。
欠品の防止やリードタイムの短縮はお客様の売上向上に寄与します。在庫の適正化や設備・センターを持たせないことは資産の軽減に寄与します。多くの社員やスタッフは現場に出社して日常業務に対応していると思いますが、是非、自分たちの本質的価値はお客様の経営改善に貢献しているということを理解・浸透させる場を持っていただきたいと強く思います。そうすればお客様へ提案する必要性を理解できるはずです。
物流会社のノウハウの発揮
物流会社は物流6大機能で対価をもらいます。輸配送、保管などの各機能単価を上げる理由が必要です。原価が上がった分を転嫁するだけではなく、付加価値を高めることで収益力を向上させなければなりません。未来に向けた投資原資を確保するためには純利益を確保する必要があります。
自社が選ばれるためにノウハウを活かす領域として、“お客様のサプライチェーン最適化の領域”と“お客様の物流戦略の領域”を狙うべきです。サプライチェーン領域は荷主側のSCM部門(サプライチェーンマネジメント部門)や物流部門が担当しています。調達から販売のフローにおいて非効率になっていたり、災害リスクに対応していなかったりすることがあります。また、荷主内の部門連係ができていないことも散見されます。
この領域に対して、物流会社のネットワーク活用や他荷主との共配モデル提案、WMS(倉庫管理システム)などのシステム提案・紹介などにノウハウを活かすことができるはずです。戦略領域においては、荷主の経営陣に物流現場を熟知している人が少ないことが多く、投資判断はできるが物流計画が正しいのか判断するノウハウが無いことがあります。物流会社が荷主側の経営陣とサプライチェーンミーティングを行うなど、物流の部分的な業務ではなく、全体を把握して提案する領域にノウハウを活かすべきです。
この領域に入ることは簡単ではありません。だからこそこの領域で戦うために投資、人財、仕組みに資源配分をしなければ進みません。
是非、物流の本質的価値とノウハウ発揮のポイントを社員の皆さまと共有いただき、選ばれる物流会社として磨きをかけていきましょう! 次回より4つのビジネスモデルを1つずつ紹介します。
(第2回に続く)
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大手システム機器商社を経て、2006年タナベ経営に入社。2016年より物流経営研究会リーダー就任。「物流が世の中を支えている」という想いで物流経営研究会を立ち上げ、物流業のサステナブルモデルを開発。「荷主側の経営課題」を把握した上での物流会社の事業戦略構築を得意とする。また、製造・卸売・小売・サービス・建設業の経営支援も数多く手掛け、熱意あふれるコンサルティングで多くのファンを持つ。