【好評連載!】選ばれる物流会社のポイントと4つのビジネスモデル・第2回

【好評連載!】選ばれる物流会社のポイントと4つのビジネスモデル・第2回

その1:「物流+αモデル」

タナベ経営 土井 大輔 ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部 本部長代理 兼 物流経営研究会 リーダー

厳しい時代でも生き残っていける「強い物流企業のつくり方」にフォーカスした全6回の連載が好評いただいた、タナベ経営・土井大輔氏。シーズン2の第2回が早くも公開です!

多くの方がご関心をお持ちの「選ばれる物流企業」になるためのポイントについて、いよいよ踏み込んでいきます。その卓抜した経験と理論を、じっくりと味わってください!


土井大輔氏(タナベ経営提供)

第1回を復習したい方はコチラから!:物流会社の本質的価値とノウハウ発揮のポイント

他プレーヤーの業務を物流会社が提供する

新連載の第1回は、経営の原理原則、物流会社としての前提条件についてご説明いたしました。経営者・経営幹部の方だけではなく、社員の皆さまとも共有していただくことを強く期待しております。

第2回は連載のテーマである「選ばれる物流会社のポイントと4つのビジネスモデル」について、具体的に踏み込んでいきたいと思います。まずはノウハウを活かした高収益ビジネスモデルの1つである「物流+αモデル」について、事例を交えて紹介します。

物流+αモデル

物流は、「どこでもドア」が発明されない限り、発地から着地まで必ずつながっています。また、その途中には、加工・組立・据付工事など多くのプレーヤーが存在します。「物流+αモデル」は、サプライチェーンにおいて前工程や後工程の他プレーヤーの業務を物流会社が提供するモデルです。

〈事例・K社〉
K社は創業約60年を迎え、創業当初は製材所の材木を運ぶ運送会社でした。その後、高度経済成長期にプレハブ工法が増えるとともにクレーンを取り扱い、建設資材の輸送を始めました。そして今は、トラック運送から建設資材の搬入・組み立て、産業廃棄物の運搬、倉庫での一時管理まで、全て自社で完結させるモデルを構築し、荷主メーカーとの直接取引で事業を展開しています。

K社は社名を変更し“物流”や“運送”というワードを外しています。事業領域を「物流」に制約せず、従業員1人ひとりが柔軟な発想で働き、新しい仕事を発見して欲しいというトップの強い想いが現れています。

皆さんも、過去にこれまでやったことの無い業務を依頼されたり、時には無理難題を言われたりして、四苦八苦しながら対応してきたことがあると思います。

K社から学ぶべきポイントは、顧客からこれまで手掛けていないサービスを頼まれたときに“イレギュラー対応”や“特別対応”と考えるのではなく、“このニーズは他社にもあるのではないか”“事業としてマーケットになるのではないか”と考える風土です。このスピリッツが定着しているため、K社のスタッフは非常に前向きで明るいのです。

物流+αモデルである同社は「保管・流通加工など物流6大機能」を広げていくのではなく、「資材の組み立て・設置や工事など、通常なら異業種と捉えられる領域」の前後工程を担っています。この独自性により、荷主の効率化を実現して信頼を勝ち取り、価格競争からの脱却と高収益モデルを実現しています。

例えば荷主のサプライチェーン上では、さまざまな会社が仕事を引き継ぎながら、一つの現場を完成させています。その場合、どうしてもつなぎ目で連携が不足し、料金が上がり、安全や品質基準も各社バラバラになってしまいます。しかし、K社は運送を軸として、周辺の仕事をすべて自社の社員・車両・施設で請け負う“ワンストップ対応”によって情報を自社内で共有し、荷主の手間と経費を削減。安全や品質の基準も高いレベルで保つことができています。


物流+αモデルイメージ図(タナベ経営提供)

物流業界は「元請けと下請け」の構造が明確です。下請けの世界では、質より量を求め、ひたすら量を求める集団の中で価格競争を繰り返しがちであるため、待遇・働きがい・将来の保証など、会社の魅力が低くなる傾向にあります。
  
K社のビジネスモデルは、一朝一夕で確立されたものではありません。経営環境が悪化したときも、攻めの姿勢でさまざまなことに取り組んできた成果です。その中でも特に継続して取り組んでいる3点を紹介します。

①ブランディングの強化
「人(社員・顧客)が集まる会社」を実現するための企業ブランド力の強化です。社内外に自社の現状をリアルに伝えるため、ホームページや会社案内ツールを定期的に刷新しているほか、社内報やインナーブランディングブックを作成して理念を浸透させています。社員一人ひとりの活躍にフォーカスしたブランディングを行っていることも特徴です。人が集まる会社は、「価格やモノ」ではなく、「価値」で選ばれるという証です。

②社員の働きやすさの向上と業務の見直し
同社は「社員の幸せ」を最上位概念として設定しています。そのため、働きやすい環境整備のための投資は積極的に実施しています。特に素晴らしいのはコーポレート機能の強化です。非付加価値業務の見直し、決裁権限の見直しと権限委譲、独自の能力評価制度を策定するなどの制度整備を継続して行っています。

物流会社ではコーポレート機能への資源配分が後回しになっていることが多いですが、是非、皆さんもコーポレート機能への投資を強化していただきたいと考えます。

③人財採用と育成への資源配分
そして、K社は「人財採用と育成」を自社の未来を左右する重要な取り組みと位置付けています。ただし、人員数を集めるのではなく、理念に共感する仲間を集めて成長することを必須としています。「頭数(あたまかず)ではなく心数(こころかず)」が大切です。全社員を対象として安全・顧客満足度に関する研修を月1回実施し、社員の資格・免許取得にかかる費用はK社が全額サポートしています。中途入社者の8割は異業種からの入社であり、+αモデルの源泉と言っても過言ではありません。

K社の顧客は全て直荷主取引です。荷主が求める「品質レベル・ニーズ」を直接感じ取り、何をすべきかを考えて行動に移すことで、顧客から「選ばれる」立場にこだわっています。同業他社との差異だけではなく、キラリと光る「唯一無二の新しい価値」を創造しています。

皆さんも是非、荷主と直接取引している案件について“物流の前後工程”を自社で対応できるサービスを生み出してください。そのためにはこれまでと異なる人財の確保が必要になるはずです。これが資源の再配分となります。

次回はモデル2つ目の「サービス特化モデル」を紹介します。

(第3回に続く)

※著者メッセージ
8月22日(月)、タナベ経営が開催する無料ウェビナー「物流フォーラム~4つのサステナブル・ビジネスモデル~」でも、“選ばれる物流会社になるためのポイント”を解説します。よろしければぜひご参加ください。https://tanabekeiei.hmup.jp/logistics_forum_220822
土井 大輔氏(どい・だいすけ)
大手システム機器商社を経て、2006年タナベ経営に入社。2016年より物流経営研究会リーダー就任。「物流が世の中を支えている」という想いで物流経営研究会を立ち上げ、物流業のサステナブルモデルを開発。「荷主側の経営課題」を把握した上での物流会社の事業戦略構築を得意とする。また、製造・卸売・小売・サービス・建設業の経営支援も数多く手掛け、熱意あふれるコンサルティングで多くのファンを持つ。

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