日野自動車不正・特別調査委員会記者会見詳報(後編)
日野自動車の日本市場向けトラック・バス用ディーゼルエンジンの排出ガスや燃費に関する認証申請に不正行為があった問題で、社内に設けた第三者による特別調査委員会(委員長・榊原一夫元大阪高等検察庁検事長)メンバーは8月2日、東京都内で記者会見を開き、報告書の内容を説明した。内容の詳報を前後編の2回に分けて掲載する。
委員長
榊原一夫元大阪高等検察庁検事長、弁護士
委員
島本誠ヤマハ発動機顧問(元同社モビリティ技術本部長)
沖田美恵子元東京地検特別捜査部検事、弁護士
会見する(左から)島本氏、榊原委員長、沖田氏
海外向けエンジンにも問題の可能性
――結論として、調査委員会でプロセスに不正があったと認定できた起点は、2003年のE6規制対応エンジンの開発からという理解でよいのか。
榊原委員長
「劣化耐久試験で具体的に不正行為が行われていたということで、E6規制から。それ以前からも、劣化耐久試験自体は開始したのがE6規制からなので、劣化耐久試験における不正行為についてはE6規制から始まっている。燃費についてはE7規制からスタートして、具体的な不正行為が見つかっているという状況だ。劣化耐久試験について不正があった機種数は、今、なかなか申し上げにくいが、E9規制で7機種、E8規制で7機種ぐらいだったと記憶している。その点については、正確なところはまたあらためてお問い合わせいただきたい」
――劣化耐久試験が始まったのはE6規制からということなので、調査の対象もそこからだと思うが、2003年以前にも不正行為があった可能性は排除できたのか。
榊原委員長
「個々の具体的な機種について、こういう不正行為があったという認定まではできていないが、かつてこういった不正を行ったことがあるという形での説明を受けたりしているので、それ以前からも不正が行われていたという可能性はあると思う」
――調査の概要で、ヒアリング対象が合計101人とあるが、対象は誰か。現役の社員なのか、OBも含むのか、役員や経営層も含むのか。これはどこまでさかのぼれたかという問題と関連してくると思うが、どの範囲まで話を聞けたのか。
榊原委員長
「対象者としては退職者、現役の職員、役員の人たちについても、不正行為を認定する上で必要だと思われる方々については事情のヒアリングをしている。退職者については、やはり連絡を取れなかったりする方もいらっしゃるので、必要と認められてもできなかった方もいらっしゃったとご理解いただきたい」
――先ほど、経営層の関与は認めるだけの証拠はなかったとの話があったが、退職した経営層にも聞き取りはしていて、知らなかったと回答しているということなのか。
榊原委員長
「概要はそのようにご理解いただいていいと思う」
――今回の調査範囲について、報告書で事案の全容解明と説明しているが、日野が出しているエンジンについて、全て調査をしているわけではないと思う。具体的にどの辺りまでを調査範囲にしたと捉えればいいのか。
榊原委員長
「エンジンについては、範囲としては国内市場向けのエンジンについて調査している。不正行為は可能な限りさかのぼり、個別具体的な不正行為、個別具体的な機種の不正行為が認められる範囲でさかのぼった」
――今年の3月に日野が発表した時点では含まれていなかったところも、今回調査されている。どういった経緯で調査することになったのか。
榊原委員長
「基本的には3月に発表されたE9規制、現行機種についての不正行為を端緒として調査を開始したが、その過程でE9規制の現行機種の不正行為だけではなくて、その前の機種、あるいはさらに言うと、その前の機種についても不正行為があった、それが引き継がれてきていたということが認められたため、順次拡大していったとご理解いただきたい」
――欧米など海外で同種の事案が発生する可能性はなかったのか。
榊原委員長
「3月の日野自動車の発表でもあるように、今回の調査のきっかけになったのが、北米の問題。それで国内向けのエンジンについても調査したところ、不正行為があって、規制値を逸脱しているようなエンジンが見つかったということで、調査委員会が発足して調査したという契機がある。海外向けのものについても問題がある可能性はあると思う」
――北米の問題は調べなかったのか。
榊原委員長
「海外向けについては多岐にわたるし、海外のそれぞれの法規についても調べた上でやらないといけないため、相当時間が掛かってしまう。不正行為が行われた原因や再発防止策の提言を国内市場向けに限定してやるのが合理的だと判断をした」
――調査はこれで終了するわけではないのか。
榊原委員長
「特別調査委員会としての調査はこれで終了だと考えているが、残った問題、技術的な検証の問題については日野のほうで行われると承知している」
報告書の内容に言及する榊原委員長
内部告発や提言の動きは認められなかった
――3月の日野側の説明では、2018年11月に日野の社員が米国での排ガス認定に関して、同社のやり方に疑問を持ったことが端緒となっていた。これが告発なのか、疑問なのか分からないが、ヒアリングの中でしかこの話は出てこなかったのか。もっと前から認識している人たちが、会社に対して何か提言なり、疑問を呈しようとしたことはなかったのか。
榊原委員長
「われわれが調査した範囲内では、開発に関わっている人たちから問題があると提言するようなことは、それ以前には認められなかったと考えている」
――そうしたことも含めて、上に物が言えない体質なのか。
榊原委員長
「企業風土や組織体制といったことが影響しているのではないかと思う」
――これだけ長期間、不正が行われていれば、命を預かる車のメーカーとして、おかしいんじゃないかっていう従業員の声が上がったり、あるいは内部告発が出たりしてもおかしくないと思うが、そうした動きはなかったのか。安全や品質を最優先するトヨタの子会社になったのにこうした不正が続いていた背景はどこにあるか。トヨタの責任をどう考えるか。
榊原委員長
「2つ目のご質問の方からご回答申し上げると、親会社のトヨタの影響は、ある意味、親会社がトヨタであることの安心感とか、そういった危機感の薄さということで、間接的な影響があったのかもしれないが、トヨタが親会社として今回の不正行為に直接影響を与えたような事象には接しなかった」
「われわれが調査する以前に内部告発などがあったという形跡は認められなかった。なぜ、そういうことが起こらなかったについては、真因分析でも申し上げているように、上意下達で上に物が言えないという組織風土が大きく影響しているのではないかと思う。それから先ほども申し上げたように、相互にチェックする体制が希薄であるということから(問題が)潜在化して、不正行為に手を染めているところについては、なかなか自分たちからそういう声を上げられなかったというところが影響しているのではないかと分析している」
――委員会としての委嘱の範囲からは外れるが、今回の問題に関して、現経営陣の責任をどう考えるか。
榊原委員長
「われわれが調査を委嘱されたのは事案の解明と真因分析、再発防止の提言。そういった意味で、個々具体的な責任追及が目的ではない。先ほどから申し上げているように、個別具体的な不正行為については担当者レベルにとどまっていて、役員、あるいは経営陣が認識していたという証拠は見当たらなかった。ただ、それでもこういったことが起こったのは、これまでの組織風土、それから相互のチェック体制など、そういったシステムを構築してこなかったということが問題だろうと思っている。そういった限度では問題があったんだろうなというふうに考えている」
――トップの意識やパワハラについて。
榊原委員長
「トップがパワハラしていたといった問題には接していない。ただ、トップの方のお話を聞いていると、こういった組織風土については気付いていたところもあり、その上で何とか改善したいと思って努力されていたということも聞いている。しかし、なかなか組織風土は変えるのが難しく、こういう事態に至ったのかなとみている」
――2003年以降の社長、副社長は全員話を聞くことができたのか。
榊原委員長
「現社長の小木曽氏、それから前社長の下氏、元社長の市橋氏と、不正行為が具体的に認められたところから社長の方々にはお話を伺っている」
――相互のチェック体制が希薄とか、声を上げられないといった問題の以前に、そもそも不正を許容する雰囲気が社内にあったのではないか。なぜこうした雰囲気が温存されてきたのか。1つの機種でだいたい何人ぐらいの方が不正に携わっていたのか、その後そういう人たちはどこの部署に異動していったのか。
榊原委員長
「各機種の不正行為にどれぐらいの人たちが関わっていたかについては、ちょっと千差万別であり、1機種1機種を捉えるとそんなに多くの人が不正行為を具体的に認識していたということは認められない。せいぜい数人という感じだと思う」
「やはり、できないものをできないと言えないために、開発目標について引き受けてしまって、開発計画がうまく進まずに最後、追い込まれてこういった不正行為が行われることになり、そして不正行為を行ったことについて、なかなか声を上げられない。一方で、相互のチェック体制が不十分なために温存されていったとみている」
「非常に専門性、技術的な高度な知識とか経験が要るため、なかなか人材が流動化していない。その部門に固定化しているのが1つの問題としてあり、他部門になかなか異動していかない。そのため、不正行為の継続が発覚しにくかったということもあったと思う」
――新人育成の過程で不正を許容する風土が受け継がれていったということか。
榊原委員長
「そうした表現がいいのかどうか、ちょっと分からないが、やはり同じような立場になり、先輩から話を聞いてそういった不正行為に関与していたという流れはあったと思う」
島本委員
「何がしかのチェック機能が働いて、どこかのタイミングではそういうのが表に出てくるはず。だから、報告書の中でも指摘している通り、パワートレーン実験部の中での不正行為が受け継がれていたっていうところはあるが、他の組織にそういう相互の監視機能みたいなものとか、報告書の中にも書いたが、懐疑心のようなものを持って見る目がなかったりとか、品質保証とか、品管機能の中でチェックがされてないとか、そういうところが大きな課題としてあると指摘させていただいている。通常はそういうところで、組織内の人材流動がなかったとしても見つかるべきものであったんじゃないかなと考えている」
――不正の対象となる車の台数はどれくらいか。リコール対象見通しの台数も教えてほしい。
沖田委員
「その点については、日野の方で本日15時くらいに公表している資料があるかと思う。そちらのIRの資料に台数、車種など記載されているかと思う」
――複数のペーパーがある。これがトータルで何車種、何台ということなのか。
沖田委員
「われわれの方でもちょっと手元では計算していない。そちらの資料をご確認いただくのが正確かと思う」
甘い調査したとは全く思っていない
――燃費の不正行為は2005年の12月ごろに目標の達成見込みがあると報告して、適切な対応ができていなかったとの説明だった。2005年の12月に不正行為として一番古いものが発見されたとの理解でよいのか。
榊原委員長
「2005年12月がきっかけとなる上からの指示ということになるが、実際に認証試験で不正行為を行ったのは、その後に出てくるように2006年の4月ということになろうかと思う」
――2006年の4月よりも前の時期での、燃費においての不正行為はなかったということで大丈夫か。
榊原委員長
「燃費に関しては、そのように認定している」
――開発現場で不正行為は認められていたにもかかわらず、経営者はそういった認識ができていなかったと説明していた。開発の現場の人たちが経営陣に忖度をして、報告していなかったということか。
榊原委員長
「どうして報告しなかったのかということについては、実際にどうだったのかっていうことは分からないが、風土とかそういうものについて、言ってもなかなかそれについて対処してくれない。先ほどから申し上げているように、できないことをできないと言えないというふうな風土から、そういったことを言ったというふうに認められる形跡がないということだ」
――そもそも最初から、不正行為については一切社内で話さなかったということか。
榊原委員長
「話したとか、話してないとかということについて、なかなか認められるような証拠が見当たらなかった」
――率直に申し上げて、調査は甘くないか。不正を全部見いだしてるわけではないのに、真因を見いだすことができるのか。結局、担当者が悪いというように聞こえるが、2001年からトヨタが親会社になっていて、役員がエンジンの開発現場についてあまり知らないというのは、にわかには信じられない。なぜ報告していなかったか分からないというような説明があったが、分からないのであれば分かるまで調べればいいのではないか。
榊原委員長
「不正行為については可能な限り洗い出しをして、できる限りの調査をしたと思っている。実際にそういったことについて報告しなかったのはなぜかということについて、多くの人たちからヒアリングしたが、その点についての明確な答えがないということが実情だった」
――聞いて分からなければそれで終わりなのか。その人たちに言わせるような仕掛けが必要なのではないか。
榊原委員長
「任意調査の限界もあろうかと考えている」
――この調査で真因は究明され、これから再発防止できると断言できるか。
島本委員
「断言と言われれば、非常に難しいところはあるが、今ご指摘いただいたような甘い調査をしたつもりは全くない。かなり踏み込んだ、経営陣の問題についても直接知ってたかどうかっていうところまではつかめている、というか、ないということになっているが、こういう背景に至った課題というか問題については、かなり踏み込んで報告書に書かせていただいていると思っている。ぜひ報告書を読み込んでいただきたい」
――具体的にこうした不正をしたという記述はあるが、例えばパワートレイン実験部の担当者の方々がやっていることは、課長レベルであれば絶対知っているはず。課長の意見は絶対に部長まで上がってるはず。日野ほどの会社が部長レベルで開発現場について情報を知らないということはないと思う。そうであれば、最終的には部長が役員に上げなかった、自分の保身や忖度で情報を上げなかったというのであれば理由は分からなくはないが、今回の説明では担当者で尻尾切りをしたようにしか感じられない。部長の責任はどこに行ったのか。
島本委員
「これは報告書をぜひちゃんと読んでいただきたいと思うが、パワートレーン実験部の中で担当者だけの問題というふうには全然言及してないと思う。ぜひ読んでいただきたい。それなりの部門の責任者の方までが認識していて、その責任があるという報告になっているので、今日のこの部分だけで、決してわれわれは担当者と言ってるつもりはないので、その辺はよく報告書をご理解いただきたいと思う」
「もう1点は、経営陣への移行会議みたいなものがあるが、そのタイミングでは組織としての経営陣への報告は、ちゃんと目標が達成されたという報告が全部成されていて、その辺の報告資料はわれわれ全部チェックしたし、読み込んでいる。報告書レベルを作るところまでの中で、パワートレーン実験部の中でいろんなことがあったんじゃないかとは考えている。今ご指摘いただいているようなところはあまり当たらないと思っているので、繰り返しになるが、ぜひ完全版の報告書をしっかり読んでいただきたい」
会見の最後に一礼する特別調査委員会メンバー
(本文・藤原秀行、写真・中島祐)