「できないことをできないと言えない、風通しの悪い組織」

「できないことをできないと言えない、風通しの悪い組織」

日野自動車不正・特別調査委員会記者会見詳報(前編)

日野自動車の日本市場向けトラック・バス用ディーゼルエンジンの排出ガスや燃費に関する認証申請に不正行為があった問題で、社内に設けた第三者による特別調査委員会(委員長・榊原一夫元大阪高等検察庁検事長)メンバーは8月2日、東京都内で記者会見を開き、報告書の内容を説明した。内容の詳報を前後編の2回に分けて掲載する。

出席者:
委員長
榊原一夫元大阪高等検察庁検事長、弁護士
委員
島本誠ヤマハ発動機顧問(元同社モビリティ技術本部長)
沖田美恵子元東京地検特別捜査部検事、弁護士


会見する(左から)島本、榊原、沖田の各氏

「みんなで車を作っていない」

【冒頭発言】
榊原委員長
調査期間は2022年3月11日から7月31日。その間、委員会の開催は33回。この間のヒアリング対象者は合計101名、回数は延べ243回。そのほか、従業員へのアンケートを実施し、2084通の回答を得た。これに加え、関係資料やメールデータの収集、精査、分析を実施した。その結果、調査によって明らかになった不正行為は、大きく分けて以下の3点。

1つは、排出ガスに関する不正行為。2つ目は燃費に関する不正行為。3つ目は2016年5月、国土交通省から道路運送車両法に基づき、認証取得時の排出ガス燃費試験における不適切な事案の有無について報告を求められた際、不適切な事案はなかった旨の虚偽の回答を行ったこと。最後の3つ目につきましては2016年問題としてお話する。これらの不正行為について順次説明する。

まず排出ガスに関する不正行為。主として劣化耐久試験の実施に関するもので、このうちのオンロードエンジン(車両用ディーゼルエンジン)について。日野はオンロードエンジンの劣化耐久試験をE6規制(平成15年=2003年=排出ガス規制、新短期規制)対応から行うようになり、その頃から不正行為が行われていた。

当委員会で個別具体的な劣化耐久試験の不正を認定できたのは、E8規制(平成21年=2009年=排出ガス規制、ポスト新長期規制)対応およびE9規制(平成28年=2016年=排出ガス規制、ポスト・ポスト新長期規制)対応において行われたもの。具体的な行為としては、劣化耐久試験を実施しない、測定点とは異なる時点で排出ガスの測定を行う、測定結果を書き換える、後処理装置の一部である第2マフラーを交換するなどの不正行為が認められた。

次にオフロードエンジン(産業用ディーゼルエンジン)について。日野は3次規制(平成23年=2011年=排出ガス規制)から劣化耐久試験を実施するようになったところ、3.5次規制(平成23年規制)対応の劣化耐久試験から不正が行われるようになった。当委員会で個別具体的な劣化耐久試験の不正を認定できたのは、4次規制(平成26年=2014年=規制)について。具体的な行為は、各測定点で排出ガスの測定を多数回実施した上で、恣意的に数値を選択する、測定点とは異なる時点で排出ガスの測定を行う、測定器を置き変えるなどの不正行為が認められた。

劣化耐久試験における不正行為について、分かりやすい具体例を示して説明する。図のうち、実際の測定データは右側の表。この表にあるように、2017年6月30日から2018年1月16日までの間、耐久試験が行われた。そして耐久時間0時間の時点で2回、1000時間の時点で8回、2000時間の時点で4回の測定が行われていることが分かる。これに対し、左側の表は劣化補正係数の算出のために用いられたものであり、右側の表から左側の表に矢印が出ているように、実際に測定したデータのうち1000時間時点で測定した8回の数値を左側の表の125時間の時点、1000時間の時点、2000時間の時に振り分けている。測定日を転記した先で実際とは異なる測定日、耐久時間に変更していた。

振り分けた右側の表の8回のNOx(窒素酸化物)値は、概ね規制値内の0.02g/kwh前後であり、この数値を3回の測定点に振り分けると、エンジンを稼働させた時間を経過してもほとんど劣化しないとの結果が得られることがお分かりいただけると思う。また、その結果として推計される8000時間時点でのNOx値も規制値内に収まることになる。

次に、燃費に関する不正行為について説明する。燃費に関しては、オフロードエンジンでは不正行為が確認されておらず、オンロードエンジンについてのみ、次の通りの不正行為が確認された。重量車については2006年度から燃費に関する2015年度目標を達成した車両について、自動車取得税軽減措置が講じられることになり、以後、制度の変遷はあるものの、燃費の良い車両については減税措置が講じられている。購入時に補助金が支出されるなどのインセンティブ制度が導入された。

そこで、日野自動車では2005年11月、当時副社長を退任して技監になっていた元役員の指示をきっかけに、当時のE7規制対応の大型エンジン「E13C」などについて、この2015年度目標の達成を目指すこととなった。しかし実際には、目標は大幅に未達、すなわち達成できていない状況にありながら、役員がその達成を強く求めるなどしたため、開発担当者は2005年12月下旬頃、開発担当の専務取締役および副社長に対し、目標達成見込みであるという報告をしたものの、その後適切な対応をしないままだった。

2006年4月、パワートレイン実験部の担当者らは燃料流量計の構成値を燃費に有利となるよう操作するなどの不正行為を行い、諸元値を調達成したとの結果を得た。その後のエンジン開発においても同様の不正行為が繰り返されたことが認められている。

問題発覚後に、日野において検証したE13Cの諸元値は、実際の燃費の実力との乖離幅はスクリーンの表にある通り。E7規制からE9規制にかけて、乖離幅が次第に大きくなっていることが分かると思う。


会見する榊原委員長

次に、2016年問題について説明する。国交省は2016年4月、自動車メーカー各社に対し、認証取得時の排出ガス燃料燃費試験において、その実施方法に不適切な事案がないかを調査の上、報告するよう求めた。これに対し、日野は当時適用されていたE8規制について、その認証取得時の排出ガス、燃費の試験状況を調査の上、不適切な事案はなかった旨の調査結果を報告した。しかしながら、報告に当たり、E8規制対応時の臨床試験データの一部について、その存在が確認できなかったり、データから得られる結果と認証申請とが食い違っていたりするなどしたため、資料収集に当たって、パワートレイン実験部の担当者は、認証申請時に合わせた試験データを作出したり、データを書き換えるなどして当時の認証試験が適切に実施された実施されていたかのように装った。

これらの不正行為についての真因分析等、日野に向けた提言について説明する。当委員会は、本問題の真因を次の3つと考えている。1つ目は、みんなで車を作っていないこと。2つ目は、世の中の変化に取り残されていること。3つ目は、業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたことだ。

1つ目の真因の、みんなで車を作っていないということからは、関所なリズムが強く、組織が縦割りで、部分最適の発想にとらわれて、全体最適を追求できていない。職業的懐疑心や批判的精神に基づいて開発のプロジェクトにおいて、自由闊達な議論をしていない。能力やリソースに関して現場と経営陣の認識に断絶がある。工期に関する情報収集をする部署、品質保証部門や品質管理部門の位置付けや関わりがみんなで車を作るという発想になっていないなどの現象が生じていた。

2つ目の世の中の変化に取り残されているとは、過去の成功体験の大きさにより、変化することや、自らを客観視することができず、外部環境や価値観の変化に気付かなかったということであり、この真因からは、上意下達の気風が強過ぎ、上に物を言えない、できないことをできないと言えないという風通しの悪い組織となっている。過去の成功体験を引きずり、できないことや過去の過ちを認めることができない。また問題点を指摘すると、自ら解決を担当させられて、他部署の助けが得られない。開発プロセスに対するチェック機能が不十分などの現象が発生していた。

3つ目の業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたという真因からは、開発プロセスの移行可否の判定が曖昧だった。パワートレイン実験部が開発業務と認証業務の双方を担当していた。規定やマニュアルの整備が十分ではなかった。役員クラスと現場との間に、適切な権限分配がなされていないなどの現象が発生していた。

これらを受け、当委員会としては日野に対し、目指すべきクルマ作りのあり方について議論を尽くすこと、品質保証部門の役割の明確化と機能強化、法規やルールの改正動向の把握と社内展開、開発におけるQMS(品質管理システム)を適切に構築し、その有効性を絶えずチェックし、必要であれば改善することなどを提言した。私からの説明は以上だ。

直接関与の証拠は見つからなかったが、役員にも問題はあった

【質疑応答】

――不正の原因は、率直に言うと、日野自動車にエンジン開発の技術力が不足しているからということではないのか?説明をお伺いしてると、できないと言えないとか、役員の方が無理に開発を進めさせたという、いわゆるパワハラだと思われる事案が感じられるが、実際に日野自動車ではパワハラ体質があったのか。
島本委員
「日野自動車のエンジンの技術力のことと、今回のことは必ずしも直接つながっているというふうには考えていない。今回の主に行われた劣化耐久試験における不正は、技術力がないからそこに至ったというよりも、適切なプロセス管理ができていないとか、そういう、どちらかというとマネジメント系の課題の方が多いと考えている。もう1つは規制の目標値に到達するために、エンジン部門だけではなくて、その車両トータルで開発ができていない。これはお手元の資料の中でも真因として書かせていただいたが、排ガスの目標値を達成するにはいろんな手法があるが、それを組織全体としてできていないということを課題として挙げた」

――そもそも技術力があるのであれば、不正に走る必要がないのでは。燃費や排気ガスが規制値を満たしていないのは技術力がないということの証拠では?
島本委員
「排ガス対応技術はそう単純なものではなく、車両全体のいろんな技術の集合体として、そういうものを集積して目標に到達するが、全体の目標に到達するためのプロセスを構築していくとか、いろんな組織が協力し合って目標に向かっていくとか、そういうことがあればできるレベルなので、もっと難しいところへ行こうと思うという話になるとさらなる技術力になるが、今回の時点で言えば、そういうレベルではないと考えている」

「パワハラ体質があったのかなかったのか、というご質問だが、これは報告書の方に記載したように、ある程度のものっていうのがあったという認定はさせていただいている。企業風土として、下から上に物が言えないっていう企業風土も影響して、上司の指示命令に対して上意下達になっていた。そういうところはわれわれの調査の中でも認定している」

――そうすると、不正はプロセスの問題であり、それを司るマネジメントの問題であるということ?
島本委員
「そうですね、開発のプロセスマネジメントの課題っていうのもあるし、それをマネジメントする企業としての組織風土とか、体質とか、そういうところが大きく関わっていると考えている」


会見する島本委員

――パワートレイン実験部の担当者らが不正行為を行っていたとあるが、経営層レベルとしてどこまで関知していたのか。不正の組織性はどれぐらいあると考えているのか。2016年問題について、これも担当者レベルであくまで適切にやったというふうに装って、経営層はそれをそのまま出してしまった、つまり知らなかったのか。それとも、2016年のこの問題のときも、不適切であることを知った上で、そういう報告を虚偽でしていたのか。
榊原委員長
「最初の経営層の認識は、実際に不正行為を具体的、個別的認識していたのは、パワートレイン実験部の人たちだが、それ以外の役職員について、その上の方の役職につきましては、個別具体的な不正行為を認識していたと認めるに足る証拠は見つからなかった。同じように2016年問題についても、担当者レベルの認識にとどまっており、その上の役員などの認識を認めるに足りる証拠は見当たらなかった。われわれも役員、経営層がそういった認識を持っていたのかどうかについてはやはり重要なポイントだと考え、多くの人たちにヒアリングを実施したり、あるいは議事録などを精査したり、メールなどをやりとりしているものについて精査したりした。その点の解明に努めたが、今申し上げたように、パワートレイン実験部以外の上の方の役員、経営層についての認識を認めるに足る証拠は認められなかった」

――排気ガスと燃費の方について補足で伺いたいが、個別具体的な事案としては認識していなくても、何らかの不正があっただろうということは、当時認識していた可能性があるのか。
榊原委員長
「その点についても、そういった可能性について認識していたというふうに認められる証拠は見られなかった。当時の役員の人たちが全く問題がなかったのかと言うと、先ほどの概要説明のところで申し上げたように、そういったきっかけとしての指示、燃費についてこういう目標を達成しようということについて強い指示があり、そういったきっかけでなかなか、開発のスケジュールが逼迫していたりとか、そういう開発計画がうまくいかなかったりとかいうことで追い込まれて、担当部署であったパワートレイン実験部がこういった不正行為を行ったが、そういうことに立ち至った状況については、やっぱり相互にチェックする体制が弱かったりとか、開発スケジュールについて十分な配慮ができなかったりとかいうことについては、やはりその他の部署の人、あるいは役員の人たちについては、問題があったんじゃないかというふうに認識している」

――燃費不正が始まったきっかけが2005年の元役員の指示と伺ったが、なぜこの時期にそういうことがあったのか。日野自動車は2001年にトヨタ自動車の子会社となり、社長がトヨタから来て、組織体制も変わった。そうした時期に当たると思う。ちょうどこの時期は赤字体制から脱却して、営業利益を伸ばそうという時期だと思うが、組織のガバナンスの変化とか組織体制の変化みたいなものが、不正を生む背景としてあったのか。
榊原委員長
「2005年に、燃費の不正が起こったきっかけは先ほどもご説明したように、2015年度、燃費の目標について、税制のインセンティブが入ったということで、それを目指して燃費を良くしていこうということがきっかけだったと思う。もう一つの2001年に親会社がトヨタになり、体制の変化がどう影響しているのかという点については、親会社がトヨタになったということが直接、不正行為に結びついた、影響を与えたようなことについての証拠は認められなかった」

――2005年に始まった後、E7やE8という規制が変わるタイミングがあったと思うが、そのタイミングでこういう不正をただして、また元に戻すっていうタイミングでもあったと思うが、そうならず不正が長期間にわたって続いてしまった背景は何か。
榊原委員長
「最初に始まった時に、やはりパワートレイン実験部の方でそういう不正行為を行ったわけだが、自分たちの不正行為が行ったことをなかなか他の部署に話をできないということで、自分たちから発信できなかったというのが1つ。それから、問題として、品質保証とか品質管理部門があるわけだが、そういったところでも、開発段階あるいは出荷の段階での総合チェックの機能が弱かったために、そういった不正が行われたことを発見できなかった。そのために、そういう不正が潜在化して温存されてきた、継続する結果になったというふうにみている」

――排気ガスのところで伺いたいが、各規制に対応した不正行為はいつから始まったのか。
榊原委員長
「E6規制が始まったのが2003年から適用開始なので、エンジンの開発はそれより前の段階になる…」

沖田委員
「E6規制は2003年10月から適用開始の規制。なので、それまでには認証申請を終えておかなければいけない、そうでなければ2003年10月以降出荷ができないということになるので、それまでに開発を終えて認証を取得したということを確認している。ただ、どの機種を何月何日に申請したかということまでは今、手元に細かいデータがない」

――少なくとも2003年10月より前から不正は行われていたという認識でよいのか。
沖田委員
「E6についてはそうだと思う」


会見する沖田委員

――燃費不正で燃料流量構成値を燃費に有利となるよう操作するなど不正行為を行った、とあるが、これは日野の中だけでやる計算のか、それとも国交省が立ち会うのか。
島本委員
「燃料流量計の検定は、正確性を検定するのは専門のメーカーさんが流量検定を行うので、校正自体は外部メーカーによる校正が行われていると思う。燃料流量の校正値自体は日野自動車の中で機器を操作することで変えられる状況になっていたので、担当者が数字を自由に、というとおかしいが、いじってしまったということだ」

――そこには国交省が立ち会って検査をするようなことはなかった?
島本委員
「そういうことだ」

沖田委員
「今のご質問は、認証取得時のご質問のことでは?」

――「燃料流量校正値を燃費に有利となるよう操作するなどの不正行為を行い」というところについて。
島本委員
「申し訳ない、私が今ご説明したのは、燃料流量計の校正を行う、要は正確性を検定する時のお話。ご質問はどこを指している?」

――2006年4月、報告の5ページの2段落目の最初のところに書いてあるところ。
沖田委員
「認証取得時の話をされてるんだと思うが、認証取得の方法は、詳細は報告書にあるが2つあり、1つは審査官立ち会いのもとで行う。今、国交省という話があったが、正確に言うと自動車審査部の独法の方の審査官の方が来られて立会いの下に行う、認証立会い試験、こちらについては立ち会いがある。もう一つは認証社内試験で、社内だけで行う試験を認証試験の一部として行うことも認められていて、その時は審査官の立ち会いはない。燃料流量構成値を燃費に有利な方に変更した行為については、両方の試験において認められている」

――つまり、立ち合いがあった試験でも不正があったと認めている?
沖田委員
「はい。ただ、その場で校正値をいじるわけではないので、事前にいじっておいて、試験を受けたということ」

後編に続く)

(本文・藤原秀行、写真・中島祐)

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