自前にこだわらず多様な相手と連携し、ユーザーの便益を追求する
セイノーHDとラクスルが合弁、新会社ハコベルの狭間社長独占インタビュー(前編)
セイノーホールディングス(HD)とラクスルによる、物流業務の効率化を支援するハコベルの合弁事業が8月8日、本格的に始動した。ハコベルは2015年、ラクスルの事業としてスタート。現在は荷物とトラックのマッチングに加え、輸配送業務の情報一元化によるコスト削減や効率化のサポートにも踏み込んでいる。
ハコベル事業を8月1日付で分社化した上でセイノーHDが8月8日付で資本参加、ラクスルとの共同運営体制に移行し事業基盤を強化する。ラクスル出身で新会社ハコベルの社長CEO(最高経営責任者)に就任した狭間健志氏はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じ、様々な物流企業などが参画した「オープンパブリックプラットフォーム」を構築して物流業界の業務デジタル化など課題解決を後押ししていきたいと意気込みを語った。
また、輸配送業務の効率化などで多様なサービスが登場している現状を踏まえ、ハコベルのプラットフォームでそうしたサービスをワンストップで使える体制を実現し、ユーザーの利便性を高めていくことに強い意欲を見せた。後編の発言内容を紹介する。
取材に応じる狭間社長CEO
輸配送計画の最適化も手掛けたい
――合弁会社のトップに就任することが決まったのはいつごろですか。
「本当に(合弁発表)直前ですね。セイノーさんとの間で資本の比率ですとか、会社の在り方ですとか、シナジーをどうやって発揮していくのかといった具体的な話を並行で進めていました。その中で最後、経営体制も含めて一斉に全部決めたという感じですね。セイノーさんが合弁会社の株式のマジョリティーを持つのであれば、セイノーさんの方が代表に就かれるのが筋だと思っていましたが、私に打診があり、最終的に就任が決定しました。最初から私に決まっていたわけでもないですし、かといって晴天の霹靂でもない、という感じでした」
――最初に打診があった時の反応は?
「そうか、やるか、みたいな感じでした(笑)。私はずっとハコベル事業本部長を務めてきましたし、もちろん会社になることで責任は重くなりますが、仕事自体が全く別のものに変わるわけではありませんから」
――前にも触れましたが、役割分担としてはセイノーが営業を担当し、ラクスルが新サービスの開発などを手掛けるということでしょうか。
「そうですね。元々、ラクスルは各事業本部の独立性が非常に高いというカルチャーがありましたから、ハコベル事業のチームがそのまま株式会社ハコベルにスライドしていくというイメージですね。そこにセイノーさんからも出向でいらっしゃる。われわれは荷物とトラックをマッチングする『ハコベルカーゴ』、SaaS形式で輸配送業務管理のソフトウェアを提供し、デジタル化を後押しする『ハコベルコネクト』という2つのサービスを展開しています。その中でやはりわれわれに今足りていないのは営業力ですので、その部分はセイノーさんに乗らせていただくということになります」
――今後のセイノーグループに期待される部分としては、圧倒的な経営リソースを有効活用していくことでしょうか。
「セイノーさんはお客様の数で約12万社に上るなど、われわれから見ればとんでもない事業規模です。さらに社内営業の方が何百人といらっしゃいます。セイノーさんのお客様に対してサービスを提供していきたい、セイノーさんからの発注を増やしていきたいというのが期待している点の1つ目です」
「2つ目は仕入れの部分ですね。セイノーさんはグループでたくさん車両をお持ちで、燃料や資材を安く仕入れられていますし、自社で整備工場もお持ちです。今、ハコベルのプラットフォームに登録していただいてる運送会社さんは中小企業、軽車両であれば個人事業主の方が多いので、なかなか調達の点が難しい。セイノーグループさんと連携することで調達力をカバーさせていただき、ハコベルのサービスをお使いの方々に提供していきたい。大きく言ってこの2つの方向性があると思っています」
――ハコベルのプラットフォームに参加されている中堅・中小企業や個人事業主の方からもそうした要望はあったのでしょうか。
「以前からありました。われわれもプラットフォーマーとして、燃料などで割安な調達ができないかチャレンジしたことがありますが、われわれは企業としてまだ決して大きなサイズではありませんので、競争力のある価格を引き出せなかった。セイノーさんのバイイングパワーと、数多く持っていらっしゃる整備工場や倉庫などハードアセットの活用がこれからできるのではないかと期待しています」
――運送業界で課題となっているトラックの積載率も改善できそうですね。
「そうですね。先ほどお話した、輸送領域からのCO2排出可視化にも関係してくるテーマですし、より注力していかなければならない領域だと思います」
6月の合弁発表会見に臨んだ狭間氏(ラクスル提供)
――合弁会社で新たなスタートを迎え、新たにどういったことを打ち出していこうと考えていますか。
「やはりプロダクトのラインアップは増やしていきたいですね。その時に、必ずしも自前だけではなくて、他のプレーヤーさんと組むことも前提に考えていきたい。セイノーさんと組ませていただくことで、われわれは路線の領域にも携わることができるようになる一方、他の会社さんと出資のあるなしに関係なく提携していくことで、提供できるシステム、プロダクトも倉庫管理や伝票・帳票の電子化といったところにまで拡張することが可能になると思います」
――物流業界はトラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」が大きなテーマとなっています。今回の合弁とも密接に絡んでくると思いますが、どのように対応していきますか。
「労働時間が減ることで、よりドライバーさんの働き方がタイトになってくると予想されますから、そうしたことを前提でわれわれもサービスの内容を考えていかなければいけません」
――共同輸配送を定時的により広げていく上でハコベル事業が果たしていく役割は大きいのでは?
「そうですね。輸配送の最適化みたいなところは、われわれが取り組まなければいけない部分だと思っています。今カバーしているのは輸配送の管理までですが、輸配送計画の最適化などのサービスも今後提供していきたいと思っています。既に荷物の情報を基にルートや台数、積み方を最適化していくサービスを一部、もう先行して始めています。そうした取り組みは強化していきたいと考えています」
――合弁会社を立ち上げた後、円滑に事業を軌道に乗せていく上で課題は?
「別に今、何か問題が起きているわけではありませんが、両社の融合をなるべく早く進めて、シナジーを実現していくことがすごく大事だと思います。合弁を発表してまだ数カ月ですが、セイノーさんにはかなりわれわれのシステムプロダクトを見ていただきましたし、われわれもセイノーさんの多くの支店や営業所、システム、オペレーションなどを実際に見せていただいています。ここにオポチュニティがあるとか、ここはこういうふうにやったらもっと両者の連携がうまくいくといった議論を重ねているところです。まず相互理解を深くすることが今、一番大事だと思っています」
――6月の合弁発表記者会見の際、売上目標として数年で数百億円規模まで持っていきたい、業界の中でプレゼンスを発揮していきたいとのお話がありました。達成できそうですか。
「現状は30億~40億円ぐらいです。まだ会社を立ち上げたばかりで未来のことは分からないですが、運送業界の市場規模が10何兆円と言われていますから、その1%でも1000億です。そこはしっかり、需要を獲得していかないといけないと思っています。まずは数百億円規模に成長させていくことがマストです」
――将来の目標の姿として「オープンパブリックプラットフォーム」と表現されています。セイノーやラクスル以外の幅広い物流企業や荷主企業などが参画してくるイメージでしょうか。
「そうですね、われわれとしては誰かに対して門を閉じるということはありませんし、われわれの事業に興味を持っていただき、連携していきたいと思っていただける企業の方には常に門戸を開いています」
――競合となる企業も?
「そうですね。今、荷物とトラックのマッチングなど、いろいろなサービスが存在していますから、お客様から見ればサービスが乱立している状態だと思います。それはお客様にご迷惑をお掛けしてしまっていて、われわれサービスプロバイダーたちがかえって自分自身の置かれた状況を不利にしていると思うので、そこは、お客様に対してワンストップでサービスを提供することをマストでやらなければいけないと感じています」
――輸配送以外の、倉庫などの領域もカバー対象になり得る?
「例えば、倉庫に関してはセイノーグループでWMS(倉庫管理システム)などを手掛けるセイノー情報サービスさんがいらっしゃいますし、物流不動産の会社もあります。あるいは在庫管理や需要予測、生産管理といったように、輸配送からより上流の部分まで、様々な企業と組んでいく必要があるかなと思っています」
――グローバルなサプライチェーンの管理も対象に入ってきそうですね。
「その可能性はありますね」
合弁で中長期的に目指す姿のイメージ(ラクスル提供)
乱立するサービスをワンストップで提供可能に
――合弁会社という形態ですが、新しいところから出資を受ける可能性はありますか。
「あると思っています。決してセイノーさんとラクスルの2社で閉じた関係ではありませんから、先ほども申し上げた通り、興味を持っていただける会社さん、オンしたいという会社さんに関しては窓口を開いている状態です」
――資本参加したいというような声は寄せられていますか。
「まだ決まったものは当然何もないんですが、打診といいますか、可能性はありますか、みたいなお話をいただくことはあります」
――物流業界はどうしても総論賛成・各論反対になりやすく、物流機器の標準化の議論も過去、なかなか具体的な話まで進みませんでした。今回の合弁が、そうした現状から物流業界が脱却し、関係者がちゃんと集まって話をして物事を進められるようになり、古い体質が変わっていく1つの大きな契機になればいいと個人的には思っています。
「有難うございます。そうした期待のお言葉をいただくことも多いので、うれしいですね」
――いろんなステークホルダーが集まってくる中で、物流の標準化みたいなところにも力を入れていきますか。
「そうですね」
――具体的にお考えになってる取り組みはありますか。
「やはり、先ほども申し上げたように、サービスの乗り入れが一番いいと思っています。現状のように様々なサービスが乱立している状態から、しっかりとサービスの連携、乗り入れ、ワンストップで提供できる体制の構築が非常に大事だと思っています」
――サービスは荷物とトラックのマッチングや、物流施設のバース予約などですか。
「いろんなものを含めて、ですね」
――競合しているサービスをまとめるという部分で具体的なお話はありますか。
「まだ内容が確定していないので詳細をお話するのは差し控えさせていただきたいのですが、われわれに関して言えば、例えば輸送業務の報酬をセブン銀行さんのATMから現金で受け取ることができるようにしたり、企業向け保険を東京海上日動火災保険さんに開発していただいたり、三菱商事さんにシステム販売を引き受けていただいたりと、われわれができないこと、ケイパビリティがないことは他社さんと組んでやってきたという背景があります。これからも自前ということにこだわらず、お客様にとっての便益の追求は継続してやっていきたいですね」
――川上から川下までとなると、現場の自動化やロボット導入といったところまでカバーしていかなければいけなくなりそうです。
「倉庫までやっていくのであれば、そうでしょうね。自分たちではロボットの開発・運営は絶対できないので、そこはそういう会社さんと組んでいくことになるでしょう」
――最後に物流業界の方々へメッセージをお願いいたします。
「われわれとしては、先ほどもお話した通り、頑張ってお客様の利便、便益に向き合っていきたいですね。コンセプト、取り組みに共感いただける会社さんがもしおありでしたら、ぜひ、提携はどんどんやらせていただきたいと思っています」
(藤原秀行)