調剤薬局支援のカケハシがセミナー開催、セイノーHDはドローン活用も視野
調剤薬局向けの業務効率化支援システムなどを手掛けるカケハシは9月9日、東京都内で、オンライン診療の普及に伴い、処方薬をいかに確実に患者へ渡すかなどのポイントについて議論するセミナー「ラストワンマイルDAY~知る・ふれる・つながる未来~」を開催した。
処方薬配達サービスを展開しているセイノーホールディングス(HD)グループの担当者らが登壇し、ニーズに対応したきめ細かなサービスを提供していることなどを紹介。処方薬を患者へ届ける上で大きな役割を果たすことを強調した。併せて、将来はドローンを使った配送なども視野に入れていることを明らかにした。
また、パネルディスカッションに参加した調剤薬局運営会社の首脳は、宅配ロッカーでの受け取りなど、オンライン診療を確実に機能させるため、様々な工夫を凝らしていることを紹介。配達サービスにも期待を見せた。同時に、処方薬の配達は患者の側に抵抗感もあるため、まず成功体験を得てリピーターになってもらえるよう、物流事業者らからの丁寧な説明などが不可欠と指摘した。
セミナー会場
店舗間在庫移動やポスティングにも対応
セミナーは冒頭、厚生労働省の伊藤建大臣官房企画官(医薬・生活衛生局併任)が「薬局DXに向けた行政の最新動向について」をテーマに講演。厚労省を軸に2023年の電子処方箋運用開始や、オンライン診療時に患者が加入している健康保険の種類などを医療機関側が確認できる「オンライン資格確認」の整備など、薬局や薬剤師の業務デジタル化を促進している状況を説明した。
伊藤氏
続いて、セイノーHDの須貝栄一郎ラストワンマイル推進チーム新スマート物流推進プロジェクト担当課長と、傘下で宅配サービスを展開していGENie(ジーニー)の新谷謙大事業推進本部ARUUプロジェクトマネージャーが登場した。
須貝氏は、セイノーグループが新たに展開している、ドローンなどを組み合わせ、人口減少に直面する地方の物流ネットワークを維持するための新たなサービス「SkyHub(スカイハブ)」の取り組みを報告。その一環として、地域に設置した「ドローンデポ」に商品を集約し、注文を受けてドローンで商品を専用の受け取り場所「ドローンスタンド」まで運び、受け取ってもらう流れを紹介し、実際に山梨県小菅村でサービス展開しているほか、他の自治体でもサービスの実用化へ実証実験を進めていることを引用した。
須貝氏は今後の方向性として、全国の過疎地域自治体にSkyHubの枠組み活用を働き掛けていくと解説。「医薬品配送は当社のプロジェクトの中でとても重要な項目であり、地域の調剤薬局の皆様と連携を進めていきたい」と語った。
須貝氏
新谷氏は、処方薬の即時配達サービス「ARUU(アルル)」の現状と狙いを説明。2000年に新規事業として開始し、検体の回収などを含め全国でサービスを提供していることを明らかにした。
「ハーティスト」と呼ぶ専門の配送スタッフを育成し、安全・安心に届けられるよう腐心している上、原則として30分から2時間以内に即日配達するため、各拠点からの配達範囲を限定していることや、薬を飲む日を間違えないようカレンダーを添付したり、お薬手帳に届けた薬の内容を印刷したシールを貼ったりするなど、それぞれの薬局・施設のニーズに合った配達を実施していることに触れた。独自の配送システムも開発、薬局などに提供している点もアピールした。
併せて、調剤薬局の店舗間在庫移動やポスティング、見守りも兼ねた患者訪問など、配達以外の部分でもサービス対応していることを強調した。新谷氏は「配送時に事故が起きた際に代替車両を手配するなど、リスクの回避という点で一番サービスを支持していただいている」と述べた。
新谷氏
“ぬくもりのあるコミュニケーション”で患者を支援
最後に、「患者との距離を縮める薬局サービスへの挑戦と経営」をテーマとしたパネルディスカッションを開催。厚労省の伊藤氏と新生堂薬局の水田怜社長兼CEO(最高経営責任者)兼COO(最高執行責任者)兼CHO(最高人事責任者)、たんぽぽ薬局の松野英子社長が参加し、カケハシの中尾豊社長が進行役を務めた。
中尾氏
松野氏は、処方薬の受け渡しに関し、24時間利用可能な宅配ロッカー、地域のタクシーによる配達、セイノーHDのARUUの3つを展開しようとしており、薬局間の医薬品配送なども委託していると解説。調剤ロボットの導入なども視野に入れていることを明かした。
最も注力しているのがオンライン診療の一層の普及をにらみ、8月1日に始めたLINEのオリジナルミニアプリ提供で、ユーザーが処方箋の送信や服薬指導、決済などを一貫して可能にしており、1万3000を超える登録件数に上っているという。
松尾氏
水田氏は、薬局のDX化の中で、駅構内にある「エキナカ調剤薬局」で処方薬を受け取ることができるシステムを初めて設置したり、他の店舗でも受け取り可能なロッカーを導入sいたりしていることに言及した。
松野氏は処方薬を確実に届ける際の課題として「現状維持を望まれる患者さんが多いように感じた。配送は来るまで待てないといった声が出ている。患者さん自身がうまく使うためにどうしたらいいのかを私たちが提案していかないといけない段階なのではないか」と語り、宅配がオンライン診療の患者に受け入れられるよう、ハードルを乗り越える必要性を指摘した。
中尾氏も「配送はすごく便利なように聞こえるが、受け取るタイミングを選定しなければいけないという顧客心理も発生する。成功体験を顧客側が得られると、これはめちゃくちゃ便利だとなってリピーターになる可能性もある。業界全体として患者さんへの啓蒙・啓発を続け、まず成功体験を得てもらうことが重要なフェーズではないかと感じた」と応じた。
また、松野氏は高齢者のLINEアプリ利用促進として、まず登録してもらい、使い方は後から説明するという方法を採用したことを明らかにした。水田氏も、高齢者はそもそもアプリをダウンロードするのが難しいため、既にスマートフォンに入っていることが多いLINEから始めたと解説した。
水田氏は新しい取り組みを始めた時の、患者側の反応として「最初はない。患者さんは不安でどうしていいか分からないから使ってもらえない。薬剤師やドラッグストアの登録販売者がきちんと親身になって、“ぬくもりのあるコミュニケーション”でしっかり操作方法を教えたりすることで、こんなに便利だと感じ、また使っていただけるようになる」と強調。丁寧なコミュニケーションが先進的な技術やサービスを展開する上で重要な鍵を握るとの見解を示した。
水田氏
伊藤氏は調剤薬局の業務変革について「DXとそれ以外という分け方は、個人的にはもはやそういう関係性ではないのではないかと思う。DXを前提として、日々取り組んでおられる業務をどう変革していくか、顧客体験をどうアップデートしていくのか、ここが問われている」と解説。「なかなか前例がない世界で、やってみないと分からないということが非常に多いのではないか。まずは挑戦する事業者、経営者の方々を国がしっかり支援していくことが重要」と語り、諸外国に比べて活用が遅れている電子処方箋の本格普及実現などを急ぐ姿勢を見せた。
パネルディスカッションに臨んだ登壇者
(藤原秀行)