21年末のピークから2割価格下落も、大量供給への懸念など影響
不動産投資信託(Jリート)市場で投資家の注目を集めていた、物流施設をポートフォリオに組み入れている物流系の銘柄が、総じて軟調となっている。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴うインターネット通販の利用増加などに伴い、先進的な機能を持つ物流施設を運用しているJリートの銘柄は安定した収益を期待できるとして人気を集めていた。しかし、2022年に入り、投資口価格(企業の株価に相当)は総じて下落傾向が続き、オフィスビルなどのアセットを投資対象としている銘柄と勢いに差が生じている。
背景には、物流施設の大量供給が続き、物流業界などで過剰感を懸念する声が出ているのに加え、最近のインフレを受けた米FRB(連邦準備制度理事会)の金融引き締めが長期化するとの見方が投資家の間で広がり、リスクのある資産保有を見直す動きが出ていることも挙げられる。世界的な景気の先行き不透明感の強まりも、投資家にとって懸念材料となっている可能性がある。
物流系銘柄はオフィスビル系などとともに日本のJリート市場の成長を支え続けてきたプレーヤーだ。足元では、物流系銘柄がポートフォリオに組み入れている物流施設の空室率が大きく跳ね上がるような市況悪化の動きは顕著にはなっておらず、投資の地合い自体は堅調だが、先行きに関しては不安がぬぐいきれない状況だ。
米国の長期金利上昇で割高感も
東京証券取引所で算出している、投資対象を物流施設に絞ったり、ポートフォリオに物流施設を組み入れたりしている銘柄の値動きを算出している「東証REIT物流フォーカス指数」(2020年7月3日時点=1000と設定)は、21年12月1日に直近のピークの1265.32を付けた後は、総じて下落基調となり、10月19日の終値時点で975.10とピークから2割超下がった。
現在同指数を構成している15銘柄の値動きを個別に見てみると、21年12月1日と今年10月19日の終値を比較し、21年12月1日よりプラスになっているのはわずか1銘柄のみ。産業ファンド投資法人(25.1%)、GLP投資法人(20.6%)、ラサールロジポート投資法人(同)、三井不動産ロジスティクスパーク投資法人(20..5%)などの下落が目立つ。
10月19日には、GLP投資法人や大和ハウスリート投資法人など、同指数に組み込まれている4銘柄が22年の年初来安値を更新した。
20年から21年にかけては、日本プロロジスリート投資法人の時価総額が全銘柄の中で一時期トップに躍り出るなど、物流系銘柄がJリートの成長株となった。コロナを受けて出社や外出を控える動きが拡大し、Jリートでもオフィスビルや商業施設、ホテルを投資対象とする銘柄は一時期、大きく値を下げた。そんな状況も、中長期的に安定した賃料収入を見込める物流施設の存在がクローズアップされた背景にある。
しかし、最近はエネルギーや原材料の価格が、コロナで一時停滞した経済活動の再開による需要の伸びやロシアのウクライナ侵攻などで高騰、インフレを抑制するために米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げに踏み切ったため米国の長期金利が上昇。もともと人気が高かった物流系銘柄は投資口価格が上がり、利回り水準が低下していたため、米国の長期金利に比べて割高感が強まったことも、物流系銘柄を手放す動きにつながったようだ。
不動産業界などでは「ネット通販は一時期ほどの大きな伸びではないにしても、引き続き成長するのは確実。先進的な物流施設の需要もまだまだ底堅い」(大手デベロッパー幹部)といった前向きな見方は依然多い。ただ、インフレに端を発した景気後退が世界的に広がれば消費自体が落ち込み、物流施設の需要にも影を落とす公算が大きい。賃料にも影響するため、投資家にとっても気がかりな状況が続きそうだ。
(藤原秀行)