「2024年問題」、ドライバーの賃金確保にも配慮を

「2024年問題」、ドライバーの賃金確保にも配慮を

UDトラックス新車イベントで識者ゲストが呼び掛け

UDトラックスは4月5日、茨城県城里町の日本自動車研究所城里テストセンター内で開催した旗艦モデル「Quon(クオン)」の新たな大型トラクターヘッド(けん引車)「Quon GW 6×4」のメディア向け発表会で、トラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」に関連したトークセッションを行った。

ゲストとして、トラックドライバーの待遇改善の必要性などを各地で訴えているNX総合研究所の大島弘明常務取締役、同問題などで精力的に取材・情報発信しているフリージャーナリストの橋本愛喜氏、“交通コメンテーター”として積極的に活動している日本自動車ジャーナリスト協会理事の西村直人氏の3人が登壇。UDトラックスからは開発部門シニアプロジェクトマネージャーの松永浩史氏が参加し、司会は同社の栗橋恵都子広報部長が務めた。

ゲストの3人は、2024年問題は企業間輸送に大きな影響を及ぼしかねず、物の生産や輸送に支障を来す恐れがあると警鐘を発した上で、物流業界の働き方改革の観点から、ドライバーの労働時間を短縮しても賃金は確保される環境の整備などに取り組むよう訴えた。2024年問題関連の部分について、発言を紹介する。


トークセッションに登壇した(左側の)西村氏、橋本氏、大島氏

「注目はされているけれど、理解にまでは至っていない」

――まず2024年問題について感じることをお聞かせください。
西村氏
「『問題』というふうになっていますが、これまで問題だったものを解決しましょうというスタートラインに立ったということであって、問題が起きるのではなく解決するタイミングなんです。その上で、例えばクルマ業界で言えば電動化や自動化という動きがあり、その第三の波として物流の効率化にスポットが当たった。具体的には(運転の)時間を短くすることで身体的な負担を軽減する、そのためには逆算的に何が必要なのかというところがテーマだと思っています」

――業界として変わっていかないといけないし、ドライバーの意識も変えていかないといけない?
西村氏
「そうですね。ドライバーだけではなく、やはり事業者の方々、そしてわれわれも三位一体となって物流業界に対して、もう少し目を向けていく。そのきっかけがこのタイミングだったのかなと考えています」

――変わらないといけないのは、ドライバーというよりもドライバーの周囲にいる人たち?
西村氏
「そうですね。働き方改革なんて言葉がありますが、働き方の効率化を図るという側面が一番大きいんじゃないでしょうか」

――大島さん、橋本さんもそれぞれ異なる立場で物流業界に長く携わってきているのでお伺いしたいのですが、2年前(にUDトラックスのイベントで同様のトークセッションを行った際)と比較して、物流業界は変わってきていると感じますか。
大島氏
「2024年問題はだいぶ世の中で取り上げていただけるようになってきました。実際、(規制強化実施まで)あと1年しかないということもあって、関心は非常に高まり、運送業界のみならず社会一般、荷主業界でも問題意識が高まっていると思います。併せて、官公庁も対策ということで、過去にないほど非常に熱心な取り組みを今、進めていただいています。先週、岸田文雄首相が2024年問題への対応ということで、関係閣僚会議を開いていくという発言があったり、私自身も、今まで運送業界出身ではありましたが、いわゆる社会、産業界、荷主の方からもいろいろ意見、あるいは話をさせていただく機会を頂戴しています」

橋本氏
「2年前と比べると、講演会の数ももちろん増えましたが、講演会に参加する方の中に、荷主さんも増えてきています。ただ、注目はされているけれど、なかなか理解までには至っていないかな、というのが率直な感想です」

――それは問題がなかなかまだ、十分に改善に向かっていないというところで、もっと理解してもらわないといけない?
橋本氏
「分からないことは理解できないので」

――2024年問題に関してUDトラックスで全国のドライバー400人を対象に、インターネットを利用して意識調査を実施しました。当事者であるドライバーの関心は非常に高くなっているという結果が出ました。今回は法改正に関する感想や、ドライバーご自身が考える対策についても質問してみました。調査の内容を見ていくと、働き方改革関連法はドライバーのための法改正にもかかわらず、対策が十分ではないとか、意外にもポジティブに捉えている人が少ないことが分かりました。どんな懸念を感じているのか知りたくて、さらに聞いてみると、最も懸念されているのが給与面、給与が下がるということでした。橋本さんはご自身、家業の工場でトラックドライバーをされていた経験がおありですが、どのように感じますか。
橋本氏
「緑ナンバーで走っているトラックドライバーさんは歩合制で働いている方が多いんですね。必然的に働く時間が短くなれば、給料も減るという部分は、みなさんすごくポジティブには捉えられていない。それで下がった給料をどうするのかというと、副業したい、橋本さん雇ってくださいという話もあったりするんですが(笑)、副業は何をするのかと聞いたら、運転代行業とウーバーイーツ、あとは今更感満載のユーチューバー(笑)。ウーバーイーツと聞いた時に、働く環境を良くしようと労働時間を減らしたのに、そこに、より、自転車をこいで、という体力を使う仕事をせざるを得ないという、働く環境でそういう選択しかできない、そうなると働き方改革って本末転倒ですね」

――960時間に規制されるが、1社でそうなっていても、別で副業していたら結局、働く時間はどんどん増えていきます。
橋本氏
「そうなると休める時間もなくなりますよね」

――業界を見ている立場で、給与が低いことなどをどう見ていますか。
大島氏
「この業界は、今、2024年問題ということで注目を浴びていますが、もともと、荷主との関係で言うと、その前からずっと、厳しい立場を強いられてきました。1990年に運送業界で規制緩和があり、それ以降、輸送事業者はど増えたものの、貨物の量がそこまで増えていない、さらに少ない貨物を奪い合うという状況が続いてきた。そういう環境であれば、荷主企業にとってみても、輸送事業者にとってみても、経営環境は非常に厳しいので、それが結果的にはドライバーの労働条件に影響を与えてしまった。競争が激しかったので、『お客様第一』という環境にどうしてもなってしまい、条件を上げることができずにきた。この先、法規制だからというのではなく、ドライバーをいかに確保していくかという視点においても、ドライバーの労働条件の改善ということが非常に重要かなと思っています」

――「お客様第一主義」は、われわれも、いつももちろんそこを大事にしていますが、それでドライバーにしわ寄せが起こっている?
橋本氏
「『お客様第一主義』で言うと、一番ドライバーの中で負担になっているうちの1つと言えるのが、やはり荷待ち。その時間を何とか短くすることをやっていかないと、働き方改革には行かないんじゃないでしょうか」

21時間半の荷待ちも、状況改善が急務

――今回の調査では、1日の乗務中にどれだけ荷待ちが発生しているのかを尋ねたところ、平均2.1時間でした。中には10時間以上という回答も、わずかだがありました。荷待ち時間をストレスに感じている人は7割以上。ドライバーにとって待ち時間は精神的にも、また労働環境改善のためにも解決していかないといけない喫緊の課題だということが、この調査から明らかになりました。西村さんは、残念なことがあるということですね?
西村氏
「そうなんです。ここ5年、思うことなんですが、業種を問わず、工場の取材に行くと、部品を搬入するトラックが当然いるわけなんですが、そのトラックが門の外でずらっと待っているのがすごく増えたんですね。工場長に話を伺ってみたが、そもそも工場の中には待機スペースがまずありませんと。さらにそこでエンジンをかけた状態で待たれてしまうとCO2排出の観点から問題があると。そうすると工場での部品(搬入)に関するCO2がものすごく増えてしまう。だからこそ中に入らないでね、という話がありました。これを聞いた時にはびっくりしました」

橋本氏
「荷待ちの時間については、私も現場を取材することがあるんですが、物流センターとか回ると、敷地内にコーンをご丁寧に立てて、何を書いてあるのかと見たら、敷地内に待機所はありませんという、すごく冷たい文言があるんですよ。私自身が取材をしたドライバーさんの話の中で一番待ち時間が長かったのは21時間半。その荷待ち時間というのが、西村さんがさっきおっしゃったような問題につながってくるので、待機所の問題もそうだが、荷待ちの問題は早急に解決していく必要があります」

西村氏
「待っているだけだからいいじゃないかという話もあるが、ドライバーも人だから、食事もあればトイレにも行きたくなる。そういった環境はとても大切ですね」

――この時間に来てほしいと言われても、待つ場所がないのは相当負担になりますね。このような状況に加えて、来年に2024年問題があると、物流業界はいったいどうなってしまうんでしょうか。
大島氏
「物流業界というより、社会全体で影響が出かねないと思っています。昨今、国で検討会が開かれていて、持続可能な物流の実現に向けた検討会の中で、実は私もお手伝いさせていただいているが、このままの状態で変わらなければ2024年には営業トラックの輸送量が14%不足すると試算した。960時間を超える部分は、今のやり方のままで行ったら、もう断らざるを得ない。こういう環境が起きると、例えば今のような輸送ができないわけですから、新鮮な野菜を同じような時間に届けることができない。あるいはメーカーにとっても部品が届かない、原材料が届かない、物が作れない、仮に出来上がったとしても、それを市場に流すことができない。そういう影響が懸念されることは実際にあります」

――ネット通販で購入すれば翌日届くはずの商品が届かない、という個人的な問題だけではないということですよね。
大島氏
「そうですね、わが国の物流は、実は宅配等々、皆さんのところに届く物よりも、圧倒的に多いのはBtoB、企業間輸送なんです。この企業間輸送において、影響が出かねないということなので、まさにいろいろなところで、日本の中で物を運ぶ、届けるというところで影響が出かねない危険性があるので、それまでにしっかり対応しましょうということだと思います」

――ドライバー調査の中でも取り組むことについて、荷待ちの時間を減らすと挙げる人が一番多かった。労働環境を改善させるために、まず周囲の意識を変えることが急務。一方、ドライバー不足の中で、新しい人を集めるための対策も必要です。調査ではドライバーとして新規参入した際、どんなことが大変だったか、苦労したかについてヒアリングしました。どのように皆さんがトラックを使っているかについてお聞きしたい。
大島氏
「ドライバー1人にトラック1台というケースがそれなりに多いです。ただ、これからそれはほとんどのドライバーの労働時間が極めて長いということにも起因、影響しているし、例えばそこをこれから、1人のドライバーの労働時間を短くしていかないといけないという考え方の下で言うと、極論だが、1台につき2人で、労働時間1人12時間ずつにすれば24時間動かせる。ただ、今までそこがなかなかうまく行かなかったのは仕事のマッチングがうまく行かないとかいうこともありました。やはり、運送事業者のドライバーの仕事は、お客さんからのオーダーに基づいているので、従って現場を変えるためには、お客さんのオーダー自身を変えてもらわないといけない。ここが非常に大きなところになっています。いわゆる発荷主と着荷主、この関係性の中の取引条件を大きく変えていただくということが非常に重要になっていくと思っています。この中で、1台のトラックを効率的に使う、例えば積載率や実車率を高めるというようなことも非常に重要になってくるのかなと考えています」

――1台のトラックを乗り回す、1台のトラックがより重要になってきます。そうなると乗りやすい、運転しやすいトラックとはどういうものになるでしょうか。
西村氏
「まず、平時のパワーがあることが大切だと思いますが、それを扱うのがドライバーですので、人に優しいというキーワードも同時にないといけない。ハードウェアが優れているということと、運転するドライバーに対してどれだけアプローチがあるかということだと思うんですね。今回、平時は最大530馬力とことだが、実際、重量物運搬になると、トルクも重要ですよね。しかも、トルク抜けというように、変速時間を短くして、具体的に言うとトラックで、上り坂を上っている時でも失速が少なく、パワーをちゃんと紡いで行けるのが大きなポイント。失速が少ないことが結果的に、人に優しいポイントになるのかなと思います。(制度力が強いという)止まる部分についても心理的な部分では非常に人に優しいのではないでしょうか」

――最後に、今後UDトラックスに期待することをお聞かせください。
大島氏
「やはりドライバーは(人数が)限られるというようなことがあったり、この業界になかなか人が入ってこなくなる、そういうことになれば高齢者の方をはじめとするいろんな層に、この業界で働いていただきたい。その時には安全性、快適性を含めて、みんなで共有できる車、トラックをぜひ開発していただいて、時間を有意義に過ごせる、楽に過ごせるということがトラックの中でもできるといいなと思います」

西村氏
「トラックの運転には大型の免許が必要ですが、ざっくり言って免許を持っている人の中で(大型を取得しているのは)20人に1人しかいません。今回はちょっと(テーマとは)違いますが、大型2種になると100人に1人しかいない。だからこそ、業界で働く人たちに対して、今回は2024年問題ということがありましたが、働く時間の高効率化というところで、業界全体をサポートしていく、そこに1つのピースとして、人に優しいトラックをこれからも作り続けていただきたいと思います」

橋本氏
「私自身、ずっと徹底的に現場目線で記事を書いているので、ドライバーさんからいろんな話を聞きます。彼らはやはり、キャビンの中を自分の城だと思っていて、私自身も城だと思っていた。他のドライバーが乗るのを嫌がる人が実際、すごい割合でいるんですね。ただ、本当に働き方の改革をして、マクロ的に見た時に、ドライバーにとっていい環境にするためには本当に改革が必要だと思っていて、様々な観点から、最終的には(トラックから)寝台を取っ払うくらいの本当に大きな改革をしていく必要が、様々な問題の視点から見ると思います。いきなりは絶対できないし、ドライバーの問題意識をまず変えていなないといけませんが、やはり安全運転ができる環境をよく考えると、私は四つ足が付いたベッドで寝てほしいというのがあるんですね。そういう意味では、いつか、寝台がなくても働ける、輸送できる環境ができてくるといいなと思っています」


「Quon GW 6×4」の前で、UDトラックスの丸山浩司社長(左から2人目)、松永浩史開発部門シニアプロジェクトマネージャー(一番左)とともに記念撮影に応じるゲストの3人

(藤原秀行)

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