有識者が「物流に選ばれない建物」となる事態に警鐘

有識者が「物流に選ばれない建物」となる事態に警鐘

日本交通政策研究会シンポジウム、端末物流改善へ荷さばき場整備加速など提言

交通政策の研究・提言などを手掛ける日本交通政策研究会は3月19日、東京都内で「都市内の端末物流のこれから」と題するシンポジウムを開催した。

都市内のテナントや店舗などに納品する「端末物流」に関し、トラックが路上駐車することで渋滞が発生するなどの問題が生じていることを踏まえ、有識者らが荷さばき場の整備を加速するなど、車両通行や貨物の積み下ろしを円滑に行えるよう配慮した建築物の設計や街づくりを積極的に進める必要性を訴えた。

パネルディスカッションの出席者は、トラックドライバーの人手不足が深刻化し配送を行うこと自体が厳しくなる中、納品先の建築物が端末物流への配慮を見せなければ「物流側に選ばれない建物」になる恐れがあると警鐘を鳴らした。


約50人が集まったシンポジウム会場

運輸事業者と商業者の意識に乖離

シンポジウムは冒頭に流通経済大の苦瀬博仁教授と日本大の小早川悟教授がそれぞれ基調講演を行った。

苦瀬氏は「社会変化にともなう端末物流対策の将来」をテーマに、都市物流政策の歴史的経緯などを解説。「端末物流に対してどのようなサービスをするかが重要になっている」との見解を示し、国内外の事例として路上や駐車場に荷さばき施設を配置したり、高層ビルの館内で共同配送を展開したりするなどの取り組みを紹介した。

その上で、都市の物流を効率化するために受注の締め時間を早めたり、最低受注ロットを増やしたりと物流サービスの水準を抑制する動きが出てくる可能性に言及。「時間のピークをどう調整するのかといったことがこれからどんどん一般的になってくるのではないか」と展望した。

小早川氏は「都心部における貨物車用荷さばき駐車スペースの確保について」をタイトルに掲げ、冒頭に「これからは貨物車の駐車場を確保する方向にもっとシフトしていかないといけない」との持論を示した。

続いて、2014年に発表された「第5回東京都市圏物流流動調査」の結果を紹介。都市部でも場所によって平均の路上駐車時間が異なっていることや、歩道がないと交通阻害の生じる割合が大きく高まることなどを明らかにした。

また、運輸事業者は4割が「路上に駐車する場所がない」と答えるなど、荷さばきにさまざまな課題を認識している一方、商業者の7割は荷さばきについて「特に不都合を感じないし、問題もないのでこのままでよい」を選択したことに触れ、「意識の乖離が見られる。問題が起きていても自分のところに荷物が届けばそれは別に問題じゃないと思ってしまう商業者が結構いるので、このへんの意識を変えてもらうことが重要。具体的に誰がどのように考えていけばいいのかということをもう少し真剣に議論しないとなかなか解決しない」と懸念を表した。

併せて、都心の区などで建物への駐車施設付置義務を緩和する動きが出ていることを受け「こういう整理の中で荷さばき用のスペースを増やしていくことが重要と思う」と述べた。

地域独自の駐車場整備ルールの動き

次に「都市内の端末物流対策の現状と将来」をテーマとしてパネルディスカッションを実施、小早川氏がコーディネーターを務めた。

三菱地所開発推進部の白根哲也氏は、都心で約100棟のビルが立ち並ぶ大手町、丸の内、有楽町の「大丸有地区」で駐車場の地域ルールを運用していることを報告。適切な駐車場整備を行うとともに路上駐車の排除や駐車場への誘導を図っている中で、駐車場利用の需要推計を基に荷さばき用の駐車施設の必要台数を確保していると強調した。

今後の方向性としては、ビル内の館内共同配送推進を課題に挙げ、「まだ有効な策は見いだせていないが、より合理的なスキームを検討していきたい」と表明。同時に、館内共同配送を導入すべき建物の規模や用途構成などに関する目安を明示することにも意欲をのぞかせた。

宇都宮大の長田哲平助教(工学博士)は、宇都宮市で進められている端末物流整理の実態をプレゼンテーションした。渋滞解消へJR宇都宮駅からLRT(次世代型路面電車)を走らせるための工事が始まり、西側で再開発が進められている中、端末物流に関する議論はまだ十分進んでいないことを明らかにした。

車両の通行量が多くないこともあり、商店街を中心として軒先にトラックなどを止めて荷さばきしているケースが多々見られ、駐車時間が非常に短いといった特徴を解析した。

交通総合研究所政策・企画研究室の荒田光主任研究員は、駐車場が絶対的に足りていなかった高度経済成長期に付置義務が導入されたものの、民間の車は需要が伸び悩んでいることを踏まえ、駐車場の整備に関する地域ルールを取り入れる動きが出ていると解説。コンビニエンスストアの普及や宅配便利用の拡大などに伴い、都心で貨物車の荷さばき場の需要が高まっているが整備が不足している問題点を指摘し、トラックの駐車台数確保や荷さばき場の有効高改善といった取り組みが広がることに期待を示した。

パネリストとしても参加した苦瀬氏は「個々の建物単位で(荷さばき場整備などの話が)議論されているが、もう少し街区、地区の話として広げていかないといけないと思う。都市計画としての視点が必要」と強調。さらに「これから人手不足などでどんどん物を運ぶ条件が厳しくなってきた時に、物流の側から『あのビルは駐車違反しないと止められない』と不満が出て、テナントの事業者からも問題視するような議論になるのではないか。物流側から選ばれなくなるのではないか」と述べ、荷物を受け取る側としても問題意識を持って早急に行動すべきだと訴えた。


パネルディスカッションの模様

(藤原秀行)

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