30年にドライバー不足で荷物27%運べない恐れ、「北海道を地域フィジカルインターネットのモデルに」

30年にドライバー不足で荷物27%運べない恐れ、「北海道を地域フィジカルインターネットのモデルに」

経産省が懇談会初会合開催、地理など不利条件克服し物流変革促進狙い(前編)

経済産業省は7月28日、札幌市内で「第1回北海道地域フィジカルインターネット懇談会」を開催した。

政府が世界を大きく変えたインターネットの形を物流の世界で再現し、業務効率化や省人化などを図る考え方「フィジカルインターネット」を日本の物流領域で2040年までに実現しようと、民間企業などと連携して取り組んでいるのを考慮。

特に面積が広大で食料品などの輸送距離がどうしても長くなる一方、人口減少が進むなど物流を取り巻く環境が厳しさを増している北海道でフィジカルインターネットを着実に達成していくため、関係者が議論、情報交換する場にしていくのが狙い。

会合には製造業や小売業、物流事業者の関係者ら200人超が参加した。野村総合研究所が、北海道の物流を現状のまま推移すると、トラックドライバーの長時間労働規制強化を受けて物流現場の混乱が懸念されている「2024年問題」の影響もあり、運びたい荷物を十分運べなくなる事態が訪れるとの危機意識を表明。

民間企業の関係者は既に展開している商品の共同配送などの取り組みを報告し、「物流は協調領域」と強調。競合企業同士が共同物流に踏み切るなど、フィジカルインターネットの考え方を普及させ、地理的条件などで不利な面がある北海道を、先進的な取り組みを実現させる「地域フィジカルインターネットのモデル」に変革していく必要性を訴えた。前後編の2回に分けて内容を紹介する。

共同輸配送で供給不足カバー可能と指摘

懇談会は冒頭、経産省商務・サービスグループの中野剛志消費・流通政策課長兼物流企画室長が「地域フィジカルインターネット実現に向けて」と題して説明。現状、燃料費など様々なコストが上昇し、人手不足が深刻化する中、「現場の労働力や対応力に安易に依存し過ぎず、リソースを①刷新②シェア③価値創造に活用する――との3つの取り組みの方向性が考えられるのではないか」との見解を示した。

その上で、「地理的に関連性を有する荷主・物流事業者が互いに協調領域を探り、地域レベルのフィジカルインターネットを実現していくことは(政府が2040年の実現をうたった)ロードマップ実現への重要なステップであり、地域の生活・経済に不可欠な物流機能の維持・発展に資するもの。国としても後押しが必要」との姿勢を強調した。

さらに「物流への課題意識が強い北海道は、今の日本全体に迫る物流危機を乗り越えるリーディングモデルを生み出せる可能性がある地ではないか。企業や業種の壁を越えた協調の取組拡大に期待」の考えを表明。納品伝票の電子化やより精緻な在庫管理・需要予測の技術開発に向けた実証を進め、2024年1~2月に開く予定の第2回の懇親会で、進捗を報告することなどを明らかにした。

続いて、野村総合研究所コンサルティング事業本部アーバンイノベーションコンサルティング部モビリティ・ロジスティクスグループの小林一幸グループマネージャーが講演。2024年問題などの課題を念頭に置き、北海道の物流実態調査結果を解説した。

北海道全体で見ると、2024年問題の影響もあり、2030年にトラックドライバー不足で貨物量全体の約27%を運べなくなる可能性があると指摘。地域別では、特に函館と北見(32%)、釧路(31%)、旭川(30%)で輸送サービスの供給不足が深刻になってくると解説した。

函館を細かく調べた結果、人口と配送量が相関すると仮定した場合、現状の物流サービスを提供できるのは、2030年の時点で地域人口の約68%にとどまると試算。人口密度の高さを考慮すると、18市町の中で函館市と七飯町以外の16市町は運送頻度の低下や運賃値上げなどが起こる可能性があると指摘した。

国交省が17年に実施した、物流拠点でのトラックドライバーの荷待ち時間に関する実態調査結果では、加工食品、建築・建設用金属製品、紙・パルプ、飲料・酒、生鮮食品などの順に30分以上の荷待ちが生じたケースが多くなっていた。小林氏はこの結果を踏まえ、加工食品や飲料・酒、生産食品で特にドライバー不足の影響が大きくなる可能性があるとの見方を示した。

解決策の一環として、北海道の営業用トラックの積載効率は、2021年の実績が35%で全国平均の39%を下回り、16~21年はいずれも北海道が全国平均を下回り続けたことに言及。共同輸配送が積載効率を向上させ、労働生産性の向上につながる効果が期待できると分析した。

野村総研の8地域別アンケートでは、共同輸配送を「利用したいと強く思う」「利用したいと思う」の合計は36%で、全国平均の26%を超え、四国と同水準で最も多かったことを引用。

積載効率が北海道で30年に50%まで改善できた場合、札幌や帯広はドライバー不足が解消し、他の地域も需給のギャップは残るものの10%以下まで供給不足の割合を下げられると推計。共同輸配送の実行を働き掛けた。

最後に、実現のためのステップとして、まず自社の荷量などの物流実態を把握し、共同輸配送したい地域・ルートを明確に定めた上で候補となる相手を見つけることや、輸配送の実態のデータを適切に収集・分析できるようにすることなどを提唱した。


野村総研の試算(同社資料より引用)

「食糧安全保障支える地域を守る」ことにも強く関係

有識者として、北海商科大学商学部商学科の相浦宣徳教授と、明治大学グローバル・ビジネス研究科の橋本雅隆専任教授が登場した。まず相浦教授は「地域への安定・永続的な供給にむけた地域供給ネットワークの協創・共創~Data-Driven ○○にむけて~」と題して発表した。

北海道の物流を展望し、「供給先への『長距離輸送』、供給先の『まばらさ』、さらには供給先ごとの『需要量のほそり』が重なり、北海道でのモノの供給はますます難しくなる」と強調。「何らかの取り組みがなされない場合、『地方への消費財の供給』は滞ってしまう。地方への供給を守ることは、北海道の『産地での生活を守る』こと、すなわち、北海道の主要産業を守ること、わが国の食料安全保障を支える地域を守ることにも強く関係する」と持論を展開した。

懇談会により、連携相手との出会いや協調する領域と競争する領域の見極め、実際のデータに基づいた物流リソースの共有などが進められると期待を表明。データを基に様々な取り組みを加速しているデータドリブンが重要と述べ、政府の研究プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で打ち出しているデータ活用の基盤を利用することを強く求めた。

最後に「この懇談会・実証は、他地域に対する特異性、道内における地域差に苦しむ北海道にとって、千載一遇のチャンス。データに基づいた地域供給ネットワークの協創に取り組みましょう」と訴えた。
橋本教授は「地域社会の共通基盤を維持するために-地域フィジカルインターネット構築の意義-」とのタイトルで講演。「人口減少と産業基盤衰退の悪循環を防ぐために、地域の雇用と消費生活の維持・創出を一体の問題として捉え、地域のネットワークを活かし、地域自ら創成シナリオを生み出したい」との問題意識を示した。

官民の検討会議「フィジカルインターネット実現会議」の下に設けられている、小売事業者らが具体策を協議する「スーパーマーケット等WG(ワーキンググループ、作業部会)」の議論も紹介しつつ、物流のリソースを共有できるようにするため、「同業種内の企業間や異業種間の共同取り組みを促進するためには、共同化が喫緊の課題となる需要密度の薄い地域で実証することが現実的」「フィジカルインターネットの動態制御の最適化は、リードタイム(納期)や輸送経路がある程度固定化できる範囲で実証することが望ましい」などと解説した。

最後に、懇談会の参加者に対し、行政の支援も得ながら、地域で最先端の技術や知見を組み合わせ、現場で実証することにより、物流リソースの無駄をどの程度削減できたのか効果を金額で算出、メリットを分かち合える「地域フィジカルインターネット」のモデルケースを連携して構築できるよう行動を働き掛けた。

(後編に続く)

(藤原秀行)

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