【独自取材、新企画】逆風を突き進め!エッセンシャルカンパニーたち 第1回・日東物流

【独自取材、新企画】逆風を突き進め!エッセンシャルカンパニーたち 第1回・日東物流

「健康経営」徹底で長く働ける職場を実現

人手不足に新型コロナウイルスの感染拡大と、取り巻く環境が厳しい物流業界。そんな逆風の吹き荒れる中でも「社会を支える」との使命を忘れず突き進み、創意工夫を凝らして雇用を守り、業績などの面で成果を残す中堅・中小企業は確実に存在している。

ロジビズ・オンラインはそんな物流業界にとって、そして社会全体にとって不可欠な“エッセンシャルカンパニー”のモデルとも言える、意欲あふれる企業を随時取り上げる独自企画をスタートした。第1回は、千葉県四街道市を本拠として食品物流を手掛けている運送会社の日東物流にスポットを当てる。

同社は健康増進活動を全社挙げて推進する「健康経営」を徹底。禁煙に成功した人に報奨金を出したり、インフルエンザの予防接種費用を従業員負担ゼロにしたりと働きやすい環境を極めることに邁進し、定着率向上を成し遂げている。その熱心な活動の裏には「重労働」「低賃金」といった物流業界のネガティブなイメージを変えたいとの切実な思いも込められている。


千葉県四街道市の日東物流本社


日東物流のトラック(同社提供)

全社キャンペーンで非喫煙率が5割超に

日東物流は1995年設立。鮮魚や野菜、飲料水など食品全般を手掛け、保有車両は80台超、従業員数は約120人に上る。千葉、東京、神奈川、埼玉、茨城の関東1都4県を事業エリアとして日々定温輸送などを手掛け、東京都中央卸売市場の物流にもタッチしている。

同社は2018年、経済産業省と日本健康会議が共同で実施している、職場の健康管理に重点を置いて活動、実績も挙げている「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定を千葉県の物流企業としては初めて受けた。20年まで3年連続取得している。

その取り組みは非常に精力的だ。全従業員の健康診断受診を徹底するとともに、脳MRIとSAS(睡眠時無呼吸症候群)、心電図の検査を会社全額負担で実施。19年の健康診断受診率は目標通り100%を達成している。夏季には飲料水やあめを無料配布するなどの熱中症対策、冬期はマスクや除菌ティッシュなどを同じく無料で配り感染症対策に万全を期している。

さらに力を入れているのが、全社で実施している禁煙キャンペーンだ。トラックドライバーの喫煙率の高さはさまざまな調査で指摘されており、同社は従業員の生活安全向上や運行時の安全確保、物流業界全体のイメージ変革やサービスの質向上を図ろうと、18年に運動を開始した。禁煙宣言をした従業員に禁煙補助薬を支給するなどサポート、達成できれば報奨金を提供している。

社内には従業員の顔写真などを所狭しと貼り付けた特製の禁煙宣言パネルを貼り出して機運を盛り上げるとともに、もともとたばこを吸わない人や禁煙を続けられている人にも報奨金を出しているという点もユニークだ。キャンペーン完了後の非喫煙率は55・9%と、前年度から10ポイント以上アップ。目標は100%に据えており、このペースでは遠くない将来に達成しそうだ。


社内に掲示した禁煙宣言パネル

創業者の父親を継ぎ、18年に同社の代表取締役に就任した菅原拓也氏は健康経営を推し進める狙いとして「会社の上層部が何を言っても、個々の従業員自身の意識が変わらないと生活環境を変革していくのは無理。社内で健康促進や禁煙の話題が普段の会話の中で出るような雰囲気を作っていけたらいいなと考えていた折、みんなが関心を持って参加できるイベントにすればいいんじゃないかと思いついた。社内の衛生委員会で話し合い、進めていった」と説明する。

禁煙キャンペーンの背景には、物流業界のイメージを刷新していくことにつなげたいとの思いも込められている。同氏は「われわれの業界は運賃やドライバーの拘束時間などに関し、こうだろうという固定観念がすごく強い。そうしたものの中で改善すべき点は覆していかないと業界は良くならない。社員の皆さんがたばこを吸わないことを目指すのも方向性としては“アリ”ではないかと思った」と語る。

他にも、昨年11月以降の健康診断から、インフルエンザの予防接種は従業員本人と13歳以上の扶養家族は無料としているほか、風疹の予防接種なども費用合計の半額、最大5000円まで補助している。当然ながら会社としては負担増だが、菅原氏は「当社で安心して働き続けてもらえるのであれば全然ペイする。ご家族も巻き込んで健康への意識が高まってくれればうれしい」と力を込める。


定期健康診断の受診を徹底(日東物流提供)

事故を機に「いくらでも仕事できる会社」から大転換

日東物流が従業員重視、安全運行重視を徹底する大きな契機となったのが、10年以上前に同社のドライバーが起こした大事故だ。当時は入社して間もなかった菅原氏によれば、睡眠不足が原因で居眠り運転をしてしまった結果だという。営業停止処分を受けるなど厳しい現実に直面し、意識を根本から刷新する必要性をいやというほど思い知らされた。

そこで、法令順守の促進へ長時間労働を解消するため、長距離輸送の仕事から手を引き、関東一円の配送業務に絞り込むなど、業務の在り方を抜本的に見直した。全ての車両が配送完了後には会社へ帰庫しており、ドライバーがプライベートの時間を大切に守れるよう配慮。急ぎの仕事も以前は積極的に引き受けていたが、今はなるべく避け、レギュラーの仕事を大事にこなしていくことに軸足を置いている。

先代を継いで代表取締役となった直後から、経営方針を変革する中で、従業員の健康を増進し、働きやすい環境を整えることが結果的にサービス品質の維持・向上にもつながると意識。一連の健康経営に取り組み、子育てや介護といったライフスタイルに合わせた就業制度を準備し、勤務の日数や時間をフレキシブルに設定できるようにした。急な予定が入って運転できなくなった時は別のドライバーがカバーできる体制も構築している。

菅原氏は「かつてはうちに来ればいくらでも仕事をさせてもらえると言われていたが、事故で多くの方々にご迷惑をお掛けしてしまったことを契機に、そんな姿勢では駄目なんだと気づかされた。二度と深刻な事故を起こさないと肝に銘じ、時間をかけて意識を変革してきた結果、今ではコンプライアンスに対する意識が高いとの評価も外部からいただけるようになった」と笑顔を見せる。

採用の面に関しても、かつては欠員が出るたびに急いで即戦力となる人材を後任として採用、穴をなるべく早急に埋めることに意識が行きがちだった。しかし、現在はきちんと仕事に向き合える人物をじっくりと選んでおり、未経験者も検討対象にしているという。

「昔は新しく入社した人材への研修などがコストだと思っていた。経験者を雇い、2~3日後には1人で仕事に行かせていた。しかし、未経験者でも教育に時間をかければしっかりとした乗務員になってもらえる。逆に言えば人材が不足している時でも、経験豊富な人であったとしても仕事をきちんとしてくれそうでなければ採用しないというスタンス。2~3カ月みっちりと付きっきりで教えた方が結果的に当社で長く活躍してもらえる。そのことを考えれば決してコストではなく、未来に向けた投資だ」と菅原氏は持論を展開する。そうした会社としての真摯な姿勢が奏功し、現在のような深刻な人手不足の状況でも募集をかければ反応は良好という。


取材に応じる菅原氏

本当に物流企業のツイッター公式アカウント?

昨年には就業規則を改定し、10月1日付で業務中に発生した事故に対する損害金の従業員負担を撤廃した。それまで人身事故は全額保険を適用、会社側が負担してきたが、物損や商品の事故に関しては従業員個人の事故回数や修理費用、損害額を踏まえて負担額を算出する仕組みだった。しかし、全ての事故で従業員の負担をゼロとし、より安心して働いてもらうことで安全運転の意識向上やサービスレベルのアップにつなげていこうとしている。既に定着率は大幅に改善、離職率も業界平均の半分程度にとどめられているという。

物流業界では業務中に事故が起きると会社が所属するドライバーに損害の一部または全てを負担するよう求めるケースが多く、社内で民法上の求償権にのっとって従業員に責任を負うよう請求している。今回の取り組みも物流業界の常識に必ずしも拘泥せず、従業員や顧客のためになると思えば変えることを厭わない日東物流の体質が表れている。

物流業界のネガティブなイメージを変えたいとの菅原氏らの思いは、広報・PRの面でも反映されている。外部から専属の広報担当者を採用、昨年10月からツイッターでユニークな情報を積極的に発信している。トラックの車窓からの景色を写真で紹介したり、Gマークを説明したりと内容はバラエティーに富んでいる。

時にはギャグ満載のメッセージを投稿したり、運送業とは全く無関係の小ネタを盛り込んだりと、一見しただけでは物流企業の公式アカウントとは思えないほどだ。しかし、開始から半年足らずでフォロワーが2500人を突破するなど、じわじわと浸透している。菅原氏も「これまでの物流業界は自ら情報を発信していくという意識が不十分だったと思う。PRの面からもいろんなことにトライしていってほしい」と期待を寄せている。

今後については、従業員が65歳で定年を迎えた後も、健康面などで問題がなければ働き続けられるような仕組みを作ることに意欲を示す菅原氏。同社の変革に向けた歩みはまだまだ止まりそうにない。


ユニークなメッセージ満載のツイッター公式アカウント

(藤原秀行)

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