【独自】「キーエンスやファナックのような日本の産業下支えする存在目指す」

【独自】「キーエンスやファナックのような日本の産業下支えする存在目指す」

LexxPluss・阿蘓代表取締役&秋葉顧問インタビュー(後編)

次世代の自動搬送システム開発を手掛けるLexxPluss(レックスプラス)の阿蘓(あそ)将也代表取締役と、今年8月に同社顧問に就任したフレームワークスの秋葉淳一会長はこのほど、ロジビズ・オンラインのインタビューに応じた。

阿蘓氏はロボットを活用して倉庫や工場の搬送を自動化するシステムにとどまらず、現場作業の安全性やセキュリティーを確保するなど、さまざまなソリューションを開発し、日本の産業を下支えする存在に成長したいとの目標を明らかにした。物流業界で長年、自動化・省人化に取り組んできた秋葉氏は自身の経験を生かし、海外展開などを後押ししていく姿勢を示した。

インタビュー内容の後編を紹介する。


取材に応じる阿蘓氏(上)と秋葉氏

BtoB物流センターやEV工場に照準

――そもそも、ロボットのスタートアップを立ち上げようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
阿蘓氏「私はもともと、ドイツの自動車部品大手ボッシュに勤めていました。そこで自動運転技術の開発に携わってきたんです。開発自体は非常に面白かったのですが、ものすごく巨額の投資が必要でした。もちろん、技術的な難易度も上がります。例えば、立体駐車場の中で車が自動的に空いているスペースを見つけて駐車する『自動バレーパーキング』という技術の場合、特定の条件下で人が監視せず完全に自動運転する『レベル4』を実現したのですが、現状では1つの立体駐車場にそのシステムを導入するのに億単位の投資が必要です。どうしても駐車場は人の出入りがありますから、安全なインフラを整備しようとするとそれだけの資金がかかってしまいます」

「最後は物流車両の自動運転にも加わりました。その際に物流業界の方にお会いして、自動運転のような中長期的に進めていくプロジェクトよりも、とりあえず明日のオペレーションはどうするか、ということに悩んでおられるのが非常に新鮮でした。倉庫内のオペレーションが抱えている課題をどう解決するかが非常に重要であり、そのためには複数の技術を組み合わせることが有効だと思ったんです。スタートアップが参入しても十分勝負できるだけの市場の大きさがある点も非常に魅力を感じ、物流領域に着目して起業しました」

――以前から「2035年までに次世代のキーエンスやファナックと呼ばれるような日本を代表する産業機器メーカーへの成長を目指す」との考えを表明しています。その意図はどういうものでしょうか。
阿蘓氏「当社はロボットを作ってはいるものの、実はわれわれ自身は自分たちのことをロボットスタートアップとは認識していないんです。あくまで物流倉庫と工場が抱える課題をどのように解決していくかということを考える中で、物の運搬を自動化すれば業務を省力化できるといった観点からロボットを手掛けています。自動化に加えて、作業の安全性やセキュリティーをどのように確保するかという観点も必要です。そこで、各種センサーや画像処理機器などで世界的に活躍されているキーエンスさんや、同じく産業用ロボットでグローバルにプレゼンスを発揮されているファナックさんのように、産業を下支えする大きな存在になりたい、両社の次の世代の企業として日本を牽引していきたいとの思いを込めています。適正な在庫を抱え、即日納品できる組織体制の在り方など、両社から学べることはたくさんあると思っています」

――物流を産業として捉え、まずロボットありきではなく課題を解決するには何をすべきかというところから事業を展開されている。かなり大局的な視点を創業の当初から持っていたように思えます。
秋葉氏「初めて阿蘓さんとお会いした時、外見はとてもさわやかな印象なのですが、話している内容はとんでもないことだったりしたんですよ(笑)。スタートアップを立ち上げたばかりなのに、ものすごく先を見ていて、物流を大きく変革しようとしている。今はトラックバース予約システムなどを展開しているHacobu(ハコブ)創業者の佐々木太郎社長CEO(最高経営責任者)に数年前、初めて会った時と同じくらいの衝撃を受けましたね。先ほどもお話しましたが、阿蘓さんたちが手掛けている『ハイブリッドAMR』などのソリューションは物流業界に大きなインパクトを与える可能性があると思いました」

――搬送を自動化するという御社のシステムですが、メーンの対象は物流でしょうか。
阿蘓氏「もともと着眼していたのは物流業界ですが、今は物流と製造業で半々という感じです。工程間搬送は物流に加えて製造業の生産拠点の中では必ず発生するものですから、われわれの技術が活躍できる余地は大きいことに気づき、フォーカスし始めました」

「今ターゲットにしているユースケースのうち、われわれが最もトップに位置付けているのが大きく言って3つあります。1つ目はBtoBの物流センターです。かご台車や6輪台車といった既存の台車を使われているところですね。この工程はまだ自動化が進んでいませんので、当社が自動化できる余地が期待できます。2つ目は通過型の物流センターです。これも同様ですね。そして3つ目はEV(電気自動車)工場です。EVの生産が増えていくことが予想されます。この3つは非常に需要が見込めると期待しています」

――主力のハイブリッドAMRは国内の生産体制を整備し、受注も獲得できています。ここまでの事業は順調とみていますか。
阿蘓氏「事業はうまく回り始めてはいますが、われわれとしてもAMRの導入に結構手間が掛かってしまっている部分がありますし、まだまだ未熟です。現場の方ご自身でAMRを使いこなせるくらいまでに、容易に取り扱えるようにしていく必要があるでしょう。また、製造業の現場は物流以上に、安全に対して厳しいので、そうした声にも応えていかないといけないと考えています」

秋葉氏「これほど多くの企業が注目してくれているという意味では順調だろうと思います。ただ、阿蘓さんたちが狙っている世界観がものすごく高いレベルにあることを考えれば、順調だけど十分ではない。システムをエンドユーザーにお渡ししたら、エンドユーザーで操作などを完結できるというのが究極の目指すところだと思います」


今年8月に移転した川崎市の新オフィスには機能の開発やデモを実施できる専用スペース「Kawasaki-LAB」を設けている

米国の売り上げを日本以上に高めたい

――海外展開についてはどのようにお考えですか。
阿蘓氏「米国に現地法人を設立し、日系も含めて製造業が集積しているインディアナ州フィッシャーズにオフィスを開設しました。米国は物流よりもまず製造業に照準を合わせています。具体的にはまずEVの組み立て工場ですね。EVはバッテリーパックが相当な重量になるなど、非常に重く人手では運搬が厳しい部品がありますので、搬送自動化のチャンスがわれわれスタートアップにもあります」

――競争は厳しいのでは?
阿蘓氏「米国は興味深いことに、ローカルでは製造業の産業機器メーカーが少ないようなんです。現地のメーカーというよりも、むしろAGV(無人搬送ロボット)「OTTO(オットー)」を扱うカナダのClearpath Robotics(クリアパス・ロボティクス)やデンマークのMobile Industrial Robots(モバイル・インダストリアル・ロボティクス、MiR)といった、海外から米国に進出しているメーカーとの競争になります。日本の産業用ロボットメーカーも非常に存在感が強い。ただ、米国の市場自体が大きいですから、競合が入ってきたとしても十分需要は獲得できます。米国は新型コロナウイルス禍以降、ワーカーが対面の現場作業を嫌がる傾向が強まり、人がなかなか集まらず、賃金も上昇しているため、製造業はロボットが高くても自動化するしかない、というような状況になってきています。きちんとマーケットに製品を提供、運用できる体制を整えていくことが重要です」

秋葉氏「先ほどお話したオープンパートナーシッププログラムの存在も、海外で事業展開する際には非常に大きな意味を持ってきます。米国でオフィスを構えているインディアナ州フィッシャーズはオートメーション技術の関連企業が集積するエリアでもあるため、プログラムのパートナー候補が多数所在しています。パートナーを広げていくことで販路拡大や生産体制確立などを円滑に進められるようになると期待できます」

――その先は欧州やアジアへの進出でしょうか。
阿蘓氏「欧州ですね。ただ、米国でまずは2~3年をかけて日本以上に売り上げを出せるようにする状況を作ってからになります。アジアもポテンシャルは高いと思いますが、進出のタイミングは今後の検討になるでしょう」

――顧問として海外戦略はどう考えますか。
秋葉氏「やはり、まずは自動車メーカーの工場があるところがポイントになるでしょう。自動車の工場であれば、ある程度何をすればいいのかが分かりますし、EV関連の搬送需要を開拓することで、物流で言うところのベースカーゴを押さえ、販路を広げていくことになるでしょう。米国と欧州には進出すべきです。アジアについては、今後さらに人件費が上昇してくれば自然と向こうからお声が掛かるでしょうから、あせることはないと思います」

――中長期的な目標は?
阿蘓氏「2035年には先ほども触れたように、キーエンスやファナックのような、時価総額が1兆円を超えるような企業に成長させていきたいですね。そのためにもやはり自動化技術は重要です。さらに、現場の安全性確保に関する技術も開拓する余地はすごく大きいと感じています。セキュリティーなどの領域にも注力していきます。LexxPlussに任せておけば新たな工場を整備してくれるし、さまざまなデータを収集・分析して作業の生産性向上を提案してくれるといったところまでカバーしてくれる、というような企業になれれば、本当に日本を代表する産業機器メーカーに成長していけるでしょう」

――今後、顧問にはどういうことを期待しますか。
阿蘓氏「秋葉さんとだったら何の違和感もなく、一緒にビジネスに取り組んでいけると思い、顧問をお願いしました。当社が成長する上で、パートナー企業やステークホルダーとの関係構築がさらに重要になってきますから、いろんな経験や人脈をお持ちの秋葉さんにサポートいただきたいと思っています」

秋葉氏「今はどちらかというと成長するための後押しがメーンだと思いますが、ある程度成長を実現できてくれば、今度はさまざまなリスクを指摘し、備えてもらうことが私の仕事になっていくのではないかと感じています。事業全体とすると、こういうリスクはイメージできていますか?というようなやり取りをすることが求められる。そうした役割を果たしていきたいですね」


米インディアナ州フィッシャーズで新オフィスが入っているビル(LexxPluss提供)

(藤原秀行)

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