「日本の物流施設市場、環境厳しくてもコミットし続ける」
プロロジスのハミード・モガダム共同創業者 会長兼CEO(最高経営責任者)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
モガダム氏は、日本の物流施設開発はデベロッパー間の競争激化や建築コストの上昇などでより事業展開が難しい局面を迎えるとみられるものの、物流施設開発専業として今後も日本市場にコミットしていく姿勢を強調。同時に、ゼネコンとの連携による建設コスト抑制などで自社開発の物流施設の優位性を維持できると自信を見せた。
インタビュー内容を前後編の2回に分けて紹介する。
取材に応じるモガダム氏
コロナ禍は事業の追い風に
――新型コロナウイルス禍の影響で、来日は2019年以来、4年ぶりと聞きました。久しぶりの日本の印象はいかがですか。
「全てが素晴らしいですね。日本の不動産市場はコロナ禍の影響から回復したとの印象を受けています。特にオフィスマーケットは空室率が下がり、活気を感じます。物流施設も好調です。日本以外の国ではまだ活気が戻っていない地域もありますから。当社の日本のスタッフもモチベーションが高いですね」
――プロロジスは1983年の創業から今年で40年を迎えています。共同創業者として、これまでの歩みを振り返ってどのように感じていますか。
「われわれは現在、日本を含む世界19カ国で約1億1400万㎡、5500棟以上の物流施設を運営し、約6700社がわれわれの物流施設を賃借しています。日本に絞っても、今年9月末時点で113物件、約787万㎡を開発してきました。グローバルでわれわれの物流施設に保管された物品の価値は年間約2.7兆ドル(約402兆円)に上り、110万人が施設で働いています。世界経済の中でわれわれの物流施設が大きな位置を占めるようになっていると感じます」
――コロナで物流施設マーケットも大きく変わったのではないですか。
「そう思いますね。大まかに言うと2つの大きな変化がありました。1つはECですね。コロナ禍で巣ごもり需要が高まり、シニア層を含めてこれまでECを使っていなかった人たちがサービスを使い始めました。もう1つは、これまで企業はジャスト・イン・タイムの効率化を追い求めてきて、在庫をなるべく持たないようにしてきましたが、コロナ禍で物流が混乱したことを教訓として、品ぞろえに余裕を持たせるために在庫をある程度持つようになりました。米国の卸・小売事業者は現時点で3%程度の在庫余地を持っているとみられています。ジャスト・イン・ケースへの方針転換が進みました」
――本拠の米国はもともとECがかなり普及していたと思いますが、コロナでさらに利用が加速したのでしょうか。
「そうですね、EC化率がそれまでの15%からコロナ禍で一時は25~26%まで上がりました。その後は経済活動の回復などで若干下がりましたが、中長期的にはこれからまだECの利用は伸びていくと思います」
「これまでにもお話してきた通り、ECはもともと、一般的には取り扱う商品が多品種なことなどから、一般的な小売業と比べて3倍程度の倉庫スペースを必要としています。ECの利用が伸びれば、必要な倉庫スペースも当然増えます」
――コロナが御社のビジネスにとって追い風になった?
「まさにその通りです」
――御社の2023年第3四半期(7~9月)の決算を見ても、運営中施設の平均稼働率は前年同期並みの97%台をキープし、契約更改率は7割を超えるなど総じて好調でした。どのようにご覧になっていますか。
「パフォーマンスの結果はマーケットや投資家の期待を上回りました。ビジネスとしては非常に強かった。ご指摘の通り、稼働率も高い水準で安定しています。非常に良好な四半期だったと思います」
――既存施設のリース契約時の実質賃料上昇率は69.7%で、前年同期(48.4%)の実績を大きく上回り、過去最高でした。かなりハイペースの上昇に見えます。
「コロナ禍以降、市場の賃料上昇率は非常に強いペースを見せています。一例を挙げると、米国で最大の物流施設市場となっているロサンゼルスはこの3年間で賃料水準が実に3倍に達しました。そのようなことは過去にはありませんでした。コロナ禍でEC化率が上がり、先ほどもお伝えした通り、EC事業者はより広大な保管スペースを必要としていますから需要が大きく伸びました。その一方、供給はコロナ禍で開発が遅れるなどしたため需要に追い付かず、賃料が急速に上昇していきました」
――それだけ急激に上がると調整局面が来そうなものですが、上昇局面は今後も続きそうですか。
「米国のインフレ基調はいずれ沈静化していくと思いますが、賃料に関してはこれまでのように急激なペースではないにしても、今後も上昇していくとみています。米国では今後5年間にわたってEC化率がさらに毎年平均1%程度のペースで上昇すると予想されています」
「当社の施設の賃料上昇はそこまで急激ではありません。当社の物流施設の契約期間は平均して5年半くらいなので、契約更改のタイミングまでどうしても賃料を上げられず、市場が急激に動いている場合はタイムラグが生じてしまうからです。逆に言えば、当社としては市場全体の動きに比べて賃料を上げていく余裕がまだ大きく残っているということでもあります。キャッチアップしていくビジネスチャンスは今後も非常に大きいと期待しています」
――日本ではそこまで急激に賃料は上昇していません。
「日本では米国のような現象は起きていませんね。ゆっくりと上昇しています。欧州は日本と米国の中間くらいという感じがします」
「必ずしもバラ色ではないかもしれないが」
――日本はコロナ禍に入った後も、物流施設の需要が旺盛で、依然大量供給が続いています。
「コロナ禍の前後を見ても供給は結構増えています。もう少し空室率が上昇するのではないかと予想していたのですが、そこまでひどくはなりませんでした。スペースが順調に消化されていて、需要の強さにちょっと驚いています。ただ、建設費の高騰で今後は競合のデベロッパーは開発をもう少し抑えてくると思いますので、新たな供給は緩やかに減っていくのではないでしょうか。コスト上昇でプロジェクト全体の金額が膨れ上がると、やはり資金調達の面で事業を拡大していくのが難しくなってきます。当社は金融機関や投資家の方々とは古くから緊密に関係を築いてきましたから、そのような問題はありませんが」
――日本の不動産市場の優位性だった低金利も、今後は緩やかに上昇していくとの見方が投資家などの間で強いです。金利水準は不動産開発に大きな影響を及ぼすファクターですが、今後をどのように展望されていますか。
「さまざまなコストが上昇すると新しい物流施設の供給は、賃料もある程度上げていかないと成りたちません。金利自体も上昇の可能性がある。そういう意味では、全体的に供給のスピードがこれまでよりもゆっくりになっていく可能性はあるでしょう」
――建設コスト上昇はデベロッパー全体がかなり苦しんでいます。御社も対応に苦労しているのでは?
「おっしゃる通り、全体的に上昇しています。それでも、われわれは長年にわたる日本の事業を通じてゼネコンと良好な関係を構築できています。ゼネコンの側では労働力不足の影響で仕事を選ぶ傾向が出てきていますが、今のところわれわれは最低限必要な仕事をゼネコンに発注できます。当社の中には専門家集団もおり、さまざまな知恵を絞ることができますから、他のデベロッパーさんよりはコストを下げられているかもしれませんね。もちろん、全体的にはコストは上がっているのですが」
――建築費上昇は、日本は海外と比べてどうですか。
「世界中で建設費は上昇しています。過去5年間、インフレとともに上昇していますが、その中でも日本の上昇基調は目立っていますね。要因としては少子化、労働力不足でしょう。多分日本が一番課題になっている感じですね」
――コストは上がるし、デベロッパー間の競争が激しく適切な開発土地をなかなか見つけにくいし地価も高騰している。日本は物流施設開発事業を進める上で、難しいマーケットになってきているように思えます。
「需要自体はこれからも旺盛だとは思いますが、先行きは必ずしもバラ色ではないかもしれませんし、新たに参入されたプレーヤーにとってはあまり魅力的な市場ではなくなってきたかもしれません。やはり物流施設開発で最も重要なのは価格とロケーションですから。利益率も減ってきています。過去10年間と比較すると、これからの5年間は難しい市場になっていくでしょう。しかし、われわれは物流施設専業として蓄積してきた技術や知見があります。ビジネスは維持して頑張っていく予定です」
――今後も日本市場にコミットする姿勢は変わらない?
「その通りです。ビジネスチャンスをちゃんとつかめるよう、引き続き取り組んでいきます」
(後編に続く)
(文・藤原秀行、写真・中島祐)