モンゴルの血液空輸成功で説明会開催
ドローンと様々な輸送手段を組み合わせ、離島や中山間地などの物流ネットワークを維持する新スマート物流「SkyHub(スカイハブ)」を展開しているエアロネクストは12月8日、東京都内の本社で、モンゴルで今年11月にドローンを活用した血液配送の実証実験に成功した件に関するメディア向け説明会を開催した。
モンゴルの航空管轄当局から正式に許可承認を得て、ドローンで血液を輸送したのは初めてという。同社の田路圭輔代表取締役CEO(最高経営責任者)ら実証実験に携わったメンバーがその狙いや意義を解説した。
田路CEOは海抜約1300m、気温がマイナス15℃という過酷な状況の下、現地の担当省庁などの協力を得ながら、日本でSkyHubを通じて積み重ねたドローン物流のノウハウを生かし、成功にこぎ着けたと説明。「うちのスタッフが頑張ってくれて、世界初の実績を残せたのは本当にうれしく、誇りに思っている」と喜びを語った。
モンゴルでは血液以外にも、料理や日用雑貨品のドローン輸送で需要が見込めると指摘、事業化は可能との見解を示した。さらに、モンゴル以外に物流インフラの整備がまだ十分進んでいない中央アジア各国でも、ドローンなどを活用したSkyHubの枠組みを展開、先進的な物流ネットワークを構築していくことに強い意欲をのぞかせた。
説明会には、田路CEOに加え、同社の取締役運航統括責任者の青木孝人氏、技術部長の内藤玄造氏、執行役員グローバルCMO(最高マーケティング責任者)CEO室長の伊東奈津子氏、CEO室グローバルビジネス担当マネージャーの川ノ上和文氏が参加した。
血液を載せて国立輸血センターの駐車場を離陸し飛行する物流専用ドローンAirTruck(エアロネクスト提供)
ウランバートル市内を血液を載せて飛行する物流専用ドローンAirTruck(エアロネクスト提供)
説明会に参加した(左から)青木氏、田路CEO、川ノ上氏。机上にあるのは実験で使った血液の専用輸送容器
明確な規制存在せず、課題を1つずつクリア
田路氏らによれば、モンゴルでのドローン物流に関しては、JICA(国際協力機構)の2022年度「中小企業・SDGsビジネス支援事業」のニーズ確認調査に採択されたことが、本格的に取り組むスタートとなった。
モンゴルの人口の半分程度の約160万人が集中している首都のウランバートルは交通渋滞が慢性化し、道路インフラの整備も進まず、大気汚染も社会問題化していた。緊急性のある医療品や輸血の輸送についても、渋滞に巻き込まれ長時間を要し、看護師らも非効率な業務を強いられていた。
そうした課題を解決する上で、エアロネクストはSkyHubの枠組みが有効とみて、JICAやモンゴル民間航空庁(CAAM)、ウランバートル市、土地測量地図庁、気象環境調査庁の協力を得て、実証実験の準備を進めてきた。
セイノーホールディングス(HD)、KDDIスマートドローンとも連携し、当日は国立輸血センターとモンゴル国立医科大学付属モンゴル日本病院の間で往復9.5kmを飛行、血液と医療液2種類の計3種類を、必要な温度帯に分けて専用の輸送容器に収め、往復約25分で無事空輸することができた。日本の「レベル4」(有人地帯上空の目視外飛行)に相当する飛行だった。
モンゴルには現状、そもそもドローンなど無人航空機の飛行に関する明確な規制が存在しておらず、CAAMなどと課題を1つずつクリアしていった。外為法によるドローンの機体輸出規制の問題も、日本の経済産業省などと調整を重ねて克服した。
青木氏によれば、極寒の影響でドローンの機体が反り返ってしまったり、バッテリーが激しく消耗したりと、日本で経験しないようなトラブルも相次ぎ発生し、その都度対応に追われたという。日本でSkyHubを共同で展開しているセイノーHDがグループで展開している医薬品輸送のノウハウを活用したほか、北海道上士幌町でドローンを使い牛の受精卵を運ぶなどした経験も生かし、課題をクリアしていった。
青木氏は「本当に渋滞がものすごく、空港からウランバートルまで5時間を要した。困っている人が絶対いると分かっているので、実証実験を成功させて、人を助けないといけないとの使命感があった」と振り返った。ドローン飛行に必要な地理的データについても、必要性を粘り強くモンゴルの土地測量地図庁などに働き掛け、理解を得てデータを提供してもらったという。
当日のドローン配送の流れ(エアロネクスト提供)
ドローン配送した血液と医療液が入ったAirTruck専用箱(エアロネクスト提供)
看護師が見守る中、モンゴル国立医科大学付属モンゴル日本病院の屋上に血液が入った箱が切り離され配送された様子(エアロネクスト提供)
ドローン配送された箱を受け取り中の血液を確認するモンゴル国立医科大学付属モンゴル日本病院の看護師(エアロネクスト提供)
田路氏は「住民の方の間ではドローンが上空を飛ぶ恐怖より、今の不便、課題を変えていかないといけないという思いの方が強い。日本でもSkyHubの活動をさらに頑張るが、モンゴルのためにも社会実装したいと感じた。実証実験で終わらせてくれるな、やるからには実装してくれというのがモンゴルの方々の思い。これをやらなくて、エアロネクストをやる意味があるのかと思った」と、モンゴルの社会課題解決支援の意義を語った。
川ノ上氏も「モンゴルは民主化から30年で、株式会社というシステム自体もまだ新しいほど。産業を前向きに変えていきたいとの思いは、どのレイヤーでも共通していた。都市部以外のゲル(伝統的な移動式住居)が多く存在している地区は物流網がまだまだ非常に弱い。こういう仕組みがあればお役に立てると思う」と指摘した。
米スタートアップ・ジップラインの事例を参考に
今後のモンゴルでの展開について、田路氏は投資会社のNewcom Group(ニューカムグループ)と事業化に向けた連携で基本合意したことに言及し、「非常にわれわれと思いが一緒で、Newcomとの出会いがあったので、この話を進められると思った。具体的にドローン配送の議論を始めている。本気でやるつもりで準備を進める」と指摘。JV(合弁)を組むことになるとの見方を示した。Newcom Groupから人材を日本に招き、ドローン物流の知識とノウハウを習得してもらうことなども想定しているという。
田路氏は「SkyHubはグローバルなビジネスと思っている。海外へのアプローチをしていく中で、SkyHubを海外に持って行きたいとずっと考えていた」と強調。米国でドローン物流を手掛けるスタートアップのZipline(ジップライン)がアフリカでドローンによる血液や医療機器などの輸送を実現していることを参考にして、モンゴルにフォーカスしたと語った。その上で、「規制が非常に厳しい日本とは異なり、モンゴルは今後、規制と実装が同時に進むことが見込まれる。規制を作りながら実装していくところが非常に面白いと思った」との思いを吐露した。
川ノ上氏は、SkyHubを海外展開する上で、当初は進出のしやすさを踏まえてマレーシアなど東南アジアを視野に入れたものの、競争が激しいことが見込まれたため、モンゴルに着目したことを明らかにした。
田路氏は「ドローンは重要なソリューションだが、ドローン単体で物を考えるのではなく、その向こうの中央アジアの物流全体をどうしていくか、というところまで拡張してNewcom Groupと話していきたい。日本で今一緒にやっている方々に対して、ドローンの可能性はここまで大きいということを見せたかった。反響がめちゃくちゃあった。いろんな方からモンゴルの話を聞きたいと要望があった」と壮大な夢を語った。
海外での展開に関しては「モンゴルにカスタマイズしていく予定はあるが、基本はSkyHubでやりたい。中央アジアの展開についても同じ」と強調した。
(藤原秀行)