第11回:2024年、日本企業は何をすべきか?
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。
中国の対日不満のバロメーター
激動の2023年が間もなく終わろうとしている。最近はイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃がエスカレートし、どのような形で戦闘が終わるのか全く予想することができず、世界の関心は中東に集まっている。しかし、日中両国間の経済や貿易関係も今年は中東情勢と同様、極めて難しい1年となった。
当然のことだが、日本も中国もお互いの関係が悪化することは望んでいない。今日でも日本にとって中国が最大の貿易相手国であることは変わっておらず、経済成長率が鈍り、欧米企業の対中懸念が強まる中、中国にとっても日本は必要な経済アクターだろう。しかし、今年1年を振り返ると、来年以降も日中の経済、貿易関係には暗い影が見える。
その1つの発端は、昨年秋にバイデン政権が先端半導体分野で対中輸出規制を強化したことにある。中国の軍備増強が続く中、米政府は先端半導体が中国によって軍事転用されないよう強硬策に踏み切った。しかし、米国単独では中国による先端半導体獲得を完全には防ぎきれない恐れがあることから、バイデン政権は今年1月、先端半導体の製造装置で世界の先端を走る日本とオランダに対し、米国と足並みを揃えるよう要請した。
その後、中国による軍事転用を警戒する日本は3月、米国と同じように中国向け輸出の規制を開始することを表明。7月下旬には14ナノメートル幅以下の先端半導体に必要な製造装置、繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置、洗浄・検査に用いる装備など23品目で対中輸出規制を開始した。
こうした日本の姿勢に、中国は即座に反応した。7月初めに半導体など電子部品の製造に欠かせない希少金属ガリウムとゲルマニウムの輸出規制強化を発表した。その直後には中国共産党系の機関紙「環球時報」が「米国とその同盟国は中国による主要材料輸出制限に込められた警告に耳を傾けよ」と題した社説を掲載。明言こそ避けているものの、この「同盟国」が日本を指していることは想像に難くない。
中国は今年春に米国に同調する姿勢を発表した時点で反発し、電気自動車や風力発電用モーターなどに欠かせない高性能レアアース磁石の製造技術の禁輸などを対抗措置として示していた。加えて、日本が23品目の輸出規制を決めたことは中国側の不満をいっそう高めることになった。
その後、中国は東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出に伴い、日本産水産物の全面輸入停止という措置を実行に移したが、これも日本に対する一連の不信感の延長線上で考えられる。今回の中国側の措置がどの程度インパクトあるかは人によって認識が違うだろうが、中国側の対日不満がどれほど強いものかを示す1つの象徴と言えるだろう。
これまでの米中半導体覇権競争は今年、日本を取り込む形で拡大し、日中間の経済、貿易関係に大きな摩擦を生じさせることになった。米中の両国が表向きは対立姿勢を崩していない中、2024年もこの緊張状態が続く可能性が高い。本連載でこれまでにも繰り返し訴えてきたが、日本企業は駐在員の安全確保、サプライチェーンの在り方の見直しなど、中国市場といかに向き合って行くか、いかに有事に備えるかを真剣に考える時期に来ている。
(次回に続く)