主催のShippio・佐藤CEOインタビュー、「CLO」の在り方提案も
Shippioは「2024年問題」や人手不足など物流が抱える課題解決に向けDXを促進するため、有識者らが具体策を議論する独自イベント「Logistics DX SUMMIT 2024~インダストリアルトランスフォーメーションへの道~」を今日(5月23日)午後、東京都港区港南の「品川インターシティ」で開催する。
ITを駆使して産業全体を変革する「インダストリアルトランスフォーメーション(IX)」に焦点を当て、物流業界の内外からリーダーらが参集しDXをいかに物流現場で進化させていくかなどについて意見交換、関係者に情報発信する予定だ。ShippioがLogistics DX SUMMIT(LDS)と称したイベントを開くのは初めて実施した昨年3月以来、2回目となる。
オンラインで開催した第1回は2日間で延べ2058人が視聴する盛況ぶりだった。Shippioの佐藤孝徳CEO(最高経営責任者)は第1回開催の時から、スイスの著名な非営利財団「世界経済フォーラム」がスイスの美しい保養地ダボスで非常に影響力が大きい世界各国の政財界リーダーや学識経験者を集めて開く年次総会を踏まえ、「LDSを物流業界版のダボス会議(賢人会議)にしたい」と意気込んでいる。今年のLDSの見どころなどについて、佐藤CEOに聞いた。
取材に応じる佐藤CEO
実視聴者は2日間で2000人超え
――第1回のLDSからもう1年以上が経ちました。第1回はディー・エヌ・エー(DeNA)創業者の南場智子氏ら多彩なメンバーが登壇し、取り上げたテーマも大企業とスタートアップの連携、ベンチャーキャピタルから見た物流業界、カーボンニュートラル、多様性のある組織の作り方など、バラエティに富んでいたのが印象的でした。あらためて、昨年の内容を振り返られていかがでしょうか。
「物流業界は産業の特性として、クローズドなコミュニティーが多いことがずっと課題でした。これだけ世の中がどんどん複雑になっていく中で、荷主企業や物流企業、ソフトウエア開発会社、投資家、政府関係者といった方々を巻き込み、物流が抱える課題について話をしていくことが非常に重要だと考えています。しかし、物流だけを切り出して話し合うのはなかなか難しいため、LDSを立ち上げました。まさに物流版のダボス会議のように横断的に議論できる場を作りたかったんです。おかげ様でかなり反響があり、視聴登録が約3000名、そのうち実視聴者が7割の2058名とかなり高い比率でした。メディアにも6社で計40以上の記事を掲載いただきました」
「実際に視聴された方の所属されている業界を分析してみると、やはり物流業界が圧倒的に最も多く、次いで商社でした。特筆すべきは情報通信が3番目に来ていたということですね。こういった会議にしては非常に珍しいのではないでしょうか。役職別では管理職・役員級の方が約半数を占めていました。企業のリーダー層が物流スタートアップとの連携といったテーマに興味を持ち始めているのではないかと感じます。ぜひさらに興味を持っていただきたい。大手企業の方たちが多く見に来ていただいたのも特徴だと思います」
第1回のオンライン中継の様子。南場氏と対談する佐藤CEO(画面をキャプチャー)
――佐藤CEOは以前からLDSを、世界の要人が定期的に集結して政治や経済、社会の課題解決策を話し合う「ダボス会議(賢人会議)」の物流業界版にしたいと発言されています。「創造的新陳代謝」をテーマに掲げた昨年の第1回はどこまで手応えがありましたか。
「第1回という意味では、かなりたくさんの業種の方々が集まったという点で1つの成果はあったのではないかと思っています。今年、協賛企業や登壇者の方々ともお話をしているのが、大事なのは継続することだという点です。ダボス会議もおそらく1回目、2回目はやってみて、今後はどうなんだろうかと不安に思う人がいっぱいいたんじゃないかと思います。何十年も続けているからこそ、現在のようなしっかりとした形になっていくという部分はあるでしょう。まだまだこれからではありますが、いいスタートが切れたんじゃないかと自負しています」
――これだけの注目度だったということは、物流業界でもLDSのような、ともに議論できる場を求めていたということなのでしょうか。
「それはあると思いますね」
――第1回のLDSはみんなが集まって話し合うことができてよかったね、で終わりではなく、大企業とスタートアップがより連携すべきといった、ある程度結論のようなものが出ていたと感じています。そうした点からも物流版ダボス会議の滑り出しとしては満足できたのでは?
「私はなかなか簡単に満足しない人間なんですが(笑)、スタートアップがこういう形で大規模な会議が開催できると証明できたことについては、インパクトが大きかったですし、 オンラインで見たよとおっしゃる方も1年間通して結構いらっしゃいました。もう1つよかったことは、ShippioがすごくShippioを売り込んだという会議では全くなくて、フェアな立場といいますか、Shippioってこうなんですよということではなくて、中立の立場でお話を進めることができたのも1つの成果だと考えています。こういう会議はとても面白いよねと言ってもらえたのも成果ですし、同時に今年もやっぱり面白かったねと言ってもらえるところまでいかないといけないと考えています」
――今回、オフライン開催にした狙いは?
「前回は、また新型コロナウイルス禍でマスクをされている方も多くいらっしゃった状況を考慮し、オンライン開催を選択しました。それに対して今年は第2回となり、ちゃんとみんなで集まってやりたいということで会場を借り切りました。オンラインとオフラインの“ハイブリッド開催”を期待される声もありましたが、それでは参加される方の熱量がどうしても分かれてしまいます。われわれはダボス会議を実現したいという思いがありますから、皆さんがちゃんと集まって話す形にこだわりたい」
「昨年はおっかなびっくりやってみた結果、ちゃんと人に集まってもらえました。開催自体が大きな挑戦でした。今年はオフラインでやることがまた新たな、大きなチャレンジです。オンライン開催であればパソコンを開けば手軽に見ていただけますが、品川の会場までお越しになって話を聞いていただくのは決して難易度が低いものではありません。会場でもちゃんとみんなで話を聞けて盛り上げられるといいなと意気込んでいます」
さなぎが蝶になるような変革を
――第2回のテーマを「インダストリアルトランスフォーメーション(IX)」にされた狙いは?
「まずDXがあって、その先にITで企業そのものを変革するCX(コーポレートトランスフォーメーション)、さらにその先にIXが起きると考えています。IXは産業全体を『アップデート』するのではなくて『トランスフォーム』するということがすごく重要なキーワードだと思っています。トランスフォームはさなぎが蝶になるように、完全に形が入れ替わる大規模な変化です。まさに物流という産業のトランスフォーメーションを実現したいんです」
「そんな思いから、基調講演は企業再生支援を手掛ける経営共創基盤(IGPI)の西山圭太シニア・エグゼクティブ・フェローに登壇いただき、レガシー産業が直面する課題は何かや変革をどのように進めればいいのかといった内容についてお考えを伺う予定です。私はIXが日本で先に進んだのは金融界だと思っています。銀行も決済も大きく変革が進み、最近はもはや日本人はバーコード決済などが普及し、現金自体をあまり持ち歩かなくなりました。ドラスティックに変わりました。そういうことを事例にしながら、お話をしていきたいと思っています」
「また、『サプライチェーンの革新を担う、CSCO/CLOのあり方』と題して、YKK APで初のCLO(最高ロジスティクス責任者)に就任された岩﨑稔執行役員といった方々に、政府の2024年問題対応の政策パッケージで設置義務化が盛り込まれたCLOはどのような役割を担うのかなどについてお話いただきます。日本ではCLOやCSCO(最高サプライチェーン責任者)に任命されている人自体がまだまだ少ないので、日本発のCLOとは具体的に何をする人なのかを、登壇される皆さんと明らかにしていきたいと考えています」
「さらに、セイノーホールディングスとスタートアップのラクスルの合弁となっているハコベルの狭間健志社長CEO、日本を代表するM&A仲介会社の1つ、ストライクの荒井邦彦社長とともに『大企業とスタートアップの協業・M&Aが起こす業界再編』をテーマとしてセッションを行います。物流業界は事業の担い手が減っていくことが避けられない中、M&Aによる業界再編は必ずあるのではないか。物流会社が競合の物流会社を買うのはこれまでにもありましたが、スタートアップが物流会社を買ったり、スタートアップが物流会社とJV(合弁)を組んだりといった新しいパターンが出てきて、状況は複雑化しています。M&Aは失敗すると機能不全が起きる。異業種の組み合わせの中でどういうことが成功のキーになってくるのかについてお話をしたいと思います」
「企業の脱炭素を進めるGX(グリーントランスフォーメーション)について、旗振り役の経済産業省産業技術環境局の大貫繁樹環境政策課長に登場いただき、足元でできることや、一般の事業会社がどういったことを実施しなければいけないかといったことに関して国の考え方をご説明いただきます。さらに、『儲かる物流DX』を実現するため、Ocean Network Expressの道田賢一Digital Yield Management, Senior Vice President、三菱食品の田村幸士取締役常務執行役員SCM統括、SAPジャパンの村田聡一郎コーポレート・トランスフォーメーション ディレクターに、売り上げ向上やコスト抑制の種明かしをしていただく予定です」
――LDSに関して今後新たに考えていることはありますか。
「今年はまだ難しいとは思いますが、来年の2025年ごろからやりたいなと思っているのは、会議全体を通じた共同声明みたいなものを出せるようにしたいということです。われわれ自身が力を付けていきながら実現したい。さらに、本編に加えて、スピンオフのようなイベントにも挑戦していきたいですね」
――CLOはご指摘の通り、法律で義務化されることもあって、多くの企業が取り組まなければいけないことは理解していますが、具体的に何から進めていくべきかがはっきりと分かっていないのが実情です。仏を作って魂はどうやって入れるのか、という状況だと感じます。そうした状況に、今年のLDSは一石を投じそうです。
「もちろん、CLOはいかにあるべきかという問題に対する答えは容易には出ないとは思いますが、検討すべき面白い領域だと思いますね。やらなければならないけれども、どこから始めたらいいんだろうと悩んでいる方々にとっては、LDSのセッションは非常に良いヒントになるのではないでしょうか」
――来場される方々にメッセージをお願いいたします。
「2024年問題に対しては皆さん、ここ数年で手を打たれたと思います。ここから先の課題設定を考えるべき時に来ています。課題とは業界再編かもしれませんし、DXやCX、IXもあるでしょう。CLOの設置もそうでしょうし、いくつもポイントはあります。今回のLDSがまさに『ビヨンド2024』、これからの取り組むべき課題と対策をみんなで考える1つのキックオフになればうれしいですね。もう1点は、イノベーションをはじめ面白いことやってみたいという方々が500人、1000人と集まれば1つの熱狂が生まれるのではないかと思っています。今年も多様性に富んでいるゲストが登壇されます。日本ではなかなかないカンファレンスだと自負しています。しかも無料なので、われわれとしては慈善事業のようなものなのですが(笑)、物流業界が好きだとおっしゃる方にはぜひ来ていただきたい。LDSはイノベーションを作り出す地合いの整備を担っていきます」
東京・浜松町のオフィス。エントランスに絵が並べられるなど、独特の雰囲気
(藤原秀行)