【独自】プロに見せたい物流拠点(第11回)STOCKCREW「Chiba Dock」

【独自】プロに見せたい物流拠点(第11回)STOCKCREW「Chiba Dock」

EC出荷代行でAMR90台運用、1日2万件をこなす

課題山積の物流業界でピンチをチャンスに変えようと、省力化や生産性向上などに果敢に挑む物流施設を紹介するロジビズ・オンライン独自リポート。第11回はEC事業者の商品発送代行を担うSTOCKCREW(ストッククルー)が千葉県八千代市で運営している「Chiba Dock」(千葉ドック)に焦点を当てる。

一律かつ割安な料金で出荷代行を利用してもらえるよう、AMR(自律移動ロボット)を大量に導入してピッキング作業を大幅に効率化、1日2万件の発送をこなしており、他にも細かな改善を積み重ねている。


「Chiba Dock」が入る「プロロジスパーク八千代1」(プロロジス提供)


Chiba Dockの作業エリア

利用者の規模問わず一律料金

STOCKCREWはEC事業者の商品発送代行を手掛けている。もともとは2018年に発足した物流業務効率化やロボット導入支援を担うKEYCREW(キークルー)が新たにBtoCの通販に特化した物流業務受託サービス「STOCKCREW」をスタート。その後、取り扱い業務量の拡大を受け21年に分社化し、サービス名を社名に掲げている。

STOCKCREWのサービスは初期費用や固定費ゼロの従量課金制で、個人事業主から大手まで、利用するEC事業者の規模を問わない一律料金を設定しているのが特徴だ。例えば、保管料は縦・横・高さ約10cmのサイズを1単位に設定し、STOCKCREWの物流拠点に保管している商品を体積に換算して何単位分に相当するかを日次計算して課金している。事前に物流コストがどの程度かかるのか分かりやすくすることで、利用のハードルを下げている。

商品の管理システムは自社で開発、無料で提供。主要な通販サイト運営事業者らのシステムとAPI連携し、各通販ショップで受注したデータをSTOCKCREWの管理システムと共有できるようにしているため、EC事業者が受注データをSTOCKCREWの管理システムにその都度登録する手間を省いている。


Chiba Dockの出荷作業エリア

現状では縦・横・高さの合計が80cmより小さい「80サイズ」以内で収まるサプリメントや化粧品、アパレル、日用雑貨品などを多く取り扱っている。しかし、STOCKCREWでは、特定のカテゴリーに強くなるよりも、幅広い商品をカバーできるようにすることを重視している。

23年10月、EC市場の成長に伴い発送代行へのニーズも継続的に伸びていくとみて、千葉県八千代市でプロロジスが開発した物流施設「プロロジスパーク八千代1」内の約1万1400㎡に入居、新たな物流拠点「Chiba Dock」(千葉ドック)を立ち上げた。

Chiba Dockはプロロジスが設定した小規模EC事業向けフルフィルメントサービスを提供するための専用区間「THE CUBE(ザ・キューブ)」の運営を担っている。STOCKCREWとプロロジスは八千代での活動開始と同じタイミングで業務提携しており、特に小規模のEC事業者の成長を物流面からサポートしていきたいとの思惑で一致した。

現在、Chiba Dockの発送数は月60万件、1日当たり平均して約2万件に及ぶ。商品の配送はヤマト運輸に委託している。請け負っているEC事業者は600余りで、このうち頻繁に商品の入出荷があるのは100程度という。Chiba Dockのフロアは8区画を使っており、1区画が1400㎡余り。入荷場と出荷場にそれぞれ1区画を充て、残る6区画を保管スペースとして活用している。

千葉ドックは、KEYCREWと合弁を展開している中国系の物流ロボットメーカー、シリウスロボティクス製AMR(自律移動ロボット)をピッキング作業へ大量に投入している。当初は60台規模でスタートし、サービス利用が伸びているのを踏まえて今年6月に90台規模まで増強した。さらに、今年末までに100台へ拡充する予定だ。国内の物流拠点でも最大級の運用台数とみられ、業務の繁閑に合わせて台数を調整している。


シリウス製AMR

AMRはピッキングすべき商品が納められた棚の場所へ移動し、パネルの画面上に商品の概要やピッキングする個数を表示する。スタッフがAMRのところまで行き、指示通りに商品を搭載しているケース内に収めると、AMRが次のピッキング対象商品のところまで再び自律移動する。

AMRを本格的に稼働させたことで膨大な紙の出荷リストが不要になり、誤出荷のリスクが低減、同一のフロア規模で必要なピッキング作業スタッフの数を従来の半分程度に抑えられた。庫内作業スタッフがピッキングのために庫内を歩き回る距離を大幅に短縮、就労環境の改善にもつながっている。

STOCKCREWの保阪涼子マーケティング部マネージャーは「AMRの導入で大量の出荷業務をこなせるようになっている。午後2時までの受注分は当日出荷が可能。以前より庫内を歩く距離が半分程度まで短縮できたスタッフもいる」と自動化の効果を強調する。


ピッキングの様子。画面上の指示に従い、商品をケース内の指定の場所に収める

保管場所散らしてAMRの渋滞回避

入出荷と保管に加え、ちらしの同梱やギフト用包装などをオプションサービスとしてそろえている一方、ECで広く行われている「ささげ業務」(商品撮影・採寸・紹介原稿作成)は取り扱わないなど、対応する業務を絞り込むことでコストが膨れ上がらないよう配慮している。

庫内の保管方法も常に効率的なやり方を模索している。現在は3段のネステナーで商品を保管しており、このうち一番下に売れ行きが良い高回転の商品を、2~3段目はそこまで頻繁には出荷しない商品をそれぞれ収めている。

AMRのピッキングは1段目の商品を対象に実施している。ただし、すべて出荷されることが確実な売れ筋商品については、1段目でもパレットに段ボールケースのまま保管する場合もある。


3段に分けているネステナー


フォークリフトが細かく動き、パレットを迅速に移動させる

ネステナーの一番下はプラスチック製ケースを縦5層に積み重ね、売れ行きが良い高回転の商品を1個から保管している。1つのケース内に複数のEC事業者の商品を詰め合わせることもできる。ケースごと引き出せばすぐに商品を取り出せるため、作業スタッフはAMRの指示に従い、迅速にピッキングを進められる。

1段目に収める高回転の商品は入荷後、仮のロケーションをいったん割り振った後、担当スタッフが空いているプラスチック製ケースに順次商品を納め、管理システム上のロケーションを更新している。特定のEC事業者の人気商品をあるエリアに固めて保管するという運用はせず、ロケーションフリーで余裕があるケースを選んで格納するようにしている。

Chiba Dockの利光将訓リーダーはロケーションフリーを採用している狙いについて「1つのエリアを全て1社の商品にしてしまうとAMRがその場所に集中し、渋滞が発生してしまう。あえて保管場所を散らすことでAMRの運用を効率化している」と語る。併せて、パートタイマーの人たちも担当業務を固定せず、定期的に役割を変更することで様々なシーンで活躍してもらえるよう努めている。


高回転の商品が入るケース。引き出せばすぐに中から取り出すことが可能


ケース内の商品

専任チームが在庫をメンテナンス

併せて、在庫のメンテナンスを担当しているチームが自社の管理システムで各商品の回転率を日々チェックし、1段目に入っている商品でも出荷頻度が落ちてくれば上段に移し替えている。逆に上段の商品に注文が入れば段ボールケースを開梱して1段目に降ろし、プラスチック製ケースに格納、今後の注文に備える。細かく在庫の配置を見直すことで、作業の生産性を常に高いレベルで維持できるよう努めている。

他にも新たな試みとして、1段目に入れる高回転の商品を取り扱うパレットと、上段に収める商品を運ぶパレットは色を変え、一目で判別できるようにしている。こうした細かなオペレーションの改善の積み重ねと大量のAMRを組み合わせ、安定した出荷を持続させるとともに作業を標準化、割安なサービス料金を保てるよう配慮している。


上段に収める商品を運ぶパレットにはロケーション番号を明記し(上)、どこに収めるかがネステナーのロケーション番号と突き合わせればすぐに分かるようになっている(下)

スタッフが広い庫内を歩き回る距離を減らすため、立ち乗り電動二輪車のセグウェイを生かした独自の台車も複数導入している。チームリーダーらが乗りこなし、作業の進捗状況の確認や商品の運搬などで庫内を駆け回っている。他の物流拠点では見られないユニークな光景だ。

保阪氏は「長時間歩き回ることが庫内作業の中で一番の無駄だと考えている。どれだけ歩行時間を短縮できるか検討してセグウェイの利用を思いついた。在庫の配置なども含めて日々試行錯誤している。現状が完全な正解ではなく、まだまだ完璧でもない。引き続き、さまざまなことに挑戦していきたい」と力を込める。

STOCKCREWは出荷代行ニーズの成長に対応するため、24年中に1拠点、来春にさらに1拠点を新設することを検討している。Chiba Dockで標準化した出荷代行業務をパッケージとして、別の新拠点に横展開していくことも視野に入れている。プロロジスとも協力関係を維持していきたい考えだ。


庫内をスピーディーに動き回るセグウェイ付き台車


保阪氏と利光氏

(藤原秀行)

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