持続可能なラストワンマイル物流、企業連携しイノベーション創出が重要

持続可能なラストワンマイル物流、企業連携しイノベーション創出が重要

アマゾンイベントで関係者が一致、「置き配」浸透など注力

アマゾンジャパンは8月7日、東京都内で「持続可能なラストワンマイル物流に向けての共創」をテーマに掲げ、関係者が物流の持続可能性を高めるための方策について意見交換するイベント「Amazon Academy(アマゾンアカデミー)」を開催した。

さまざまな業界から参加した登壇者はパネルディスカッションで、「置き配」などラストワンマイルを担うトラックドライバーの負荷軽減の取り組みを紹介。企業間で連携することが現状の窮状打開につながるとの認識で一致し、置き配の普及後押しのため宅配ロッカーの浸透やオートロックマンションでも実施可能な「デジタルキー」の普及などを図ることの重要性を確認した。

パネルディスカッションにはイー・ロジットの角井亮一会長、ENEOSの小池泰弘執行理事プラットフォーマー事業部長、高山芽衣Passion monster社長、中村誠三井不動産レジデンシャルリース経営企画部長が参加。進行役はアマゾンジャパンの配送事業部門アマゾンロジスティクスの河合麻衣子シニアプログラムマネージャーが務めた。


パネルディスカッションに参加した(左から)中村氏、高山氏、小池氏、角井氏、河合氏

本業を続けながら空いた時間にアマゾンの配送業務を受託するDSP(デリバリーサービスパートナープログラム)に2023年から参画している高山氏は、応募の理由について「ドライバーは絶対に世の中に必要な仕事と考えた。また、多様な人たちと働ける業界だと思った」と説明。

配達の際、ドライバーがオートロックマンションのエントランスの鍵を開けられず荷物の持ち戻りを強いられるケースがあることに触れ「アマゾンさんはドライバーがオートロックを解錠できる仕組みを提供するなど、再配達を削減する仕組みが整っているので非常にありがたい」と語り、アマゾンが展開しているオートロックマンションでも認証されたドライバーであればエントランスのオートロックを解除できるようにし、置き配を可能にするシステム「Amazon Key(アマゾン・キー)」を評価した。


高山氏

中村氏は、昨年3月にアマゾンと三井不動産レジデンシャルリースが置き配拡大による再配達削減に向け、Amazon Keyの普及で連携を始めたことに触れ「住まわれている方が宅配の荷物を受け取れない機会が非常に増えており慢性適菜課題と感じていた。オートロックの存在が課題をさらに大きくさせていた。多様な受け取り方を選択できる環境を提供したいと考えていたが、セキュリティーを損なうわけにはいかない。利便性とセキュリティーを両立できる解決策を検討し、最終的にAmazon Keyの導入に至った」と解説した。現在では370棟、1万5000戸が利用できるようになっていることも紹介した。

角井氏はアマゾンが2019年に置き配対応を始めたことに言及し「荷物を持っていっても届けられず、配達する人が落ち込む『宅配ブルー』という問題があった。それまで宅配業界では、置き配はできないということを言われていたが、今はこんなに置き配は良かったのかという評価になり、置き配でなければ宅配を頼まないという人が増えた」と解説。

小池氏は、ENEOSグループで三菱商事と組み、各地のガソリンスタンド(サービスステーション、SS)をラストワンマイル配送の拠点として活用する実証を進めていることを報告。「最終的には物流効率化とともに、ドライバーの負荷軽減にもつながるのではないか」と語り、他にもSSをドライバーの休憩拠点などとして運用する案も出ていることを明らかにした。


小池氏

角井氏は、置き配の受け皿となるマンションの宅配ロッカーが満杯で、置き配対応できない場合があるのを受け、中国の実例として、一定程度の日数以上、宅配ロッカーに荷物を入れっぱなしで受け取らない場合は料金を徴収、迅速な受け取りを促すようにすることを提案した。

高山氏は「大きいマンションでも宅配ロッカーが埋まっていて、荷物を届けられないケースが結構あるので、動機付けはかなり必要になってくると思う」と語り、角井氏の姿勢に賛同した。

河合氏は、アマゾンの配送パートナーに対し、自由に働く時間を選べるよう提案していることなどを報告。高山氏も、20代から60代まで幅広い年代の人がDSPに加わっていることを受け、働く時間を柔軟に設定できるようにしていることなどを明かした。

小池氏は、SSが住宅地や商業地など生活圏の近くに立地していることが多い点に触れ、SSを配送拠点に活用することで、自転車などこれまで配送に参画しづらかった領域の人たちもラストワンマイル配送に参加しやすくなるとの見方を示した。

中村氏は、ドライバー視点で現在のラストワンマイル配送を見た場合、利便性の面ではまだ課題があると感じていると語った。その一例として、インターフォンやスマートロック など、マンションのオートロック解除の仕組みはいろいろとできているが、設置している機器の仕様が異なり解除方法も違うとドライバーが複数のやり方を覚えないといけなくなると指摘。「さまざまな方がドライバーとして活躍できるようにするという意味では、できる限りシンプルな仕組みを業界全体で提供することが必要だと思う」と述べ、使用する機器の仕様統一などを図るべきだとの持論を展開した。


中村氏

角井氏は、2017年に騒がれた、宅配現場の人手不足深刻化などの「宅配クライシス」の際、コンビニ店舗での荷物受け取りの方法を物流業界で統一しようとしたが結果としてうまく行かなかったと振り返り、「同じ仕様で作られてくるということができると働きやすくなる」と強調、中村氏に賛同する姿勢を見せた。

小池氏は「全国に張りめぐらしたSSのネットワークをエネルギーの供給拠点のみならず、何かしら物流の拠点として活用できないか今後も検討していきたい」とあらためて表明。荷物を受け取る側の行動変容を促す施策も必要だと訴えた。

高山氏はラストワンマイル物流の機能維持のためには「ドライバ―自身が誇り持つことが必要。世間ではドライバーの仕事は大変だというイメージが強く、過小評価されているところが大きいと思う。ドライバーの仕事は社会から確実に必要とされている。今後、イノベーションを起こすことで働きやすい環境を実現し、外国籍や女性といった多様な人材を迎えて、誰もがあこがれる仕事にしていきたい」と力説した。

中村氏は、マンション探しのポータルサイトで、宅配ロッカーの有無も検索できるようにしていることを明かした上で「ゆくゆくは置き配を含めて、多様な荷物の受け取り方が可能ということ自体が、マンション選びの重要な要素になるのではないか」と展望。「ロボットやドローンといった新しい技術を活用して荷物を受け取る手段が出てくると思う。時代に合わせた新たな取り組みを今後も継続していく」との決意を示した。

角井氏は「宅配ロボットが届けられる社会は必然的に必要になってくる」と語り、先進的な技術導入も不可欠とアピールした。


角井氏

河合氏は「いろんな業界の方々が連携することでイノベーションを起こしていくことができると考えた。これからも企業間連携はラストワンマイルの配送を良くしていく大きな鍵 になるのではないかと再認識した」と締めくくった。

この後、質疑応答に加わったアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は「配送の形、配送パートナーの働き方に関する多様性がすごく大事。働き方は柔軟性や安全性があって、世界を広げていくことがすごく大事だ」と強調。高山氏も「エレベーターのない建物があるなど、厳しい環境がある。他業種と連携していくことは今後必要不可欠だなと思っている」と応じた。

パネルディスカッションに先立ち、国土交通省物流・自動車局の紺野博行物流政策課長と、東京女子大学の二村真理子現代教養学部国際社会学科経済学専攻教授が基調講演に登壇。紺野課長は政府の政策として、物流施設での荷待ち・荷役時間短縮を荷主・物流事業者に義務付けることなどを柱とした改正法を2025年度以降、順次施行することなどを説明した。

二村教授は、物流業界の人手不足を克服するため、女性や障害を持つ人といった多様な人材の確保と、さまざまなバックグランドを持つ人が柔軟に働ける環境の整備を訴えた。


撮影に応じる(左から)高山氏、小池氏、紺野氏、二村氏、角井氏、中村氏、チャン社長、河合氏(アマゾンジャパンウェブサイトより引用)

(藤原秀行)

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