第1号案件公表、リスクマネー供給し老朽化などの課題解決目指す
政府の資金を活用して環境負荷が低いオフィスビルやホテル、商業施設などの建設を後押しする「環境不動産普及促進機構」(Re-Seed機構)が、物流領域に注目している。物流施設は太陽光発電設備を導入して施設で使用する電力を賄うなど、環境負荷低減を重視する動きが広がっており、Re-Seed機構が先進的な開発プロジェクトに資金を供給することで、脱炭素の潮流をさらに強固なものにしていきたい考えだ。
最近では、老朽化やフロン規制強化への対応が課題となっている冷凍・冷蔵倉庫の新築・建て替えの支援にも本腰を入れており、第1号の投資案件も発表した。冷凍・冷蔵倉庫は中小事業者が多いだけに、Re-Seed機構としては民間の投資家から優良な案件にリスクマネーが集まる仕組みを確立し、資金面でより高性能な冷蔵倉庫の整備を下支えしていくことを目指している。高品質な冷蔵倉庫の開発を促すことができるかどうか、関係者の手腕が試されている。
民間資金の「呼び水」に
政府は2013年に閣議決定した「日本経済再生に向けた緊急経済対策」の一環として、国土交通、環境の両省が主管する「耐震・環境不動産形成促進事業」を推進することを表明。同事業で創設した政府の基金から拠出した資金を運用する法人として、Re-Seed機構が発足した。その使命を「政府の施策とも連携して、環境不動産の供給促進、わが国の不動産の資産価値の向上および不動産投資市場の活性化を達成していく」ことと設定している。
目標の達成に向け、不動産の新規開発や改修を担う民間のプロジェクトに投資しており、資金運用などの業務は日本政策投資銀行(DBJ)系のDBJアセットマネジメントや日本不動産研究所に委託している。対象となるプロジェクトは、一定の耐震性能や、国交省が主導する「建築環境総合性能評価システム(CASBEE)」のような環境性能を取得していることなどを条件に設定している。
Re-Seed機構の山﨑智之企画部長兼事務局次長は「われわれの活動のスタンスは基本的に民間投資の補完との位置付け。環境不動産の形成促進との目的を持った公的な資金を投入することで、他の民間資金の呼び水となることを目指している」と説明する。
取材に応じる山﨑氏
23年には投資対象の条件を一部見直し、24年3月末時点で東京や大阪、神奈川、福岡など24件の不動産開発プロジェクトに総額約420億円を出資してきた。例えば、築40年を超え老朽化が目立ち、巨額の費用が見込まれるため民間だけでは十分な資金調達が難しいことが想定された大型オフィスビルの大規模リノベーションプロジェクトに資金を供給。CASBEEの最高ランク「S」を取得し、以前より年間でCO2排出量を約1850t削減できるようになったという。
新しい領域としては、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の改修もサポート。投資対象としてはまだ歴史が浅いことなど、投資に際してはどうしても慎重にならざるを得ない要素があったが、Re-Seed機構がリスクマネーを供給して他の投資家を後押しし、省エネ物件へ転換させることで施設の稼働率をほぼ100%まで高めることに成功した。
物流施設はこれまでに2件に投資。その1つが、東急不動産が大阪府茨木市で開発、2024年に竣工した「LOGi’Q(ロジック)南茨木」だ。地上4階建て、延床面積が約16万1500㎡と同ブランドの物件としては過去最大の規模を備える。屋根上に大容量の太陽光発電設備を設置、生み出した電力を自家消費するとともに、余剰分は近隣の大阪府箕面市で同社が運営している商業施設に自己託送し、有効活用している。こうした環境負荷低減の取り組みの一端を担ったのが、Re-Seed機構のサポートと言える。
山﨑氏は「発足当初の、そもそもなぜ不動産に環境の価値を付けないといけないかを投資家の方々などに説明する必要があるというフェーズから、明らかに状況は変わってきている。より求められる耐震・環境性能が高くなってきている」と指摘。「環境不動産を世に創り出すとともに、地域活性化や地方創生もわれわれの役割として力を入れていきたい。都市部以外の物件でも支援のご要望、相談が寄せられている」と語る。
そうした動きの延長線上として、今年3月には新たに霞ヶ関キャピタルが埼玉県越谷市で開発を進める冷凍自動倉庫「(仮称)LOGI FLAG TECH(ロジフラッグテック)越谷Ⅰ」に資金を拠出したと発表した。霞ヶ関キャピタルは冷凍・冷蔵倉庫の自動化を進め、従業員が低温下の過酷な労働環境で働く時間を減らし、負荷を軽減、より働きやすくすることを狙っている。越谷でも自動化に注力するとともに、ノンフロンの自然冷媒を用いるなど、社会課題の解決に尽力している。
Re-Seed機構としてはこうした点を評価。CASBEEのAランク認証以上を取得することを前提として、霞ヶ関キャピタルが立ち上げたSPCに資金を供給した。具体的な額は開示していないが、開発プロジェクトは三菱UFJ銀行、三菱HCキャピタルのほか、東京センチュリーが各種ローンを提供、官民協調体制となっている。
「(仮称)LOGI FLAG TECH(ロジフラッグテック)越谷Ⅰ」の竣工イメージ(Re-Seed機構プレスリリースより引用)
日本冷蔵倉庫協会の調査によると、23年12月時点で築30年を超えている冷凍倉庫が全体の約6割に達している。山崎氏は「冷凍・冷蔵需要が伸びて保管のキャパシティーが足りていないという問題もある。しっかり運営すればきちんと収益を挙げられるだけに、さまざまな課題解決を後押しするという意味でも、プロジェクトのアセットマネージャーの方々とよく相談しながら話を進め、集中的に力を入れていきたい。中小事業者の皆さんにもぜひ地域の金融機関産などを通じてRe-Seed機構を頼っていただきたい」と意気込みを見せている。第2、第3の有望な冷凍・冷蔵倉庫プロジェクトを探していく構えだ。
(藤原秀行)