【現地取材】空港グランドハンドリング協会、カスハラ対策明示したガイドラインを会員企業向けに策定

【現地取材】空港グランドハンドリング協会、カスハラ対策明示したガイドラインを会員企業向けに策定

一般顧客の「BtoC」と業務委託先の「BtoB」両方カバー、「毅然とした行動」提唱

航空機の誘導や旅客対応など空港の地上業務(グランドハンドリング、グラハン)を担う業界団体の空港グランドハンドリング協会と一般社団法人ココロバランス研究所、日本カスタマーハラスメント対応協会は3月27日、顧客や取引先からの迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対策を盛り込んだガイドラインを公表した。

ガイドラインは、グラハンに従事する人が実際に受けた被害状況を基に、どのような行為がカスハラに該当するのかを定義し、該当する場合は相手の要求に応ぜず、対応を中止したり、必要に応じて警察に通報したりするなど、毅然と行動するよう提唱。業界を挙げて組織的に立ち向かう姿勢を鮮明に打ち出している。

 
 

また、空港や航空機を利用する一般顧客だけでなく、業務委託元や関係取引先もカスハラ対応の相手になると設定、「BtoC」と「BtoB」の両方の領域をカバーして対策を示しているのも特徴。

同協会は4月1日以降、加盟する事業者などにガイドラインを公開・提供し、現場での適正なカスハラ対策を講じる上で役立ててもらうことを想定している。

羽田空港内で3月27日に記者会見した同協会の服部茂会長(ANAエアポートサービス会長)は「カスハラの対応力と従業員の心理的安全性を高める一助になれば幸いだ。しっかりと業界内で連携を取り合い、対策をより一層進められるようにしたい」と強調した。

同協会でガイドライン作成に当たってきた横山律幹執行理事(鴻池エアーホールディングス取締役)は「このガイドライン作成を持ってカスハラ対応完了とは認識していない。会員事業者がこのガイドラインを活用しつつ、どうやってカスハラ発生を防ぎ、発生しても最小限にとどめ、大切な従業員を組織として守るフェーズに移っていく」と語った。

「すぐに上司や同僚呼び、複数人で対応を」

基本姿勢として、対外的には「カスハラと判断される言動が認められた場合は、従業員を守るために、毅然とした対応を行う、または対応事態を中止するなど、組織的に対処を行う」「さらに悪質なものや犯罪行為と判断した場合は、警察・弁護士等と連携して、法的措置等も含めた適切な対応を取る」などを列挙している。

併せて、各事業者に対し、ガイドラインを参考にしてカスハラの相談窓口設置などを進めるとともに、カスハラ対応に当たった従業員の心身両面のケアを図ることや、事例の収集と分析を通じてカスハラを未然に防ぐための取り組みを進めることなどを求めている。

 
 

カスハラの定義としては、殴る・叩く・けるなどの暴行・傷害、「バカ」などの暴言や侮辱する発言、「殺すぞ」などの脅迫、同じ要求やクレームの繰り返し、長時間の拘束や電話、性的な言動、金銭的な補償の強要、制限区域への無断立ち入りといったものを明示。それぞれのカスハラの行動が具体的にどの法規に抵触する可能性があるかについても記している。

対応の前提として、日ごろからガイドラインや業務マニュアルに目を通して対応の基本的なポイントを押さえていくとともに、運送約款や契約書、SLA(サービス品質保証)など、一般の利用客や業務委託先などと結ぶ契約の内容も頭に入れておくことを推奨。過剰なサービス品質の要求などがあった場合、すぐに把握できるようアドバイスしている。

カスハラの疑いがある行為を受けた場合、すぐに上司や同僚を呼んで複数人で対応するとともに、すぐに呼べない場合は電話などで上司に指示や助言を仰ぐようアドバイスしている。各事業者がカスハラの状況を記録できるよう、情報を書き込んで保存するためのシートのひな形を示している。

業務委託元や関係取引先のスタッフがカスハラと考えられる行為を行った場合は、業務委託元や関係取引先にも報告し、必要に応じて対応を講じるよう求めることも記している。

並行して、同研究所などがカスハラと従業員のメンタルヘルスの関係性について解説。調査の結果、カスハラを多く受けている従業員はメンタルヘルスの状況が悪く、仕事の活力も上がっていないことが分かったと言及し、カスハラ対策の重要性を明示している。

ガイドラインでは具体的なカスハラの事例も盛り込んでいる。外部には非公開だが、作成に携わった同協会の関係者によると、実際のケースとして、利用者が激昂して係員の顔を平手打ちしたり、机を叩いたり、対応した係員の写真や動画を無断で撮影したりといった行為があったほか、BtoBの領域でも関係企業から「能力が低い人はうちの仕事にはいらない」などの発言を受けたという。

 
 

会見に同席した同研究所の島田恭子代表理事は「単なるガイドラインで終わるものではなく、1人1人の方々が使えるような手引きになるツールとして作っていただいた。他にはなかなかない内容になっている。業界共通の言語を使って、ここから個社に落とし込めるものになっている」と指摘。

同研究所の桐生正幸理事は「カスハラを受けた時点ですぐに対応できるようになっており、メンタルの不調を未然に防げる内容。これほど実効性の高いガイドラインはおそらく日本で初めて」と評価した。

(藤原秀行)

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