第26回:トランプ氏は台湾を「軽視」するのか
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している
戦略的曖昧さを維持
ドナルド・トランプ氏が米国大統領の座に返り咲いてから2カ月が経過したが、外交政策、とりわけ台湾政策の方向性が第2次トランプ政権の発足直後から議論を呼んでいる。最大の関心事の1つが、ロシアによるウクライナ侵攻への対応と同じく、トランプ政権が中国との対決姿勢を強めている台湾についても「軽視」するのか、それともバイデン前政権の対中強硬路線を継承・発展させるのかだ。この点については、専門家の間でも見解が分かれている。
本稿では、トランプ政権のこれまでの発言や行動、歴史的背景、そして地政学的文脈を基に、台湾政策の行方を分析してみたい。
トランプ大統領のウクライナに対する姿勢は、彼の外交哲学「アメリカ・ファースト」を色濃く反映している。2024年11月の大統領選勝利後、トランプ氏はウクライナへの軍事支援に懐疑的な姿勢を示し続け、「24時間以内に戦争を終わらせる」と発言。具体的な停戦案は明かしていないものの、側近のヴァンス上院議員(現副大統領)は、ロシアが占領した地域を事実上、ロシアの領土として認め、非武装地帯を設ける案を提案した。
これはバイデン政権が続けてきたウクライナへの大規模軍事支援とは全く対照的だ。政権スタートから間もない今年2月には、トランプ氏自身がロシアと直接交渉に乗り出しており、ウクライナに領土の奪還を断念するよう迫る動きも伝えられている。
この姿勢は、トランプ氏が紛争地域への関与をコストと利益の観点で評価し、米国の直接的な軍事負担を最小限に抑えようとする意図を示している。ウクライナの場合、欧州諸国に安全保障の主導権を委ね、米国は後方支援に徹する可能性が高い。
こうしたアプローチが台湾にも適用される場合、仮に台湾が中国の軍事的圧力に直面した際、米国は積極的な軍事介入を避け、外交的取引や他国への負担転嫁を模索する可能性が否定できない。
トランプ氏は24年の大統領選挙戦で、台湾有事への対応について明確なコミットメントを避けてきた。25年2月の日本経済新聞報道によれば、記者団に「コメントしない」と述べ、戦略的曖昧さを維持した。一方で、「台湾は米国の半導体産業を奪った」と批判し、経済的観点からの不満を表明した。
これは台湾を中国に対する交渉のカードと見なす可能性を示唆しているといえよう。実際、第1次トランプ政権(2017~21年)は中国との貿易戦争の中で台湾をてこに使い、対中圧力を強めた経緯がある。例えば、18年に米国と台湾の高官による相互訪問や交流を促進するための台湾旅行法を成立させたり、台湾向けに武器の売却を拡大したりしたことが、中国への牽制として機能した。
しかし、軍事的なコミットメントに関しては曖昧さが目立つ。バイデン政権は「台湾有事には米軍が介入する」と繰り返し明言し、22年のウクライナ侵攻以降、日米豪印4カ国による安全保障や経済の面で連携する枠組み「クアッド(QUAD)」や、米英豪3カ国による軍事同盟「オーカス(AUKUS)」を通じた対中抑止戦略を強化してきた。対照的に、トランプ氏は同盟国への負担増を求めており、専門家などの間では、台湾にも防衛費の大幅増額や米国内での半導体生産拡大を要求する可能性が高いとの見方が多く出ている。
台湾政策の行方を占う上で、中国の動向は無視できない。習近平政権は台湾統一を国家目標とし、軍事的圧力を強めている。トランプ氏のウクライナ対応を見て、中国が「米国は介入しない」と判断すれば、台湾侵攻のリスクは高まる危険性がある。
実際、今年1月の中国人民解放軍の演習では、過去最大規模の艦艇を動員したことが確認され、台湾海峡の緊張は一段と増している。バイデン政権下での米国の対中抑止力強化は、中国に一定の慎重さを強いたが、トランプ政権がこの抑止力を緩めれば、中国は好機とみなす可能性がある。
ただし、トランプ氏の不確実性も中国を躊躇させる要因となり得る。第1次政権での対中関税や制裁は、中国経済に打撃を与え、交渉を余儀なくさせた。もしトランプ氏が再び経済的圧力を軸に中国と取引を試みるなら、台湾は交渉の切り札として温存されるかもしれない。この場合、軍事支援は後退するが、経済的・外交的な支援は継続する可能性がある。
トランプ政権が台湾への直接関与を控える場合、日本やオーストラリアなどインド太平洋地域の同盟国への依存度が高まる。日本は、地理的近接性から台湾有事を存立危機事態と位置付け、独自の防衛力強化を進めている。しかし、米国の後ろ盾なしでは、中国への抑止力は限定的だ。トランプ政権がロシアのウクライナ占領を追認するような妥協を台湾で繰り返せば、インド太平洋の同盟国間の信頼が揺らぎ、日本の安全保障にも深刻な影響を及ぼすことが懸念される。
総括すると、現時点ではトランプ政権が台湾をウクライナ同様に軽視する可能性は否定できないものの、バイデン政権の対中強硬路線を完全に放棄すると判断できるだけの十分な材料は見られない。軍事支援は縮小するかもしれないが、経済・外交面での関与は継続し、「完全な軽視」、すなわち台湾を見捨てるようなことはないとの見方が妥当だろう。
(了)