企業の価格転嫁率は39.4%と調査開始以来最低、コスト上昇に追いつかず

企業の価格転嫁率は39.4%と調査開始以来最低、コスト上昇に追いつかず

帝国データ実態調査、物流費は3割でほぼ横ばい

帝国データバンクは8月28日、全国2万6196社を対象に実施した「価格転嫁」の実態に関するアンケート調査結果を公表した。2025年2月以来で、6回目となる。

企業がコスト上昇をどの程度販売価格に上乗せできたかを示す「価格転嫁率」は39.4%で、前回調査時から1.2ポイント低下し、調査開始以来最低を記録した。



帝国データは定量的な説明が難しい人件費などの上昇分に対する転嫁が進んでいないことに加え、川下産業を中心に度重なる値上げに対する抵抗感から、一段の価格転嫁に踏み切れずにいると推察。「価格転嫁の推進のため、企業も消費者も値上げを許容できる環境の醸成が不可欠」と指摘している。

調査期間:2025年7月17~31日(インターネット調査)
調査対象:全国2万6196社、有効回答企業数は1万626社(回答率40.6%)
※ 価格転嫁率は、各選択肢の中間値に各回答者数を乗じ加算したものから全回答者数で除して算出している(ただし、「コスト上昇したが、価格転嫁するつもりはない」「コストは上昇していない」「分からない」は除く)

自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているかを尋ねたところ、コストの上昇分に対して「多少なりとも価格転嫁できている」と回えた企業は73.7%に上ったが、前回調査からは3.3ポイント低下した。

内訳は「2割未満」が23.9%(前回24.7%)、「2割以上5割未満」が17.0%(同17.2%)、「5割以上8割未満」が17.1%(同18.6%)と部分的な転嫁にとどまる企業が大部分を占めている。その一方、「8割以上」転嫁できている企業は11.9%(同13.1%)、「10割すべて転嫁」できている企業は3.8%(同3.5%)だった。

価格転嫁は総じてペースが鈍化しており、「全く価格転嫁できない」と回答した企業も前回調査より1.3ポイント増え12.5%に達した。

企業からは「顧客は値上げに敏感なので怖くて上げられない。また、ライバルとの価格競争により、値上げは諦めるしかない」(繊維・繊維製品・服飾品小売、愛媛県)といった声が上がった。

また、価格転嫁率は39.4%で、コストが100円上昇した場合に39.4円しか販売価格に反映できず、残りの6割超を企業が負担していることを示している。4割を下回ったのは約2年半ぶり。



さらに、自社の主な商品・サービスにおいて、代表的なコストとなる原材料費、人件費、物流費、エネルギーコストを項目別にそれぞれどの程度転嫁できているかを尋ねたところ、原材料費に対する価格転嫁率は48.2%(前回48.0%)、人件費は32.0%(同31.3%)、物流費は35.1%(同34.7%)、エネルギーコストは30.0%(同29.5%)だった。

原材料費を除く3項目の価格転嫁率は3割台にとどまり、企業からは「材料費は根拠があり、すぐに説明できるが、他の費用については根拠を示すことができないため、応じてもらえないことが多い」(機械製造、群馬県)や「原料費は明確な資料が出しやすいが、人件費及び物流費、エネルギーコストは影響が多岐にわたり社外秘事項を考慮すると納得感のある説明がしにくい」(飲食料品・飼料製造、東京都)といった声が出た。

帝国データは、人件費のように定量的な説明が困難なコストの転嫁が難しい様子がうかがえたとみている。

また全体の転嫁率が落ち込む中、代表的な4項目はそれぞれ前回調査から微増だった。帝国データは全体の転嫁率が低減しているため、4項目以外の要素も負担となっている可能性があると分析。例えば、地代やオフィス賃料、リース料、消耗品費などの価格上昇によるコスト負担増は商品・サービス価格に反映させづらく、全体の価格転嫁率を鈍化させている要因と考えられると説明している。

サプライチェーン別に価格転嫁の状況をみると、一部を除き前回調査と比較して、価格転嫁は後退している様子がうかがえた。

「化学品卸売」(53.8%)や「鉄鋼・非鉄・鋼業製品卸売」(52.3%)など、比較的価格転嫁がしやすい卸売業であっても、転嫁率が5割を超える業種は一部にとどまり全体として低下傾向を示した。



また、「飲食店」(32.3%)や「旅館・ホテル」(24.9%)など、より消費者に近い川下に位置する業種では、継続的な価格転嫁が難しい様子が浮き彫りとなっている。

帝国データは、価格転嫁が難しい背景には、業種特有の要因も存在すると強調。『運輸・倉庫』(28.8%)は「2024年問題を通じて、従来どおりの物流を提供していくためには、値上げが必要であることを顧客に理解してもらった」(運輸・倉庫、兵庫県)といった意見に代表されるように、2024年問題を契機に徐々に業界内でも価格転嫁を進める動きも現れているという。ただ、今回の調査では3割を下回り、依然として燃料費の高止まりや重層的な取引構造が値上げ交渉を難航させているとの見解を示している。

そのほか、病院などを含む「医療・福祉・保険衛生」(15.1%)などは、診療報酬や介護報酬などによって公的な価格が定められており、急なコスト上昇に柔軟に対応できない。同様に「書籍は再販売価格維持制度があり、小売店側で価格を設定できない」(専門商品小売、神奈川県)というように、書店や不動産関連の手数料など制度上、価格を容易に変更できない業種、業態は多い。さらに、競りなどで価格が決まる水産物やフランチャイズ契約の店舗など、価格決定権の乏しい業種や企業は、制度や契約の障壁があり、価格転嫁は容易ではないと総括している。

価格転嫁が順調に進んでいる、または前向きな意見
■ 提供する物やサービスが顧客のニーズに合致していることと、顧客へのコスト上昇理由を誠実に伝え、何も隠さない姿勢でビジネスを行っているため価格転嫁できている(建設)
■ 価格を転嫁できなくなったら、その事業はやめるべきと考えている(機械製造)
■ コストが上昇する環境を、得意先も十分理解しており、商品の付加価値によって吸収できている(繊維・繊維製品・服飾品卸売)
■ 販売量の減少を恐れずに転嫁している。正確に状況をお知らせして、理解いただける先との取引が長続きすると考えている(紙類・文具・書籍卸売)

価格転嫁に困難がある、または否定的な意見
■ 魚市場による競り売りで魚価が決まるので、自分で魚価を左右する(転嫁する)ことはできない(農・林・水産)
■ カタログ商材などは、カタログ改定時期以外に価格転嫁が難しい(建材・家具、窯業・土石製品製造)
■ 価格を上げてみたものの売れない。価格を下げなければ在庫が増える一方であるため、来月には、価格を下げる予定(専門商品小売)
■ 下請けとしての交渉には限界がある。同業他社の動向によって大きく左右される(運輸・倉庫)
■ フランチャイズ加盟店という性質上、価格は本部に決定権があるため価格転嫁は難しい(飲食店)
■ 介護保険制度により価格転嫁できず、介護報酬も増えず、コストばかり増大し、経営危機である(医療・福祉・保健衛生)
■ 周囲の販売単価も上がっていないなか、価格を上げると需要が低下することが分かっているため、十分な価格転嫁が出来ない(旅館・ホテル)

(藤原秀行)※いずれも帝国データバンク提供

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