JUIDA創立5周年記念セミナーで関係省庁担当者らが一致
ドローン(無人飛行機)の産業利用促進を目指す日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は8月19日、東京・本郷の東京大構内で、創立5周年記念のセミナーを開催した。
ドローンに関係する省庁とドローンを使ったさまざまなサービスの開発に取り組む民間企業の担当者が出席し、パネルディスカッションを開催。今後物流などの分野への投入を加速させる上で適切な操縦や運行管理ができるオペレーターの育成が重要との認識でおおむね一致した。同時に、JUIDAが今後も人材育成などドローン普及の基盤整備を推進していくことに期待する声が挙がった。
約100人が集まったセミナー会場
セミナーは冒頭、JUIDAの鈴木真二理事長(東京大未来ビジョン研究センター特任教授)があいさつし、JUIDAの活動の歩みを振り返った。会員数が1万を超え、JUIDAが認定するドローンの安全操縦に関するスクールも全国で210を超えるなど、着実にドローン活用の機運が盛り上がっていることを紹介。
JUIDAとしてドローン物流のためのガイドラインを作成したり、損害保険付きのドローン飛行支援サービスを始めたりするなどの活動内容を報告。今年初頭に掲げた、2019年を「ドローン飛躍元年」にするとの目標達成に意欲を見せた。
「日本のドローンのガラパゴス化を防ぎたい」
続いて、関係省庁の担当者が「飛躍するドローン産業 今後の展望」をテーマに、パネルディスカッションを開き、安全規制の方向性や安定した飛行に不可欠な電波の整備、人手不足に悩む農業分野への活用などを後押しするための政府の取り組み状況を説明した。
内閣官房小型無人機等対策推進室の長﨑敏志内閣参事官は、騒音やプライバシーといった諸課題に関し「ドローンの可能性をもう少し前向きに捉え、将来を見通すことが重要ではないか。そこから解決方法を見出していくべきだ」と述べ、ネガティブな側面に着目し過ぎず、利用を積極的に考える姿勢を示した。JUIDAに対しては「5~10年後をどう捉えるのかを示してほしい」と要望した。
総務省総合通信基盤局の荻原直彦移動通信課長は「IoT(モノのインターネット)を活用したさまざまなソリューション、利用方法の有効性を証明して世界に発信していくことで、日本のドローンのガラパゴス化を防ぎたい」と意欲を見せた。また、「ドローンをいろんな方が自由に使えるようになった時の対策が必要になる。そこは官民が協力して取り組んでいくところではないか」と語った。
国土交通省航空局の英浩道安全企画課長は、官民で2023年の実現を目指している有人地帯での目視外飛行に関連し「全国一律にルールを科すということではなく、おそらく(地域ごとに人口分布などの)特性に応じていろんな濃淡を付けながらルールを考えていかないといけないだろう」と予想。新たなルールを整備する上で「ドローンが役立っていて意味があるとの事例が出てきて、やはり社会に必要だとの合意ができてくるのが一番大切。(中山間地など人が少ない場所での目視外飛行というレベルで)いろんな実績を積み上げていきたい」と強調した。
農林水産省生産局の今野聡技術普及課長は「そもそも人が少ない圃場の上を飛ぶのが基本。実績を重ねていくレベルだと思っている。ドローンを農業に活用する上で、道路をまたいだり集落の上空を飛んだりする可能性がある。そうした状況での利用の事例を作っていただきたい」と語り、国交省などに協力を要請した。併せて「ドローンのオペレーター育成が急務になっている。ドローンのオペレーターがいないから飛ばすことができないとの声が現場から聞こえてくる」と懸念を示した。
福島県商工労働部産業創出課の北島明文ロボット産業推進室長も「(県の南相馬市で整備が進められているドローン飛行実験用施設の)ロボットテストフィールドでも新たなサービスを試したいという人の顔ぶれはまちまちだが、オペレーターは同じ人だったりする。有人地帯での目視外飛行となるとオペレーターに要求される技術、状況判断能力、経験は非常に大きなものになってくると思う」と指摘。JUIDAにもオペレーター育成を早急に進めていくよう期待を示した。
併せて、ロボットテストフィールドに関し「30年、40年にわたって(運営に)コミットしていくのがわれわれの役割だと思っている」と話し、関連企業の誘致などに注力する姿勢を見せた。
パネルディスカッションに参加した(左から)鈴木理事長、長﨑、荻原、英、今野、北島の各氏※クリックで拡大
将来は物流活用でペイすると試算
その後、民間企業の担当者による「未来のドローン産業」と題したパネルディスカッションを実施した。進行役はブルーイノベーションの熊田貴之社長が務めた。
ドローン物流に取り組む楽天ドローン・UGV事業部の向井秀明ジェネラルマネージャー(ドローンの管制システム運用を担う楽天AirMapの代表取締役CEO=最高経営責任者=を兼務)は、現在神奈川県横須賀市の離島・猿島で実施しているドローン物流に触れ、将来の本格導入にはコスト低減が課題になってくると解説。「(猿島で設定している)1回500円の配送料では人件費などを賄えない。いかにヒューマンレスで安全なオペレーションができるようになるかが重要」と強調した。
その上で「当社でも将来はペイすると試算している。ドローンで運ぶことが広がればコストが下がって人材が育ち、機体が量産され、さらにコストが下がっていくことが期待できる。今後人件費は上昇するとみており、どこかの時点で(ドローン配送コストと)逆転が起きる」と語った。
NTTドコモ法人ビジネス戦略部の山田武史主査(ドローンビジネス推進担当)は、太陽光発電パネルの点検などドローンを活用したビジネスを支援するサービス「docomo sky(ドコモスカイ)」を展開していることを紹介。全国で運営している携帯電話通信網をドローン飛行に活用していけるよう諸制度の改正が進むことに強い期待を示した。
日立システムズドローン・ロボティクス事業推進プロジェクトの宮河英充部長代理は、インフラ設備点検などへのドローン運用管理システムを提供していることに言及。「(設備の異常を検出するための)画像解析の観点から技術をさらに磨いていきたい」と語った。
パネルディスカッションに臨む(左から)熊田、向井、山田、宮河の各氏※クリックで拡大
(藤原秀行)