真の在庫一元化実現した「オムニチャネル」支える基幹拠点
未曾有の人手不足など課題山積の物流業界にあっても逆風に負けず、生産性向上などに果敢に取り組む物流施設を紹介するロジビズ・オンライン独自リポートの第3回は、自社で選んだアパレル商品を仕入れて販売するセレクトショップ運営大手ベイクルーズ(東京)の専用施設として、DHLサプライチェーン(SC)とともに日々のオペレーションを展開している千葉県柏市の「柏沼南ロジスティクスセンター(LC)」にスポットを当てる。
2016年の立ち上げから3年を経て、今では両社が実店舗とECを連動して最適な在庫配置と迅速な商品配送を実現する「オムニチャネル」を日々展開する上で絶対不可欠の重要施設となっている。
柏沼南LCが入る「Landport柏沼南Ⅰ」(DHLSC資料より引用)
“セレクトショップ業界ナンバーワンのロジスティクスインフラ”を志向
柏沼南LCが入居しているのは野村不動産が開発した「Landport(ランドポート)柏沼南Ⅰ」だ。地上3階建て、延べ床面積4万9597平方メートル。52台分のトラックバースや4機の貨物エレベーター、8機の垂直搬送機などを備え、成田空港や羽田空港から30~35キロメートルと地の利の良さが特徴だ。
DHLSCコンシューマー&リテール事業本部で同センターの仲貴祐サイトマネージャーは「交通網が整備されていて便利な上、賃料も都心に比べれば割安なのが非常に魅力。物流施設自体も非常にオペレーションしやすいよう配慮がされていたし、工業地帯で24時間稼働可能なのもポイントになった」と指摘する。
DHLSCはもともと近隣に「北柏LC」など2棟倉庫を展開してアパレルや消費財などの商品を取り扱っており、非常に土地勘のある場所だったこともこの地に新たな大型センターを構える上で決め手の1つとなった。
DHLSCは日本国内で事業の核として「テクノロジー」「コンシューマー&リテール」「ライフサイエンス&ヘルスケア」「自動車」の4本柱に注力している。ベイクルーズはそのうち「コンシューマー&リテール」の一角を占める重要な顧客の1社だ。
仲サイトマネージャー
ベイクルーズはかつて首都圏の計4カ所に物流拠点を構え、そのうち東京の辰巳、埼玉の戸田、神奈川・川崎の高津の3カ所を実店舗向け、東京・新砂の1カ所を自社や他社のECサイト向けと割り振ってそれぞれ商品を出荷していた。そのため、実店舗向け在庫をEC向けに割り当てるために拠点間の横持ちが発生するなど、しばしば複雑なオペレーションを強いられていた。さらに物流業務は複数の3PL事業者に委託していたため、事業者間の連携がうまく取れているか、なかなか同社サイドで十分に管理できていなかった。
そこで混然としていた物流の在り方を抜本的に見直し、1つの物流拠点を有効活用して効率性を極める路線に転換することを決定。ハイレベルなオペレーションを任せることができる物流のパートナーを新たに探すことにした。その狙いは、実店舗とECで魅力ある商品を同時に販売し、いずれの販売チャネルでも欠品も極力解消する同社独自のオムニチャネルを実現させることにあった。
ベイクルーズのロジスティクス部門でディレクターを務める土橋弘幸氏は「EC用倉庫が出荷のキャパシティーや保管のスペースといった面でEC自体の成長になかなか追い付くことができていなかった。せっかく注文をいただいてもEC用の在庫が足りず、売り逃しもたびたび発生してしまっていた。そこで“セレクトショップ業界でナンバーワンのロジスティクスインフラを稼働させる”との最終目標を掲げ、拠点を統合しシステム上の在庫一元化も図るプロジェクトを本格的に開始した」と当時を振り返る。
物流事業者20社程度にRFP(提案依頼書)を提示して改革のプランを求め、その中で柏沼南LCに在庫を集約して一元管理するというDHLSCの提案内容が最も優れていたことがパートナー選定の決め手になった。同社の阿部豊執行役員(コンシューマー&リテール事業本部担当)は「センターのオペレーションに加え、手厚い配送網の構築が出来る最適なロケーションだった」と指摘する。
土橋ディレクター
阿部執行役員
WMSが把握、商品のロケーションも分けず
ベイクルーズとDHLSCが柏沼南LCを基に展開しているオムニチャネルの大きな特徴が、実店舗向けとEC向けの在庫を全く分けずに管理している点だ。WMS(庫内管理システム)はMLC社に依頼して実店舗向けとEC向けを統合管理できるよう改良したため、在庫のロケーションも実店舗向けとEC向けで区別する必要がなくなった。WMSはベイクルーズの基幹システムと連動、東京の本社などではほぼリアルタイムで最新の在庫状況を把握できるようになっている。
土橋氏は「よく在庫管理一元化と言っても、実際には庫内でtoCとtoBの保管のロケーションを明確に分け、オペレーションも全く別に区分されていたりするが、柏沼南LCではtoB(実店舗向け)とtoC(EC向け)の在庫が同じロケーションに入っていて、toBとtoCの受注に応じて商品を適宜引き当てている」と解説する。
庫内で整然と並べられた商品
toBとtoCが分けられることなく保管
準備作業が進む
柏沼南LCでは基本的に入荷は午後3時まで。商品は全て開梱し、全量スキャンしてデータをWMSに登録、オリコンに収めた上で、すぐに出荷するものと在庫しておくものに区分する。このうち出荷が決まっている商品については翌朝9時から出荷作業ができるよう準備を進めるとの流れだ。
WMS上で実店舗向けとEC向けの需要を正確に把握し、在庫の中からその都度振り分けて出荷しているため、ロケーションを明確に分けなくてもWMSの指示に従えば販売機会を逃さず、適切に入出荷できるという仕組みだ。庫内作業スタッフは商品のバーコードをハンディースキャナーで読み取れば、すぐに出荷すべき商品なのか、在庫しておくものなのか、実店舗向けかEC向けかの指示を迅速に得られるようになっている。
かつてのような複数の拠点から出荷していたフローを現センターに集約できたことと相まって、顧客のニーズに応えた出荷が可能になった。現状は柏沼南LCで各種衣料や服飾雑貨、靴などの商品を最大で秋冬は180万、春夏は220万点程度を保管。検品や仕分けを済ませて受注した翌日には出荷できる体制を確立している。
「ベイクルーズストア」と呼ぶ同社専用のECサイトは、柏沼南LCの稼働当初の売り上げから昨年度(18年8月期)は2倍強まで伸び、同業他社を大きくしのぐ規模に成長した。今年度(19年8月期)はさらに稼働当初の3倍まで高めようと意気込む。DHLSCとタッグを組んだオムニチャネル戦略が大きく奏功している。
柔軟なスタッフ配置で生産性向上
オペレーションの面でも、DHLSCの協力を得て、大きく生産性を伸ばすことができた。土橋氏はかつて実店舗向けの1日当たり入荷キャパシティーが3拠点で計6万、出荷も6万のトータル12万程度だったのが、拠点統合後は入荷と出荷でそれぞれ11万の計22万とかつての2倍にまで拡大できていると説明する。
ECの繁忙期である昨年暮れから今年の年始には1日1万5000件という出荷目標を達成。今後は自動機器を活用することで、2年以内に2万5000件まで高めようと、ベイクルーズとDHLSCで模索している最中だ。併せて、出荷欠品は100ppm、出荷ミスは30ppm以下といったKPI(重要業績評価指標)を30程度設定、ベイクルーズとDHLSCで連携して業務レベルの向上を常に図っており、成果も出ている。
その背景には、前述の通り実店舗向けとEC向けの在庫を一体化して取り扱えるようになったことに加え、庫内作業スタッフを対象とした日々の丁寧なトレーニングの成果も大きいようだ。庫内作業を担当するDHLSCは、グループで展開している独自の「OMS」と呼ばれるオペレーションのマネジメント手法を駆使。過去の経験を基に、毎日の入出荷の物量を予測して各スタッフの生産性に基づき、適正な人員配置を行っている。
出荷量など作業の目標値は柏沼南LC内の至るところに分かりやすく明示。作業に計画より遅れが発生すればスタッフを応援に派遣するなど、柔軟に配置を変えられるようにしている。備品をすぐに見つけやすくなるよう整理整頓するといった、作業を進める上で改善した点はスタッフ間で「KAIZENシート」として情報を共有。優れた取り組みを柏沼南LC内ですぐに横展開できる仕組みも確立している。
スタッフの配置が一覧できるよう工夫
出荷に向けた作業が進む
梱包エリアはベテランが他のスタッフに助言できるようになっている
出荷エリアは朝から滞りなく作業を進められるよう、明確に方面を区分けするなどの工夫を凝らしている
梱包エリアはベテランが他のスタッフをサポートできるようなオペレーションを組み、作業に使う道具を取りやすく配置するなどの細かな配慮がなされている
仲サイトマネージャーは「梱包エリアではベテランが新人にアドバイスできるようにしており、スタッフが協力して生産性向上に努められるよう配慮している。こうした積み重ねが出荷能力の増強につながっている」と明かす。検品の精度向上などのノウハウも、DHLSCの蓄積を最大限注ぎ込んでおり、土橋氏は「経験豊富なところは非常に助けられている」と笑顔を見せる。
見逃せないのが、アパレルのECでは不可欠な「ささげ」(衣類の採寸、ウェブサイト掲載用の写真撮影と商品説明原稿の執筆)と呼ばれる工程だ。柏沼南LC内に専用のささげスペースを設置。入荷から出荷に至るまでの間にささげを完了できるようにすることで、作業に要するリードタイムを1・5日程度まで短縮することに成功した。新商品を素早く出荷できることにつながるだけに、販売機会を逃さない上で非常に重要な意味を持っている。
柏沼南LCからの配送に関しても、DHLSCが「ファッション便」と呼ぶベイクルーズを中心としたルート配送を展開。関東一円に展開している180超のセレクトショップ向けに18種類のルートを組んでいる。土橋氏は「配送の期日順守率の目標95%を既に首都圏で達成している。ここまでの配送網を持っているセレクトショップは極めて少ないだろう」と胸を張る。
ベイクルーズは10年後に売上高3000億円との目標を掲げており、同社の高野英司執行役員は「オムニチャネルに関しては非常に成果を挙げられているので、これからもDHLSCさんの知見をぜひお借りしたい」と関係強化に意欲を見せる。ただ、ベイクルーズとDHLSCはこれまで庫内作業の効率化を突き進めてきたが、物流業界の深刻な人手不足は改善の兆しが見えないだけに、今後は柏沼南LCでも自動化・機械化が課題となってくる。
仲氏は「複雑なオペレーションに対応できるような物流ロボットがないか、といったことを日々ベイクルーズさんとともに検討している。容易ではないが、適切な解は必ず見つけられると考えている」と語っており、その手腕に期待できそうだ。
ささげエリア
高野執行役員
(藤原秀行)