LOGI-BIZ記事レビュー・物流を変えた匠たち①TOTO(後編)

LOGI-BIZ記事レビュー・物流を変えた匠たち①TOTO(後編)

1人の異端児が“包装革命”を起こした(後編)

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※この記事は月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)2015年12月号「包装にメスを入れる」で紹介したものを一部修正の上、再掲載しています。役職名や組織名などの内容は掲載当時から変わっている場合があります。

TOTOでかつての問題社員が30年前、包装の意義に目覚め、最小限の資材で強度を保ちながら物流や施工現場の負担も減らす革新的な技術を次々に開発。包装を根底から変え、社内の意識も大きく向上させた。

後進育成の「岡崎塾」開講

2010年に55歳で役職定年を迎えた後、温水洗浄便座の研究開発や製造を担うTOTOウォシュレットテクノ(北九州市)の設計部に配属となり、12年には主席技師に就任。同じ年、包装の貴重なノウハウを若い世代に伝承し、人材を育成する「包装設計技術者育成塾」(通称・岡崎塾)がスタートした。岡崎氏を含め、物流や購買など社内のさまざまな分野から約20人が集まった。社内では正式名称よりも、通称の「岡崎塾」で呼ばれることの方が多かったという。

岡崎塾はメンバーが月に1度、2泊3日ぐらいの日程で包装設計についてみっちり学んだ。物流は効率第一ではなく品質を重視する、購買もただ安いことだけに注目しない、といった岡崎氏の考えを伝授。座学だけではなく、現場で包装のトラブルが発生した場合は塾のメンバーが連携して解決に当たり、経験を共有した。

「包装を十分に分かってくれていなかったので、1人ぐらい口うるさい人間がいないといけない」との思いから、がむしゃらに突っ走り、相手が役員であれ誰であれ、必要だと思ったことはどんどん直言してきた。しかし、最近は「自分が一線を退いたら包装はどうなるのか。後継者がまだ育っていない」との問題意識を抱くようになった。岡崎塾は今年でいったん終わり、現在は全社で進める生産革新の包装分科会として再スタートを切った。「人財」を育成したいとの思いから、岡崎氏も引き続き活動をサポートしている。


TOTOの独創的包装の事例※クリックで拡大

後輩が斬新な段ボール開発

岡崎氏が社内でまいた種は着実に育っている。15年、彼氏の後輩が編み出した新たな段ボール箱が、日本包装技術協会が主催する包装技術の競技会「日本パッケージングコンテスト」で最高位の「ジャパンスター賞 経済産業大臣賞」を獲得する快挙を成し遂げたのだ。

「“感嘆”開閉BOX PON-PA(ポンパ)」と名付けられた段ボール箱は、ふたの部分に入れた独自の切り込みと突起を使い、粘着テープやカッターナイフがなくてもワンタッチでふたを開け閉めできるのが最大の特長だ。


「“感嘆”開閉BOX PON-PA(ポンパ)」(①の左)。切り込みと突起を組み合わせて、テープ不要の画期的な段ボールを実現した(②~④)※クリックで拡大

開発を担当した衛生陶器部衛生生産設計グループの石田直樹氏は、岡崎塾で岡崎氏の薫陶を受けたメンバーの1 人でもある。10年には欧州向けの腰掛け便器に関する包装開発に携わり、やはりジャパンスター賞などを獲得している。

同氏はポンパ開発の経緯について「施工業者の方々などお客さまのことを想像すると、分別廃棄しやすいようテープ自体を使わずにすむ包装ができないかと考えた。けがをする恐れがあるカッターの開封作業もなくしてしまいたいとの思いがあった。そうすれば現場の工数を減らすこともできる」と語る。

同じグループの黒岩大助氏と組み、2年ほどかけて開発に打ち込んだ。ポンパが完成したときは、あまりの出来の良さに2人して「怖い」と感じたそうだ。10月からは便器の横に取り付ける仕切りパネルの包装として使われている。他の用途に使えるサイズの箱制作も検討しているという。

黒岩氏は「最初担当になったころは段ボールといってもピンと来なかったが、この世界は奥が深い。そもそも包装がなければ消費者の皆さまに商品を届けることができない」と言う。石田氏も「衛生陶器の施工現場を見ると、われわれの包装で無事届いたと安心する」そうだ。物流や施工現場にも配慮した包装という岡崎イズムが現場で見事に継承されている。

岡崎氏は今年60歳で定年となった。他のメーカーからも複数誘いが寄せられたが、「自分がやるべきことはまだ残っている」との思いから定年を延長してTOTOに残る道を選んだ。現在は本部長に相当する上席技師として後進の指導などに汗をかく毎日だ。

「プロフェッショナルとは現状における自己否定を常に繰り返し、自己革新を掛ける人。3カ月たって何の変化もなければ既にプロではない」「プロの条件として、まず説得力を身に付けよ。説得力の第一歩は他人の話を真剣に一生懸命聞くことから始まる」「身銭を切れ。自分の向上のためには惜しみなく投資せよ」――。包装で格闘し続けてきた経験から築き上げられた岡崎氏の信念は、物流業界の人々にとっても金言となりそうだ。



北九州市のTOTO本社に隣接した「TOTOミュージアム」ではウォシュレットなどの製造過程を紹介する中で、包装の取り組みについても展示。開発や設計、落下テストの様子を説明するなど、ものづくりに包装が欠かせないことをアピールしている(外観写真は同社提供)

(藤原秀行)

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