【独自取材】運送・物流業界は優良企業取得や経営権譲渡で積極的に「協調戦略」を

【独自取材】運送・物流業界は優良企業取得や経営権譲渡で積極的に「協調戦略」を

日本M&Aセンターが特別セミナーで再編の重要性指摘

M&A仲介大手の日本M&Aセンターは2019年12月2日、運送を中心とした物流業界を対象とした事業承継に関する特別セミナーを東京都内の本社で開催した。

講師として登壇した同社業界再編部で物流業界の責任者を務める山本夢人氏は来場した約30人を前に、同業界でもM&Aの件数は増加基調にあり、「既に経営手法の一つになっている」と指摘。主体的に経営権の取得や譲渡の相手を選べるのは市場が成熟期初期までであり、それ以降は難しくなるとして、今後数年以内にM&Aへ着手し、優良な同業他社との「協調戦略」を目指すようアドバイスした。


来場者が真剣に聞き入ったセミナー会場

親族以外への事業承継が3分の2

山本氏は業界再編に関し、どんな分野でも拠点数は6万が限界で、その後は自然淘汰されていくとの独自に見いだした法則を説明。事業者が6万超の運送業界もまさにそうした状況に該当しているとの見解を示し、業界再編は不可避と強調した。

物流業界のM&A動向の特徴として、売上高50億円以上の企業が積極的に優良企業を取得している半面、10億円以下の企業が経営権譲渡に動いている点に言及。さらに、創業者だけでなく引き継いだ2代目以降のオーナーも経営権譲渡を決断していることを明らかにした。

経営権譲渡は自社の成長のため、戦略的に大手と組むというケースも少なくないほか、資金調達に余裕があるうちに優良な企業を譲り受け、拠点拡大や業務効率化、採用力強化などを図る事例も多いことに触れた。

また、M&Aの全体的な動向として、社外の第三者を含む親族以外へ事業継承しているケースが3分の2を占めており、自社の役員や従業員、他の企業も視野に入れ、候補を選定すべきだとアドバイスした。併せて、M&A成約までに期間は日本M&Aセンターの場合は平均11カ月程度だが、中にはこだわりが強くて10年以上探し続けている企業もあると解説。「M&Aの弱点はいつ相手が出てくるか分からないところ。準備を早くするのが大切」と述べた。

その上で、今しなければならないこととして、
①取得・譲渡先の選択肢を全て洗い出す
②事業承継の発展の手段であり、最も成長できる相手を選ぶのが大切という“本当のM&A”を知る
③家族でじっくりと話す
――の3点と総括、行動を起こすよう要望した。

売り手と買い手の両方にプラス

山本氏は具体的な事例として、埼玉県の運送会社が後継者不在を契機として、岩手の中堅運送会社に経営を譲渡したケースを挙げた。売り手側は仕事を獲得して増収増益となり、後継者問題に悩まされることがなくなった一方、買い手側も傭車に任せていた仕事をグループで扱えるようになったほか、関東へ進出して業務範囲が拡大し、ブランド力強化にもつながったという。

また、長年赤字体質に悩まされてきた福島の運送会社がより大きな規模の同県内の競合に経営を譲渡したケースは、売り手側が車両購入費削減や倉庫の稼働率アップといった効果が生まれ、利益率が大幅に改善するとともに、買い手側も県内でのシェア拡大や人事交流による従業員のモチベーションアップといったメリットを享受できたと説明。いずれのケースも売り手側と買い手側の双方に大きなプラスをもたらしたことをPRした。

M&Aに関しては、経営権の取得と譲渡の双方が正解であり、自社が置かれている立ち位置を正確に把握した上で、手法を選択すべきだと力説した。さらに「今は競争してシェアの奪い合いに奔走するのではなく、同じビジネス、同じ志であれば手を組み積極的に協調する時代。また、業界全体を考える優良企業が集まり、みんなで挑戦し、ビジネスを進化させる時代」との持論を展開、来場者にM&Aを通じた成長実現へ奮起を促した。

(藤原秀行)

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