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LOGI-BIZ記事レビュー・物流を変えた匠たち⑰きくや美粧堂(前編)

LOGI-BIZ記事レビュー・物流を変えた匠たち⑰きくや美粧堂(前編)

物流センターの安定採用と貴重な労働力つなぎ止めに成功

※この記事は月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)2017年6月号「物流の働き方」特集で紹介したものを一部修正の上、再掲載しています。役職名や組織名、数値などの内容は掲載当時から変わっている場合があります。あらかじめご了承ください。

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自社運営する東京と岡山の物流センターでピッキング作業の負担を減らすマテハンを独自開発するなど、働きやすい職場環境の創出に知恵を絞る。KPI(重要業績評価指標)を駆使してスタッフの人時生産性を精緻に管理し、人員を適正に配置して無駄な残業を徹底的に削減。安定した採用と貴重な労働力のつなぎ止めに成功している。記事を2回に分けて掲載する。


きくや美粧堂の物流センターが入る東京・平和島の「TRC(東京流通センター)」物流ビルB棟(TRC提供)

現場でジェルネイル体験勉強会

きくや美粧堂は全国の美容室向けにシャンプーやトリートメント、ヘアブラシ、化粧品、美容機器など多様な商材を取り扱っている大手専門卸だ。他にも美容室開店のコンサルティング、美容師のコンテストや講習会開催、美容室の情報誌発行など幅広いサービスを手掛け、美容業界の活性化を総合的に支援。2016年3月期の売上高は約210億円に上る。

同社は全国約30の営業拠点に加え、東京・平和島と岡山に物流センターを配置している。東京が東日本、岡山が西日本をそれぞれ受け持ち、各地の美容室へ日々商材を出荷。両センターとも3PL事業者に頼らず、自前のスタッフを中心に運営しており、東京はSKUで約1万6000、岡山も約1万1000の商品を取り扱う同社事業の礎だ。

深刻な人手不足が叫ばれる昨今、パートタイマーやアルバイトを集めるのに苦労しているのかと思いきや、同社の大久保尚彦サプライチェーン部長は「正直に申し上げると採用に関してはあまり苦労したことがない。求人広告を出しても毎回予定している人数くらいは募集が来る」と明かす。

同社のセンターは東京でスタッフ約80人の7割程度が女性で占めるなど、女性が多く勤める。大久保部長らはここ数年来、長く働き続けようと思ってもらえる職場環境の創出に汗を流してきた。例えばセンター内の休憩室は明るい内装を採用してスタッフが気軽に休めるよう配慮。事務スペースには有線放送でBGMを流し、リラックスしながら仕事できるよう努めている。

併せて現場の意思疎通や連帯感を強めるためのイベントを次々に企画。16年は女性スタッフら約30人が参加し、ジェルネイルの体験勉強会を開いた。センターの業務で日々扱っている美容商材の特性を理解し、仕事への関心を高めるとともに、爪を保護して作業時も美しさを忘れないようにしてもらう狙いを込めた。

他にも、東京のセンターが入居している東京流通センター(TRC)の親睦イベントにスタッフらと一緒に参加したり、夏にはバーベキュー、昨年末にはワインパーティーを開いたりしている。

16年末は新たな試みとして、商品発送用の段ボールにクリスマス風のイラストを印刷した特別バージョンを使った。納品先に喜んでもらうのがメーンの目的だったが、センターで働くスタッフにも評判は良かったため、17 年の春は桜のイラストを印刷した別バージョンを投入している。

大久保部長は「最初は段ボールの中にあめを入れてみてはどうか、というアイデアもあった。取りあえずデザインを変えてみようとスタートしたが、特別バージョンの段ボールは運送会社の荷扱いが丁寧になり破損がなくなるという意外な副次的効果も見られた」と笑う。

同部の松丸忠広物流担当マネージャーは「センターの作業は反復が多いので、こうしたささやかな変化でもスタッフが『桜の色はピンクの方が良かったんじゃないかな?』といった会話を互いに交わすきっかけになる」と指摘する。

雰囲気づくりからさらに踏み込み、業務自体の効率化や負荷軽減にも熱心に取り組んでいる。マテハンメーカーの花岡車両(東京)と組み、試行錯誤の末、16年に新たなピッキングエリアの棚詰め用台車を独自開発した。商品を乗せる天板にはスプリングを装着、重さに応じて昇降するため、常に現場スタッフが取りやすい高さにキープされる。腰などへの負担を減らすのが目的だ。

台車の後部には脚立を取り付け、高い場所に保管している商品もすぐに取り出せるようにした。使い終わって畳んだ段ボールを挟めるスペースも設置、随所に工夫を凝らしている。「華奢な女性でも凛とした姿で仕事ができる」ようにしたいとの願いから、台車は「華奢凛(キャシャリン)」と名付けた。東京のセンターでは3台が稼働しており、女性スタッフらに好評のため台数を増やすことを視野に入れている。


ジェルネイルの体験勉強会(きくや美粧堂提供)

庫内の生産性KPIは100程度

大久保部長らが常に心掛けている重要なテーマの一つが無駄な残業時間の徹底的な削減だ。現場で利用している音声ピッキングシステムを通じて取得した作業の進捗データや日報の記載内容などを分析し、15年から庫内作業で全体の出荷数量や月末の在庫、ピッキングや梱包の人時生産性、ミスの発生度合いなど100程度に上る項目のKPI(重要業績評価指標)を毎月作成。各スタッフがピッキングや梱包などの作業に関し、どの程度の人時生産性レベルにあるかを細かく把握している。

基礎データを踏まえ、出荷数はどの程度になると見込まれるのか、その物量を滞りなくこなすためにはどのスタッフを何人配置すればいいのかを緻密に計算、最適な配置人数をはじき出している。その結果、年末年始の休みやゴールデンウイークの前といった繁忙期でも最低限の残業と、本社からの社員の応援でほぼ無事に出荷を済ませられようになったという。

松丸マネージャーは「スタッフごとの生産性のレベルを正しく把握しておかないと、雰囲気だけで仕事が遅いと注文を付けた相手が実は作業スピードが全体の中で早い方だった、という誤ったことになりかねない。人時生産性の見える化で適切な指導も可能になる」と意義を強調する。

大久保部長も「われわれは3PL事業者ではないので繁忙期に人を追加でかき集めて火事場の力を出すことができない。基本は今働いてくれているスタッフで乗り切るしかない。日頃から残業を省くよう努めていれば、今日は1時間だけ勤務を延長してほしいとか、週3日で現場に入っている人にあと1日追加してほしいといったお願いをスタッフも理解し、聞き入れてくれるようになる。まずはわれわれが誠意を見せることが非常に大切だ」と指摘する。


独自開発した台車「華奢凛(キャシャリン)」(きくや美粧堂提供)

後編の記事はコチラから

(藤原秀行)

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