LOGI-BIZ記事レビュー・物流を変えた匠たち⑱きくや美粧堂(後編)

LOGI-BIZ記事レビュー・物流を変えた匠たち⑱きくや美粧堂(後編)

KPIでセンターの残業を徹底削減

※この記事は月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)2017年6月号「物流の働き方」特集で紹介したものを一部修正の上、再掲載しています。役職名や組織名、数値などの内容は掲載当時から変わっている場合があります。あらかじめご了承ください。

自社運営する東京と岡山の物流センターでピッキング作業の負担を減らすマテハンを独自開発するなど、働きやすい職場環境の創出に知恵を絞る。KPI(重要業績評価指標)を駆使してスタッフの人時生産性を精緻に管理し、人員を適正に配置して無駄な残業を徹底的に削減。安定した採用と貴重な労働力のつなぎ止めに成功している。記事を2回に分けて掲載する。

前編の記事はコチラから


きくや美粧堂が東京・平和島に構える物流センター「East Logistics(イーストロジスティクス)」

現場スタッフ参加の委員会で課題解決へ話し合い

2016年からは3カ月に1回、生産性を高めてセンターの業務改善に貢献したスタッフを大久保部長らセンターの社員が推薦し合って選出、朝礼で手作りの表彰状とギフトカードを手渡している。スタッフのモチベーションアップにつなげようとの思いだ。これもKPI(重要業績評価指標)で現場の業務を細かく管理しているからこそ、数字を参考にしながら客観的に選ぶことができる。

ピッキングや梱包などの人時生産性の数字がどう推移しているかグラフ化し、センター内に分かりやすく掲示するなどして、自身のスキルアップとセンター全体の業務効率向上への意識を高めてもらおうと努めている。

松丸マネージャーは「普段から他社の物流センターを視察しているが、生産性を高めている現場でも成績の悪い人をピックアップしているケースが多い。当社も昔は悪いところに目を向けがちだったが、それよりも良い点に目を向けようという方針に転じてきている。生産性向上についても、より頑張ってほしい人にはその人だけに指導し、目覚ましい成果を挙げた人はオープンにして表彰することでモチベーションを高めてもらうよう心掛けている」と話す。

スタッフの立場や意見を尊重することにも腐心している。センター内で法定の安全衛生会議などと併せて、アルバイトら現場スタッフが参加し、庫内で発生しているさまざまな問題を話し合う委員会を開催。その場で出てくる声を現場業務改善のヒントとして活用している。

一例を挙げると、梱包などの作業時に擦り傷が頻繁に起きていることが問題視されたため、物流現場用の安全カッターを導入し、それ以外のものは使用を禁止、1カ所で各スタッフのカッターを管理する方式を採用した。手袋も刷新し、現場のけがを劇的に減らすことにつながった。


カッターを一元管理

委員会のメンバーは定期的に入れ替え、特定の人に片寄らないよう配慮している。松丸マネージャーは「以前は社員とアルバイトの間に壁があり、なかなかアルバイトの不満や要望を聞けなかった。委員会で仕事が特定の分野ばかり続いているとの問題点が明らかになったので、1人のスタッフが梱包やピッキングなどさまざまな業務に臨むクロスファンクションのトレーニングに力を入れることにもつながった」と指摘する。

このほか、表記などが作業ごとにばらばらだった業務マニュアルを刷新し、内容に統一性を持たせることで、社員からスタッフへの指示が人によって異なる事態を防いだり、スタッフを対象にピッキングと梱包で人時生産性の向上キャンペーンを展開して各自の能力アップを競い合ったりと、現場の業務円滑化や活性化に余念がない。

ほかにも、社員とアルバイトの現場スタッフが定期的に面談し、仕事で悩んでいることなどを話してもらうよう努めている。スタッフは面談の前にアンケートへ記入するが、その中で自分の過去の働きぶりを10点満点で自己評価してもらう仕組みだ。

大久保部長はアンケートを実施する背景として「面接の場で過去1年間どうでしたか?と尋ねても、うーん、変わらなかった、で終わってしまう。その前にアンケートでワンクッション置くことにより、仮に自己評価が5点だとすれば、残りの5点は何が足りなかったのか、10点を目指すには何が必要かを聞ける。あまり書いていなくても、こういうことを聞いてほしいのかなとニュアンスが伝わってきたりする。話を進める手掛かりを得られる」と強調する。面談をポーズに終わらせず、実効性あるものにしようと考え抜いてきた結果だ。

大久保部長はこうした労務管理改善などの数々の取り組みが奏功し、離職率も低く抑えられていると強調。現場のモチベーションを高めるための地道な取り組みをいとわない雰囲気がきくや美粧堂の物流センターの素地となっている。

女性社員が面接に参加

センターのスタッフ採用活動に関しても、職場環境の改善と並行してさまざまな工夫を施してきた。同社の採用は主に求人誌を通じて行っている。その募集広告はセンター内を写真入りで紹介したり、業務で取り扱っている化粧品を掲載したりとメーンターゲットの女性に響く内容を全面に打ち出している。日々重ねている働きやすい雰囲気醸成の取り組みを、採用の強力なアピールポイントとしている格好だ。

採用面接も女性が面接官の役割を担うようにすることで応募に来た人が話しやすい環境づくりを心掛けている。アルバイトとして東京のセンターに入った後、社員に登用され、今は採用担当の重責を担っているサプライチェーン部の阿部梨香氏は「私が面接を受けた際はセンター内の見学もなく終わっていた印象。そこからすると現在はだいぶ内容が変わっている。面接官が親身になって不安に感じていることなどを聞き出そうと努めている」と指摘する。

岡山で最近スタッフ2人が自己都合で退職したが、今春に募集を掛けたところ、20人程度が応募し、円滑に後継を採用できたという。

東京のセンターはTRCの物流ビル建て替えに伴い、17年8月に新棟へ拡張移転する予定(編集部注・実際に移転済み)。現場の負担軽減と生産性向上のため、自動梱包機や自律型の搬送ロボットなど積極的にマテハン投資する計画だ。大久保部長は「人が定着してくれるように、業務内容を人に合わせてつくるくらいの感覚だ。当社は物流を差別化の重要な要素と考えているので、これからも働きやすい環境の整備にこだわり続ける」と明言している。


明るさを全面に打ち出した求人広告

(藤原秀行)

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