プロロジス・リート・マネジメント 坂下社長独占インタビュー(後編)
物流施設特化型Jリートの日本プロロジスリート投資法人の資産運用を担うプロロジス・リート・マネジメントの坂下雅弘社長(同投資法人の執行役員兼務)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
坂下社長は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、運営している物流施設で入居企業の従業員に感染者が出ても迅速に建物内消毒などの対応を済ませ、早急にオペレーションを再開できる体制が構築できていると説明。宮城県岩沼市で運営してきた物流施設「プロロジスパーク岩沼1」で発生した火災を受け、入居企業の専有部の管理にまで踏み込んで防火対策を検討するなど、さまざまなリスクへの対応に万全を期していく姿勢を強調した。
同投資法人の目標として、投資家への分配金を毎年3~4%増額できるだけの安定した運用を図るとともに、近い将来に運用資産規模1兆円に到達したいとの考えを示した。インタビューの後編を紹介する。
顧客への踏み込んだコンサルで自動化ニーズを理解
――最近物流の現場で強い関心を呼んでいる自動化の動きは新型コロナウイルスの感染拡大でどのように変わっていくとみていますか。
「コロナがきっかけとなり、これまでの自動化のトレンドがさらに加速してくるのではないかと感じています。自動化設備の普及率が低かったものが一気に高まるでしょうし、ソーシャルディスタンス確保という意味でもやらざるを得ない部分がすごくありますから、どんどん進んでいくと思います」
「去年、スポンサーのプロロジスの中にコンサルティングチームが立ち上げられ、お客さまのオペレーションの中身まで踏み込んでソリューションを提供していますから、お客さまが考えておられることがよく分かるようになってきました。プロロジスに物流施設賃借のご用命をいただく際は、このスペースが欲しいから、どこに何坪持っていますかという入り方ではなく、大きくこういうことを考えているのですが実現するにはどうすればいいでしょうか、という戦略の中でご相談いただけるような関係性がずいぶん築かれてきました。2年後、3年後の物流の姿を一緒に考えていきましょうというような形でコンサルティングを行っているので、われわれもお客さまから学ぶことは多いですし、お客さまのニーズを踏まえて、自動化の面でもどんどん先手を打っていけるという強みはあるのではないでしょうか」
――最近顕著になってきたニーズはありますか。
「ちょっと目立つのは、ECの物流施設をどんどん拡大して、そこにロボティクスを入れていくという動きですね。あとは最近、スポンサーのプロロジスの物件の動きを見ていると、食品関係のニーズが非常に増えてきているかなと感じています。従来型の倉庫、箱型の倉庫だけではたぶん今、ニーズに対応しきれなくなっているのではないでしょうか。フロンガス規制の問題もありますし、コンビニなどで扱う商品がチルドも含めてかなり増えてきて、温度帯の管理をより細かく行う必要があったり、より多い頻度で直接商品を運ばないといけなくなっていたりして、物流施設を集約・統合していく中で自動化システムを入れていくという動きが出てきている気がしますね」
――そうしたニーズにJリートの側面からどう対応していきますか。
「現状では、スポンサーのサイドでそもそも、自動化設備などで常に新しいものを取り入れられるような施設を作ってくれていますから、今のところはわれわれの立場からこうしたものが必要だというものはなく、これからニーズが明らかになっていくでしょう」
プロロジスが展開しているコンサルティングの概要(同社提供・クリックで拡大)
――ECの利用が伸びている半面、アパレル業界などは新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化の打撃を受けています。物流施設のニーズにも影響が及ぶのでは?
「全体のパイが大きく減らない限りは、そんなにわれわれの業界全体として大きな影響はないと思いますし、今のところそういう動きは出ていません。さらに、われわれのポートフォリオはそういう変化に対しては強いと思います」
「これはよく説明させていただくのですが、われわれの物流施設を利用されているアパレル、スポーツ用品、玩具、家電といった業種はほとんどが大手で、業績が伸びているようなところです。他にも、小売業は直接契約いただいている割合が全体の10%ですが、その8割はECのチャネルもお持ちです。賃料減額や支払い猶予の要請といったお話も、そもそも要請の数自体が非常に限定的です。日常生活に不可欠な商品を取り扱っているお客さまが多いという当社のポートフォリオはダウンサイドの影響を受けにくいという実態が今のところ、如実に現れてきているのかなと思います」
「ただ、コロナ禍によるネガティブな影響が長く続くと、企業の設備投資や消費のレベルそのものが下がりかねず、そうなればパイ自体が小さくなり、われわれの事業にも100%関係ないとは言えません。もちろんそうした事態には備えなければいけないでしょう。ただ、相対的に見て影響は少ないということだろうと思います。そういう意味でもJリートで物流セクターが投資家の皆さんに買われているということなのではないでしょうか」
――物流セクター全体として、今後も成長を見込めるとお考えですか。
「特にEC関係の方々が物流施設を使われている比率はプロロジスが主要なデベロッパーの中で一番大きいと思います。ECのお客さまはある程度の事業規模を備え、在庫もたくさんお持ちなので、大型で広い物流施設を適切なタイミングで提供できるということがすごく大事です。プロロジスは開発の段階からうまくそうしたニーズを取り込み、世の中の流れ、お客さまサイドの流れをとらえられたということなんじゃないかなと思いますね」
――宮城県岩沼市で運営していた物流施設「プロロジスパーク岩沼1」で今年火災が起こり、全焼したために建て替えを余儀なくされています。事業への影響は限定的と説明されていましたが、今後物流施設の火災対策にはどう取り組みますか。
「われわれはこれまで、物件の共用部分はもちろん直接管理できるのですが、お客さまがお使いになっている専用部分の設備などは、お客さまに対して火災が発生しないようしっかりメンテナンスしてください、法律を順守してくださいとお願いしてきました。もちろんお客さまにも法律に即してご対応いただいていると思いますが、法律は最低限守るべき内容なので、もう少しレベルを上げて対応しなければいけないと感じています」
「まだ火災原因は明らかにになってはいませんが、われわれの施設をお使いいただいているお客さまご自身もこういうことがあってご心配になられて、プロロジスのオペレーション担当者にご相談いただくというケースも出てきています。専用部分にある設備について、われわれも入り込んで点検や管理のやり方を一緒に考えていくことを目指しており、具体的にそういう動きは始まっています」
「実際のところ、物流施設は頻繁に火を使うわけではありませんので、もともと火事は起こりにくいところではありますが、例えば電気系統ですとか、発火性の高いものが保管されているとか、そういう部分においてはやはり注意していかなければいけません。その注意度をより高めて対応していくということかなと思います」
火災で焼失した「プロロジスパーク岩沼1」の再開発を決定。以前より規模を拡大する計画(写真は完成予想図、プロロジス・リート・マネジメント提供)※クリックで拡大
普段からの入居企業や管理会社との意思疎通が非常時に生きる
――物流施設の管理では言わずもがなですが、新型コロナウイルスの感染防止が社会インフラを止めないとの観点からも極めて重要になっています。
「物流施設の方でも特に共用部の消毒を頻繁に行うことと、お客さまの運営面で、ソーシャルディスタンスを確保してもらうよう働き掛けることにずっと取り組んできています。お客さまがご利用の区画で感染者が出ているところもありますが、ご連絡もタイムリーにいただき、消毒など必要な対策を迅速に行い、比較的遅滞なくオペレーションを再スタートできており、完全にストップすることはほぼありません。施設管理の面でもコロナ禍の影響はあまり出ていないと思います」
――今回のコロナ禍に際して、御社の知見や経験を生かせた部分はありますか。
「普段からのコミュニケーションの部分だと思います。われわれと管理会社、管理会社とお客さま、われわれとお客さまといったように、いろんなやり取りが日々、スムーズに行われています。相談や指示が適時にできるというところが強みではないかと自負しています」
――そうした土壌があるからこそ、コロナ禍のように想定外のことが起きても被害を最小限にとどめられるのでしょうか。
「そうだと思います。1つのところで起きたことを全ての箇所で共有できます。さまざまな情報が共有されることで、管理のレベルが上がっているのではないでしょうか。岩沼の火災の件は極めて残念な結果になってしまいましたが、教訓もしっかりと共有させていただきたいと考えています」
――施設管理の面は投資家からも評価されていますか。
「これはすごくあると思います。火災に関しても、建物が1つなくなっているわけですから、業績にかなりの影響が出ると予想された方が多かったのではないでしょうか。しかし、実際にふたを開けてみたら、もちろんプロロジスグループの中で再建に向けてものすごい人手と労力を要してはいますが、経済的なダメージはあまり出ないようにオペレーションができていますし、保険もこれだけ手厚いものに入っていたことに驚かれたりします」
――物流施設特化型のJリートは引き続き成長すると予想されていますか。
「おっしゃる通り、物流施設に関するファンダメンタルズ(基礎的経済条件)はすごく良好です。ただ、今は消去法で行けば投資できるのは物流施設しかない、物流施設は万能だ、みたいなことが言われていますが、さすがにそれは過大評価だと思います。オフィスやホテル、商業施設がコロナ禍で受けた影響は確かに大きく、相対的に見ても物流施設は好調ですが、テレワークの普及でオフィス需要がなくなるのではないか、との見方も個人的にはかなり行き過ぎではないかと感じています。物流施設だけがこれからもどんどん投資対象として伸びていくということではないでしょうし、あまり一喜一憂せず冷静に、引き続きダウンサイドにも備えながら事業展開していきます」
――今後の具体的な数値目標はありますか。
「あまり明確な数字は言っていませんが、投資家の方々との会話の中では、分配金を着実に増やすという基本方針がありますので、毎年3~4%くらいは増加する形にできればいいなと思います。どんなダウンサイドの局面があっても、底割れしないような運営を続け、プラス3~4%を維持できるのが理想ですね」
「資産規模も明確に、いつまでにいくらという数字はありませんが、今まで積み上げてきた資産が7000億円程度に達しており、1兆円の到達が遠くない将来に見えてきました。安定性がさらに増しますから、それくらいの規模まで行ければいいなと思います。資産規模拡大の観点からは、これまではできていなかったスポンサー以外の外部からの物流施設取得も、もし良い機会があれば検討してみたいですね」
1984年住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入行、2005年プロロジス開発部長バイスプレジデント就任。チーフインベストメントオフィサー マネージングディレクターなどを経て12年6月からプロロジス・リート・マネジメント社長、同11月から日本プロロジスリート投資法人執行役員をそれぞれ務める。
(本文・藤原秀行、写真・中島祐)