低温領域に期待、物流ロボット開発のスタートアップも照準
東証1部上場の投資会社マーキュリアインベストメントは、中堅の優良な物流企業への投資に注力していく方針だ。運営している投資ファンドが2020年、京都・滋賀を地盤とする運送会社のイーテック物流(京都府八幡市)に出資、役員も派遣して一層の成長を後押ししている。
新型コロナウイルスの感染拡大下でも生活物資を輸送し続けるなど、物流業界は社会を支えるインフラ的存在として今後も発展が見込まれると判断。都市部に限らず全国で有望な投資先を検討していく構えだ。
コールドチェーンのニーズが拡大しているのを受け、低温物流を手掛ける運送事業者や倉庫会社を支援することが視野に入ってきそうだ。併せて、伊藤忠商事と共同で組成した不動産・物流分野特化型の投資ファンドが物流ロボットの開発などを担うスタートアップ企業にも照準を合わせている。
イーテック物流のトラック(マーキュリアインベストメント提供)
共同物流拡大など目指す
マーキュリアは05年設立。現在は日本政策投資銀行を筆頭に伊藤忠商事、三井住友信託銀行などが主要株主となっている。国や地域の枠にとらわれず、成長が期待できる事業を支援する「Cross Border(クロスボーダー)」を事業コンセプトに設定。事業自体も特定の分野に絞り込まず幅広い領域を投資の検討対象にしている。
投資のポートフォリオの一環として、中堅企業を対象に事業承継や成長を支援することを目的とした「マーキュリア日本産業成長支援投資事業有限責任組合(通称・バイアウト1号ファンド)」を管理・運営。対象企業に過半を出資して経営陣とともに成長策を検討していくことを基本姿勢に据えている。
例えば、20年3月には岐阜県多治見市の部品メーカー、水谷産業グループへの投資を発表した。同社はアルミニウムや亜鉛などの合金を使った特殊な鋳造品「アルミダイカスト」を手掛けている。アルミダイカストは鉄製の部品よりも軽いため、自動車のエンジンなどに採用されており、今後はEV(電気自動車)向けの需要が増えると見込まれている。マーキュリアはバイアウト1号ファンドを通じ、確実に事業が次世代へ承継される体制の構築を目指している。
イーテック物流は1987年設立。同社ホームページによれば、車両は100台で、約40社を主要取引先に抱えているという。ドライ、チルド、冷凍の3温度帯に対応した物流を展開している。
マーキュリアの事業投資部バイス・プレジデントでイーテック物流の取締役経営企画部長も務めている堀越大祐氏は「トラックの積載率を高めるため、配送した後の帰り便も必ず荷物を獲得して荷室を産めるようにするなど、一段の成長に向けて積極的に取り組んでこられた姿勢も投資を判断する上で大きなポイントになった。荷主企業の物流のフローにがっちりと組み込まれ、堅実に配送業務などを展開している点も評価が高かった」と説明する。
今後はイーテック物流経営陣とも密接に連携しながら、共同配送の拡大などを検討していく構えだ。堀越氏は「冷凍・冷蔵分野はかなりビジネスの広がりがあると思っている。その部分のお客様を開拓していきたい」と意気込んでいる。
イーテック物流の本社外観(マーキュリアインベストメント提供)
マーキュリアはバイアウト1号ファンドと併せて、19年に伊藤忠と共同で不動産・物流業界向け投資ファンド「マーキュリア・ビズテック投資事業有限責任組合(通称・BizTechファンド)」を組成。現状では投資実績の中で不動産領域の比重が大きくなっているが、物流関連でも庫内のピッキング作業をサポートするAMR(自律走行ロボット)の開発を手掛けているスタートアップ企業のRapyuta Robotics(ラピュタロボティクス)が名を連ねている。
マーキュリアはバイアウト1号ファンド、BizTechファンドともに今後も物流領域へ投資していくことに意欲を見せており、バイアウト1号ファンドはイーテック物流に続けるような投資案件がないか吟味している段階だ。今後はマーキュリアがBizTechファンドで投資した物流周辺領域の企業とイーテック物流をつなぎ合わせ、物流業務の効率化や生産性向上を図ることなども視野に入ってくるとみられる。
(藤原秀行)