【独自取材】野村不動産、物流施設の新形態「カテゴリーマルチ型」推進

【独自取材】野村不動産、物流施設の新形態「カテゴリーマルチ型」推進

汎用性残しつつ、自動化など業種別のニーズに柔軟対応

 野村不動産が物流施設の差別化に向け、新たな形態の普及に乗り出している。従来のマルチテナント型をより進化させた「カテゴリーマルチ型」だ。現在一般的となっているマルチ型の汎用性は基本に据えつつ、入居企業の業種(カテゴリー)を物件ごとに特定し、扱う商品の特性などを踏まえた上でオペレーションの効率を最大限高める工夫を凝らすのが大きな特徴だ。

 既にカテゴリーマルチ型として開発、入居企業を獲得できた事例も出ている。同社は「物流が多様化している今、旧来の汎用型ではカバーできない領域が多い。ニーズが増えている自動化にも柔軟に対応できるようにし、施設を将来にわたって使い続けていただけるようにするのが重要だ」と意義を強調。「“ほしい”に応える物流施設」との理念を掲げ、今後も着実にカテゴリーマルチ型の数を増やしていきたい考えだ。


カテゴリーマルチ型と位置付けている千葉県柏市の「Landport柏沼南Ⅱ」(野村不動産提供)

マルチとBTSの良さ備えた“第三の選択肢”に

 野村不動産は「Landport(ランドポート)」ブランドを掲げ、2018年以降で既に9棟、投資総額約1100億円の事業化に着手。首都圏をメーンの事業エリアに設定し、都心部から約30キロメートル圏内に照準を合わせている。幹線道路の国道16号内側が同社にとっての主戦場だ。

 着実に開発を重ね、入居企業も確保できているが、近年は物流施設開発への新規参入が相次ぎ、競争が激しくなっている。用地の取得も困難になってきており、個々の物流施設をより差別化していくことが不可欠となっている。そのための戦略を検討する中で、カテゴリーマルチ型という新たなコンセプトに行きついた。

 同社で物流施設開発の陣頭指揮を執る山田譲二執行役員(物流事業部長)はカテゴリーマルチ型を「マルチ型とBTS型それぞれの良さを兼ね備えた“第三の選択肢”となり得る存在」と解説する。

 マルチ型は一般的に汎用性を重視しているため使いやすく、契約も短期間にできるといったメリットがある。しかし、同社は自動化する際、標準的な「1平方メートル当たり1・5トン」の床荷重では大型設備を導入するのに不安があったり、防火壁やブレース(筋交い)がソーターなどを取り入れる上でレイアウトを阻害しかねなかったりすることを課題として挙げる。

 同時に、より入居企業のニーズに応えられるという点ではBTS側に軍配が上がるものの、契約が長期化する傾向にあることや、作り込むために完成まで時間を要することなどはマルチ型にない課題との見方を示す。

 カテゴリーマルチ型はそうした両タイプの弱みを解消しようと考案された概念だ。一例を挙げれば、将来想定される自動化に適応できるよう、施設開発の段階でキュービクル(高圧受電設備)に対応したり、防火区域や防火壁を最適な形に設定したりといったことを想定している。

 他にも、「常温以外の温度帯の商品を扱う」「プロセスセンターを開設する」「危険物倉庫を併設する」「生産設備や研究用スペースも設ける」「2・5トン以上のフォークリフトを導入している」といった多様な物流の要素を取り込めるよう配慮する方針だ。

開発段階で「通販・アパレル向け」とターゲット想定

 カテゴリーマルチ型の実績の1つと位置付けているのが、16年に千葉県柏市で稼働を始めた「Landport柏沼南Ⅱ」だ。あらかじめ「通販・アパレル」を対象のカテゴリーに設定し、メザニン(中2階)を設けて保管・作業効率を向上させ、季節波動を吸収できるようにすることを念頭に置いて設計した。

 山田氏は「ある程度見込まれる入居企業をリサーチした結果を踏まえ、開発の最初から作り込んでいったが、大手アパレルの方が評価され、入居を決めていただけた」と振り返る。

 一方、このほど東京都青梅市で完成した「Landport青梅Ⅰ」は対象カテゴリーを「工業材・保守パーツ」に据え、ウイング車による入出庫がスムーズにできるような設計を施したほか、スチールコンテナや2・5トンフォークリフトといった相当重量のあるものも支障なく扱えるよう、床荷重を増すなどの工夫を凝らしている。

 その近隣に開発する「Landport青梅Ⅱ」は「青梅Ⅰ」と全く異なる「飲料・パレット重量物」を対象にしており、荷姿に応じた縦搬送設備などを検討している。3施設に見られるように、汎用性と独自性をバランスさせた施設を目指している。


カテゴリーマルチ型の理念を説明する山田氏

豊田自動織機とパートナー組みオペレーション設計も

 自動化への対応においては、フォークリフトなど数々のマテハン設備を手掛けてきた豊田自動織機とパートナーを組み、施設ユーザーの業務特性に合った設備の導入提案や庫内の最適なオペレーション設計といった、コンサルティング的なサービスを展開していく構想だ。

 山田氏は「当社の理想としては、やはり50年くらいは施設をお使いいただきたい。今の時代にフィットするからといって、あまりに最初から導入する自動化設備をがちがちに決め過ぎると、将来は陳腐化し、かえって業務の生産性を落とし、使いづらい施設にしてしまうことにもなりかねない。豊田自動織機さんと組むことで、環境変化に即した可変性のあるソリューションを提供できる」と持論を展開する。

 野村不動産としては、将来の理想として、顧客企業のカテゴリーごとに効果が期待できる自動化の機器やシステムを物流施設と合わせてパッケージで提供することも目指していく構えだ。

 「物流施設事業を10年ほど続けてきて、物流と一口で言っても、結構施設を使われる方々の使う設備ややりたいことにだいぶ幅があるとあらためて感じている。1つの施設(の在り方)を使ってくださいと言い続けるモデルは限界に来ている気もしている。単に空間を提供するだけではなく、その空間をどう使うかまで踏み込んで提案できるようにすることが事業成功の鍵を握っている」と語る山田氏。同社の業界に先駆けた取り組みは、デベロッパーも庫内業務効率化のソリューションまで踏み込むことが必須になっている現状を象徴したと言えるかもしれない。

(藤原秀行)

首都圏で2018年以降の完成を見込む「Landport」ブランドの物件

(データは今年11月時点)

▼2018年

 施設名    所在地    延べ床面積(坪)

「青梅Ⅰ」   (東京)    18489※完成済み

▼2019年

「川口」    (埼玉)     5972

「東習志野」  (千葉)    22604

▼2020年

「習志野」   (千葉)    43179

「青梅Ⅱ」   (東京)    20299

「厚木愛川町」 (神奈川)   28914

「東雲」    (東京)     6983

▼2021年

「青梅Ⅲ」   (東京)     未定

「越谷」    (埼玉)     9712

出所)野村不動産資料

物流施設/不動産カテゴリの最新記事