【独自取材】福岡市近郊で相次ぐ開発計画、旺盛な需要が追い風に

【独自取材】福岡市近郊で相次ぐ開発計画、旺盛な需要が追い風に

九州エリア物流施設マーケット動向を探る

九州エリアで福岡市近郊を中心に先進的機能を持つ物流施設のニーズが高まっている。アジア諸国との輸出入が拡大基調にあるのに加え、新型コロナウイルスの感染拡大を受けたeコマースの利用増加も旺盛な需要につながっているようだ。

最近はデベロッパーが相次ぎ開発計画を公表している。これまで大型案件の供給量が少なかった影響で既存の物流施設は満床での稼働が目立つだけに、今後も荷主企業や物流事業者が物流適地を探す動きが続きそうだ。マーケットの動きを探った。

空きスペースが2年間なし

「空港から新拠点までほとんどタイムラグがないくらいの勢いで貨物の取り扱いができるスピード感は、今まで以上にお客様のニーズを増やしていけるのではないか」。今年6月、西日本鉄道が福岡市の福岡空港に至近なエリアで構える予定の新たな物流施設「福岡ロジスティクスセンター」の起工式典に参加した同社の北村慎司専務執行役員(国際物流事業本部長)は強い期待をのぞかせた。

同施設は清水建設が自社保有用地を生かして開発する延べ床面積が約1万1600平方メートルの「S・LOGi(エスロジ)福岡空港」を西鉄が1棟借りする予定。稼働開始は2022年8月を見込んでいる。北村氏ら西鉄関係者が着目するのは、その立地の良さだ。

新施設は福岡空港の貨物地区から約1・6キロメートル、博多港から約7キロメートルと至近。式典に同席した清水建設の鷲見晴彦執行役員投資開発本部長は「国際物流事業を拡大させたいという西鉄さんの思いを実現できると自信を持っている」と強調する。


「福岡ロジスティクスセンター」の完成イメージ(西鉄提供)

福岡県内の地元経済界関係者は「特に都市部では新しい倉庫がなかなか供給されないだけに、この案件の優良さが際立っている」と指摘する。その言葉を裏付けるように、シービーアールイー(CBRE)が7月末に公表した調査結果でも、福岡圏(福岡、佐賀の両県を中心とするエリア)の延べ床面積5000坪以上のマルチテナント型物流施設を見ると、平均空室率は今年6月末時点で0・0%。調査上は19年6月以来、2年にわたり、四半期ごとに空きスペースがない状態が続いている。仮にテナントが抜けたとしてもすぐに次の企業が決まっていることになる。

4~6月期も2棟が満床で竣工したほか、22年4~6月までの向こう1年間に竣工する3棟もテナント企業が内定済みという。CBREは「テナントニーズに供給が追い付かない状態。一部で転貸募集区画はあるものの、まとまった面積を求める企業は22年下半期以降に竣工する物件を検討せざるを得ない」と解説する。別の不動産業界関係者は「福岡市近郊の広い範囲で開発用地を探している」と明かす。


福岡圏の賃貸物流施設市場動向の推移(CBRE資料より引用)

経済産業省や農林水産省のデータによると、九州の半導体などの電子部品の輸出額は19年度が9273億円で10年度の約2・6倍に増えている。農林水産物・食品の輸出額も19年度に974億円で12年度の約2・3倍になった。輸出品の物流需要は非常に旺盛だ。西鉄の林田浩一社長は福岡ロジスティクスセンター新設の背景として「半導体関連はかなりの量が動いている上に、農産物関連も活発」と話す。新型コロナウイルスの感染拡大の影響はあるものの、輸出の成長基調は持続しているようだ。

そうした状況を背景に、デベロッパーが九州、特に福岡市の近郊エリアで物流施設の開発に乗り出す動きが広がっている。日本GLPは今年2月、福岡県粕屋町で新たな物流施設「GLP福岡粕屋」の工事を開始した。地上4階建て、延べ床面積は約4万1000平方メートルで22年4月末の竣工を見込んでいる。

九州自動車道の福岡ICから約1・5キロメートルの至近に位置し、福岡市内に加えて九州全域へのアクセスに優れた立地。周辺では既に物流企業の営業拠点などが立ち並んでおり、“物流適地”としてのポテンシャルの高さを示している。

同社はエリア配送および広域配送の拠点としても活用できるとみている。楽天グループがこのほど、1棟全体を賃借する方針を開示しており、地理的な好条件などを考慮したようだ。コロナ禍を受けたeコマースの利用増は九州圏でも見られ、都市近郊に拠点を構えることで物流取扱量の拡大に対応しようとしている。


「GLP福岡粕屋」の完成イメージ(日本GLP提供)


「GLP福岡粕屋」の建設地(今年6月撮影)

メープルツリーインベストメンツジャパンは昨年11月、福岡県筑紫野市で九州初案件となる地上4階建てのマルチテナント型物流施設「筑紫野ロジスティクスセンター(仮称)」2棟を建設する計画を公表した。2棟合計の延べ床面積は約23万1600平方メートルを予定しており、九州最大規模のプロジェクトとなる見込み。1棟目が23年初頭の竣工、2棟目が24年春までの開業をそれぞれ想定している。

開発予定地は福岡市内などへの飲料水供給のために造られた調整池「天拝湖」のほとりに位置している。現地を訪れると、都市部の喧騒とは全く無縁な、静かな環境が広がる。しかし、実際には九州縦貫自動車道の筑紫野ICから1キロメートル以内で、順調に行けば福岡空港まで30分以内に到着できる見通し。利便性は非常に高いエリアとなっている。


「筑紫野ロジスティクスセンター(仮称)」の完成イメージ(メープルツリー提供)


建設予定地周辺(今年6月撮影)

ESRも今年7月、福岡県朝倉市で新たにマルチテナント型物流施設「ESR福岡甘木ディストリビューションセンター(DC)」を開発するプロジェクトを発表した。同社としては九州地方初進出となる。

地上3階建て、延べ床面積は7万平方メートルで22年12月の完成予定。大分自動車道の甘木ICから約1・7キロメートルに位置し、JR博多駅や福岡空港、博多港まで車で40分圏内。九州全域への配送に強みを持つ立地だ。


「ESR福岡甘木DC」の完成イメージ(ESR提供)

東京建物は8月、やはり九州初案件として、福岡空港東部の福岡県須恵町で鉄骨造の地上3階建て、延べ床面積約1万6600平方メートルの「(仮称)T-LOGI福岡」を建設する予定を発表した。22年4月末の完成を予定している。

九州自動車道・福岡高速の福岡IC、大宰府ICからそれぞれ約9キロメートル、JR博多駅から約13キロメートルに位置。SGホールディングス(HD)傘下の佐川グローバルロジスティクス(SGL)が1棟借りすることが内定している。


「(仮称)T-LOGI福岡」の完成イメージ(東京建物提供)

SGHDグループで物流施設開発を手掛けるSGリアルティと三井不動産は8月、初の共同開発案件として福岡県粕屋町で物流施設「MFLP・SGリアルティ福岡粕屋」を建設すると発表した。佐川急便の営業所として利用していた敷地内で地上4階建て、延べ床面積は約3万6100平方メートルの規模を想定している。竣工は22年9月の予定。

日立物流九州が1棟借りでの入居を決めており、同社としては福岡エリア最大の拠点になる見込みだ。九州自動車道の福岡ICから約1キロメートルで、福岡都心部を含む九州全域への配送に対応可能。


「MFLP・SGリアルティ福岡粕屋」の完成イメージ(SGリアルティ提供)

九州は福岡など各県の間を高速道路ネットワークが接続しており、福岡市近隣エリアでも物流施設の適地が期待できる。デベロッパー各社が打ち出している物流施設開発も、そうしたエリアの特性を最大限生かした計画となっている。あるデベロッパーの幹部は「首都圏ほどではないが、高速道路IC近隣の用地取得競争が今後さらに激しくなることが予想されるだけに、対応を強化する必要がある」と語る。地元自治体からも雇用対策として物流施設の誘致に動く例が見られ、九州エリアでも特に福岡周辺で新たな物流適地の開拓が進みそうだ。

大規模災害のリスク見極めが重要

主要高速道路の結節点となっている鳥栖JCTが存在する佐賀県の鳥栖エリアも福岡と並ぶ九州の代表的な“物流銀座”の1つ。以前からデベロッパーが物流施設を供給してきたが、その動きは今も続いている。

三井不動産としては九州で2拠点目となる「三井不動産ロジスティクスパーク(MFLP)鳥栖」が今年3月、鳥栖市内に完成した。大手製粉会社工場の跡地を活用し、地上2階建て、延べ床面積は約3万5000平方メートル。近隣にはJR貨物の鳥栖貨物ターミナル駅が存在するなど、物流施設としての存在感が目立つ。

同エリアでは4月にも、大和ハウス工業が別のメーカー倉庫跡地に地上2階建て、延べ床面積約5万平方メートルの「DPL鳥栖」を竣工させた。いずれの施設も貸し床は順調に埋まったようだ。


「MFLP鳥栖」(今年6月撮影)

ある大手デベロッパーの関係者は、鳥栖に引き続き注力していく姿勢を見せる一方、「鳥栖は開発の余地が限られてきており、既存の物流施設との競争も激しいだけに、他のエリアにも着目する必要がある」と強調。具体的な例として、鳥栖から数キロメートル圏にある福岡の小郡エリアを挙げている。実際、プロロジスやシーアールイー(CRE)が同エリアで物流施設開発を打ち出しており、今後も追随する動きが見られそうだ。

ただ、九州に関しては、近年は豪雨などの大規模災害に見舞われるケースが相次いでおり、物流施設開発に際しては災害リスクをより厳密に見極める重要性が高まっている。前述の大手デベロッパー関係者も「テナント企業の間ではBCP(事業継続計画)の観点から東日本だけでなく西日本にも複数拠点を構えるといったケースがあるだけに、開発エリアの特性をしっかり確認し、強固な災害対応を講じていることをアピールしていく必要がある」と力説している。

(藤原秀行)

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