窮地を救う「物流テック」、スタートアップ支援で加速に期待

窮地を救う「物流テック」、スタートアップ支援で加速に期待

スローガン先行の印象否めず【検証・岸田内閣発足(後編)】

岸田文雄内閣が10月4日、正式に始動した。新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けている国民生活や経済の立て直しが喫緊の課題となる。「安倍~菅ライン」からの政策の転換も見込まれる中、物流業界に今後どのような影響が出てくる可能性があるのかを、これまでの岸田首相の発言内容などから前後編の2回に分けて探った。


衆参両院で首相に選出された後、官邸に初めて入った岸田首相(首相官邸ホームページより引用)

地方からデジタル化を構想

「成長を支えるスタートアップ企業を増やしていく必要がある」。岸田首相は自民党総裁選挙を戦っている際、経済政策について問われ、スタートアップ企業支援に繰り返し意欲をのぞかせた。

岸田首相は「新自由主義からの転換」「成長と分配の好循環」といった題目を並べて実現の重要性を力説しており、金融所得課税の見直しに言及していることなどから、一見すると経済成長を促すための構造改革にはあまり熱心ではないとの見方がインターネットなどで広がっている。岸田首相の就任後、日経平均株価の下落が続いている要因の1つには、岸田首相のそうしたイメージが投資家に嫌気されていることがあるとの見方も株式市場関係者らの間で浮上している。

しかし、成長戦略の中身を見ると、スタートアップ企業の徹底支援を明言するなど、基本的な姿勢として新技術の研究開発・実用化、業務のデジタル化を促進することを鮮明にしている。具体策としては、異業種・異分野の企業や団体などが知識やノウハウを持ち寄り、革新的な技術やサービスの開発を図るオープンイノベーションへの税制優遇などを想定しており、「安倍~菅」路線を継続する姿勢が透けて見える。

深刻な人手不足など課題が山積みの物流業界は、輸配送や保管の共同化、物流機器の標準化、ロボットなど自動化・省人化を物流事業者と荷主企業がタッグを組んで推し進めていくことが不可欠となっている。そこでは、過去の慣例にとらわれない、スタートアップ企業の柔軟な発想や大胆な行動力が重要な意味を持つ。

「これだけデジタル化が遅れ、改革が手つかずになっている業界は珍しいだけに、自分たちが活躍できるフィールドが広大に残されている。やりがいや社会的意義も非常に大きい」。物流領域の自動化を促進するロボット技術開発に取り組むスタートアップ企業の創業者は意気込みを語る。それだけに、起業や新たな技術の実証をより容易にする法制度への改正などが引き続き求められる。

「先端科学技術の研究開発に大胆な投資」

例えば、荷物配送への応用を目指す動きが広がっているドローンに関しては、政府は2022年度をめどに人口密集地の上空をドローンが補助者なしに操縦者の目視外まで自律飛行できるようにする「レベル4」を解禁する準備を進めるなど、産業利用を後押しするための制度確立や規制緩和を加速している。

あるドローンメーカーの幹部は「日本で政府がここまでスピード感を持って規制の見直しなどを進めるのは珍しい。あまりに前のめりなので率直に言って民間の方が逆に技術開発などで付いていけていない側面もある」と語る。宅配ロボットも公道を走行できるよう法整備が進められている。

ドローンやロボットに加え、AIを駆使したラストワンマイルの配送経路最適化、在庫管理の高度化といった「物流テック」の開発が加速している。ドローンやロボットに見られるような政府の積極的な支援体制が継続・強化され、スタートアップ企業支援の拡充につながれば、物流テックもより広がることが期待できる。大企業などとの連携で物流テックが新たな展開を見せる可能性も広がる。

岸田首相は10月4日、就任後初の記者会見でも「科学技術とイノベーションを政策の中心に据え、グリーン、人工知能、量子、バイオなど先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行う」と明言した。高速通信規格「5G」の整備などで地方からデジタル化を進めて地域活性化につなげる「デジタル田園都市国家構想」も打ち出しており、物流業界にとっても基本的にプラスの材料となり得る。

ただ、スタートアップ企業支援やデジタル化にしても、スローガン先行の印象が否めず、「具体的な政策内容のイメージがわかない」といった声は経済界からも聞かれる。10月末に衆議院選挙の投開票を控えており、政策の細かい内容を詰めるのは選挙後になる公算が大きい。まずは補正予算や年末の2022年度当初予算編成と税制改正で、岸田首相のスタートアップ企業支援やデジタル化加速の本気度が試されることになりそうだ。


新内閣の閣僚と記念撮影に応じる岸田首相(首相官邸ホームページより引用)

(藤原秀行)

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