【独自取材】郵船ロジスティクス、東南アジアで「ハラル物流」展開

【独自取材】郵船ロジスティクス、東南アジアで「ハラル物流」展開

3カ国で公的機関から認証取得、付加価値向上策と位置付け

 郵船ロジスティクスが、日系物流企業の中で率先して、イスラムの戒律に沿った物流サービス「ハラル物流」を東南アジアで展開している。イスラム教徒(ムスリム)が多く生活しているマレーシアやタイ、インドネシアでサービス拡大の布石を着々と打っている。

 東南アジアは同社の収益を支える重要なエリアで、今後も経済成長が見込まれるだけに、物量増加が期待できる食品や化粧品などの取り扱い拡大を目指し、基盤整備やサービス内容拡充に注力している。ハラル物流は物流サービスの付加価値向上策と位置付け、ムスリムの人たちへ細やかに配慮しつつ、ニーズを確実に捉えたい考えだ。

倉庫に専用の手洗い場やマテハン機器を導入

 ハラルはイスラムの戒律に合致していることを表している。ハラル物流は、倉庫で荷物を保管する際にイスラム教で忌避されている豚肉があるエリアには絶対に置かないなどのルールを守ることで、ムスリムの人たちが安心して食品や化粧品などを購入できるよう物流の面からサポートするのが特徴だ。

 倉庫の保管や仕分け、発送などの各工程で専用の手洗い場やマテハン機器を導入し、トレーニングを受けたスタッフがオペレーションを担当。トラックもイスラム教の戒律に従って洗浄した上で、アルコールは決して積まないようにすることなどを順守。出荷や配送の経路を追跡するトレーサビリティーの確保にも努めている。

 郵船ロジスティクスは2015年4月、マレーシアで運送、倉庫の両業務において、公的機関からハラルの認証を取得。両業務で同時に認証を得られたのは日系の物流企業で初めてという。さらにタイでも17年、基幹港湾のレムチャバン港近隣にある倉庫の業務でハラルの認証を取得した。

 インドネシアも公的機関から首都ジャカルタ近郊の工業団地にある倉庫の業務でハラル認証を17年に獲得。やはり日系物流企業としては初となる。同国では既に、ジャカルタ港や空港を発着する海上・航空フォワーディングで同認証を得ており、同国内でハラル物流を展開できる領域が広がった。東南アジアの中でもイスラム教徒が多く生活している3カ国で、ハラル物流の基盤が整備されたことになる。他国での対応拡大についても検討している。


ハラル認証を取得したインドネシアの倉庫(郵船ロジスティクス提供)

「食品物流の新たな選択肢に」

 同社第一総合開発営業部の鶴巻剛志氏は「ハラル物流を展開したからといって急激に国際物流の売り上げが伸びるわけではないが、商品がどのように運ばれたかの経路や保管状態をトレーシングできれば、ムスリムの方々にとって商品の購入を検討する際の判断材料を提供することが可能となる」と意義を強調。

 「東南アジアは6億人以上の人口があり、今後は中間層がさらに増えてくるだけに、時流に乗り遅れず、今からハラル物流の体制を整えておくべきだと考えている」と真意を説明する。宗教が絡む話だけに、現地の歴史的経緯なども踏まえつつ、事業拡大は慎重に検討、準備していく構えだ。

 日本の小売業やメーカーがハラルの加工食品を扱う際に同社が物流業務を担当するなどの事例も出ているという。鶴巻氏は「食品の物流全体としては、ASEAN(東南アジア諸国連合)という巨大市場で柱の事業に育てていきたいと全社で気合いが入っている。その中でハラル物流を一つの選択肢としてお客さまに提示できるのは大きな意味がある」と意気込んでいる。


ハラル物流の狙いを説明する鶴巻氏

(藤原秀行)

 

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