【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】大和ハウス工業・浦川取締役常務執行役員(前編)

【独自取材・物流施設デベロッパーのキーパーソンに聞く】大和ハウス工業・浦川取締役常務執行役員(前編)

「地方でも開発の可能性が数多く存在している」

大和ハウス工業の浦川竜哉取締役常務執行役員(建築事業本部長)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

浦川氏は、新型コロナウイルスの感染拡大下で企業の設備投資が手控えられる中でも、先進的な機能を持つ物流施設の需要は堅調に推移していると指摘。リモートワークなどを活用し、物流施設事業は大きな支障や遅れがなく進められていると説明した。

また、同社が以前から注力している都市部と地方エリア双方での積極的な開発を継続する方針を表明。地方エリアは「いろんなところに(開発の)可能性がある」と指摘、需要の掘り起こしに強い意欲を見せた。発言内容を3回に分けて紹介する。


インタビューに応じる浦川氏(中島祐撮影)

30~40年供給がなかったエリアに需要が溜まっている

――日本全体が新型コロナウイルスの感染拡大に影響され続けた1年でしたが、御社の物流施設事業を振り返ってどのように感じますか。
「やはり設備投資全般がちょっと遅れ気味になってきているなということは感じます。ただ、その中でも物流施設は比較的、堅調に推移したと思います。やはり、コロナで開発の打ち合わせがなかなかできないといった影響はありますが、その分、リモートワークが進み、海外の物流施設事業についても日本のお客様とわれわれと現地のスタッフの3者間で、リモートで会議を開くようになりました。物流施設の地鎮祭や竣工式もリモートになりました。皆さん、ウィズコロナという形で割り切った1年だったんじゃないのかなという気はしますね」

――御社の物流施設開発のペースが遅れたことはありますか。
「全く変わっていません。今まで通りですね、食品、医薬品、EC関係といったところは堅調に需要が伸びていきました」

――そうした領域はこの先も物流施設に対する需要が見込めそうですか。
「そうですね。われわれの業界の中でもいろんな意見があります。私はどちらかというと慎重派だと思いますが、例えばシービーアールイー(CBRE)さんが物流施設のテナント企業に対して調査を実施された結果、今後倉庫面積や拠点を拡大すると回答した割合が7割に上りました。その理由を見ると、6割以上が荷物量の拡大を挙げており、需要は旺盛だと思います」

「これだけ大量供給があると、物件によって差別化が結構進んできているのかなという気はしますね。ドライの倉庫に関しては、汎用型であるマルチテナント型の限界というのでしょうか、やはり自分たちのニーズに即したBTS型の物流施設が欲しいという要望も復活してきてるように思います。例えば、当社が首都圏で手掛けている、ある物流施設は建機メーカー向けBTS型として開発していますが、建機の需要が国内外ともに堅調で増産されており、クレーンを物流施設内に導入して階高も10メートルくらいにしようとしています。需要が細分化してきているように感じられます」

――物流施設と言えば巨大なマルチテナント型がメーンのような印象ですが、BTS型も引き続きニーズがある?
「増えていると思いますね」

――既存倉庫は冷凍・冷蔵も含めて老朽化が進んでいますが、なかなか建て替えが進んでいません。そうした状況では、引き続き新築の物流施設のニーズがかなり見込めるのでは?
「お客様がお持ちの古い倉庫を当社が建設業として建て替えるケースはありますが、古い倉庫の建て替えをデベロッパーとして手掛けるのは、そもそも土地の入手が困難なので圧倒的に難しいんです。区画整理事業への参加といった手法を使い、自ら物流適地を創出していく方が円滑に進められます」

「以前から申し上げている通り、当社は3大都市圏だけではなく、北海道から沖縄まで全国各地で物流施設開発を進めています。一例を挙げれば岩手や福島、富山、長野、香川といったエリアでも物流施設のプロジェクトを展開している。そうしたエリアでの開発の手法としては、当社単独で乗り出す場合、工業団地を開発して生産施設など県内外の企業を誘致し、そこに物流需要を創設するという、物作りのところから物流需要を創出するようなこともやっています」

「今まで30年、40年、最新鋭の物流施設に入りたくても供給がなかったエリア、そういったところにはやはり地元の企業の方々のニーズが溜まってる場合が結構ありますので、そういった需要にお応えしていきます。例えば岩手では、滝沢市から矢巾、花巻、北上、金ケ崎といったエリアでも今、物流施設事業を手掛けています。こうしたエリアでも、なかなか新築の倉庫が供給されなかった中で、借りたくても借りれなかったという地元のニーズがあります。そうした需要にお応えしていくのは、ちょっと他のデベロッパーとは違うところかもしれません」

「われわれは全国71カ所に事業所を展開していますので、そうした地域密着型の土地情報、テナント情報を仕入れることが可能です。地方の細かいニーズを拾い上げた物流施設作りにも引き続き注力していこうと考えています。いろんなところに可能性があります」


今年1月に公表した、沖縄県豊見城市で開発するマルチテナント型物流施設「DPL沖縄豊見城」(左)と「DPL沖縄豊見城Ⅱ」の完成イメージ(大和ハウス工業提供)。「沖縄豊見城」は2022年3月、「沖縄豊見城Ⅱ」は22年8月の竣工予定

冷凍・冷蔵倉庫はまだまだ足りていない

――東北エリアだけ見てもさらに開発の余地がありそうですか。
「そうですね。やはり東北自動車道は非常に奥行きがありますから、埼玉の浦和美園あたりから久喜、加須、宇都宮、福島、須賀川、仙台、郡山、仙台、岩沼から岩手まで幅広いエリアが対象になっています。他にも四国の香川ですとか、富山の射水といったエリアでもプロジェクトを手掛けていきます。長野の千曲でも新たに着手しますし、新潟、岡山の玉島、広島、山口の岩国、防府、そういったエリアも展開しています。地方に強い大和ハウスの特色を生かしていきたいですね。やはり営業拠点を置いて地域密着で進めていかないと地方の開発は容易ではありません」

――それはマルチテナント型の「DPL」、BTS型の「Dプロジェクト」の両方ですか。
「両方が対象ですね」

――物流施設は近年、ドライに加えて冷凍・冷蔵のニーズが高まっています。そこは差別化のポイントとして重要度が増していると思います。御社もかねて冷凍・冷蔵対応に力を入れる姿勢を見せてきましたが、今後どのように対応していきますか。
「冷凍・冷蔵は結露の問題などをクリアしなければいけませんから、ドライ倉庫より高い技術力と深い経験が求められます。決して簡単ではありません。特にマルチテナント型のドライ倉庫の一部区画を冷凍・冷蔵に変えるのは技術を必要とします。この辺りはわれわれが比較的、得手としてるところですね。冷凍・冷蔵設備も、テナント企業が導入されるケース、われわれが工事も含めて手掛けるケースと、案件によって様々な対応をしているのも、われわれならではの物流センターの作り方の一つですので、この点は常に取り組んでいきたい。冷凍・冷蔵倉庫はまだまだ足りていないと思います」

中編に続く)

(藤原秀行)

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